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私の『ルックバック』

小学五年生の時、私も漫画を描いていた。

クラスメイトに見せると、大好評で、「面白い面白い」と言ってもらい、みんな争って私の漫画を読みたがった。
「じゆうちょう」を切って作ったイラストカードは、みんなの取り合いになった。
こんなキャラクターだ。

私は小学校の中で、「漫画家の先生」だった。
将来はクリエイティブな仕事に絶対つくと思っていた。

だけど、五年生の三学期に、バスケ少年が転校してきた。

バスケ少年に私のカードをあげると、
「ふうん」とぺらぺら眺めてから、机の上に放った。

「そんなんより、バスケの方がおもろいで」

少年は、レイカーズのパーカーを着ていた。
そんなものを着ている子どもは、他に誰もいなかった。

男の子たちはみんなバスケを始めた。
私はしばらく、一人で漫画を描き続けていたけれど、誰にも読まれなくなったので、「自分は間違っているのか」という気がしてきた。

私の「ファン」だったクラスメイトたちは、バスケ少年の取り巻きになって、にやにやと私を遠くから眺めるようになった。

中学に上がると、私は漫画を描くのをやめてしまった。

そう、藤野ちゃんのように。

私の人生には、京本は現れなかった。
きっと、他の多くの人たちと同じように。

私には、「ルックバック」する過去なんてない。
だけど、ひとりずっといつまでも漫画を描いている藤野ちゃんの背中を見ていると、涙が溢れて止まらなくなる。

あの場所に、たぶん私もいた。
きっと、他の多くの人たちと同じように。

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大純はる
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