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午後の授業をすべて探究学習に

 来年度から東京都渋谷区の全区立小中学校で、月曜日から金曜日まで午後の授業を探究学習の「シブヤ未来科」に充てることが、12月27日までに教育新聞の取材で分かった。文部科学省の「授業時数特例校制度」を活用しながら、総合的な学習の時間を年間70時間から約150時間に拡充するなどして、午後の時間を中心に探究学習を充実させていく計画だ。教育課程をこれほど大胆に探究学習にシフトさせるのは全国でも初の取り組みとみられる。

「全国初、午後の授業は「探究」に 来年度から渋谷区の全小中学校」 
2023年12月27日教育新聞デジタル

これは実に画期的な取り組みです。
学習指導要領の本来の趣旨からすれば正しい選択だろうと思います。

それにしても、区内の全小中学校で一斉に始めるというのはかなりの英断です。
こういう場合、どうしても中学校が反対するものです。
入試に対応できるのかという不安があるからです。

また、従来の知識注入型の授業に慣れてしまったベテラン教員にとっては、とんでもないことと受け止められたかもしれません。
そこをクリアし具現化したのはすごいことです。

東京都は、かなり前から公立離れが進んでおり、学校によっては半数近くの子が私立中学校に進学すると聞いたことがありますから、このまま何もしないのではなく、積極的に公立の良さをアピールしようとしたのかもしれません。

この記事によれば、区内の学校のなかには、自由進度学習を取り入れているところもあるとのことですから、午前中の教科の授業も個々の子どもに合わせた展開となり、一人ひとりの学力も伸びるでしょう。
昔と違って、その子に合わせたプリントを自由に取り出せたり、作成したりするソフトもあります。
それらを活用すれば、基礎学力の向上にもかなりの効果が期待でき、教員の負担もさほど大きなものにはならないでしょう。

問題は、午後の授業を教員がどう創っていくかということでしょう。
記事の中でも指導主事が「探究基礎、企業などと連携した豊かなホンモノ体験のところが、一番、教員の負担が大きくなるだろう」と述べています。
しかし、新しいことを始める時は必ず戸惑いはあるものです。
教員がすべて教えなければならないという意識を変えるには絶好の機会であるとも言えます。

公立離れが進み、不登校が過去最多という現実は、公立学校の相対化が急速に進んでいることを表わしています。
手をこまねいてじっとしている方がよほど危険です。

ただ、一つだけ気になることがあります。
それは、午後の授業のやり方がわからないために民間企業に依存しすぎないかという点です。
苦しくても自分たちで試行錯誤する姿勢がなければ、子どもたちは教師から離れていくでしょう。

また、これは杞憂かもしれませんが、民間企業に頼れば頼るほどアメリカの失敗を踏襲する布石になってしまうことも頭に入れておく必要があると思います。

アメリカはかつて自然災害等に乗じて、チャータースクール制を広範囲に導入し、成果を挙げられなかった学校を民間に実質的に移譲してしまった結果、教員が大量解雇されたり、配布物に自社のコマーシャルを入れたりする事態にまでなってしまいました。いわゆる、ショック・ドクトリンというやりかたです。

ショック・ドクトリンは危機に乗じて行われるものですが、その背景には新自由主義における競争と自己責任の理念があります。
公立学校の危機に乗じて、企業が教育界に進出を図る可能性はゼロとは言えません。

 広島県教育委員会は2月6日、日本マクドナルドと教育活動で連携していくための協定を結んだ。児童生徒の職業体験や教員研修などで協力してもらうという。同社が教委とこうした協定を結ぶのは全国で初めて。

「広島県教委と日本マクドナルドが協定 職場体験や教員研修で協力」
2024年2月8日教育新聞デジタル

同社は、アメリカのチャタースクールを拡大した際、積極的に参入してきた企業の一つです。
そのことを知ったうえで、協力を依頼する場面と絶対に譲れない線をどうやって引いていくかを真剣に考えなければなりません。

別に企業と連携することを否定するわけではありませんが、教員が教員としてやらなければならないことを、しっかりやれる力をつけておく必要があるということです。

渋谷区の取り組みは、非常に価値のあることだと思います。
だからこそ、今一度一人ひとりが公教育とは何かについて正面から向かい合う姿勢が求められているのです。


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