350字小説『また逢いましょう』
やっとこの列車に乗れた。
指定された部屋は狭いけど、シンプルで清潔だ。
荷物をベッドの上に広げていたら
「チケットを拝見します」と車掌が入ってきた。
バッグからチケットを出して渡すと、少し驚いたような顔をした。
「ずいぶん遠くまで行かれるのですね。あそこは確か」
「ええ。40年ほどかかります、着くまで。ここへは戻らない覚悟で乗りました」
「そうですか。どなたか、お身内が?」
「はい。大事な人が先に」
「なるほど…。どうぞ、お元気で。良い旅を」
「ありがとう」
ソファに腰掛ける。
窓の外は美しい星空。
私はこれから40年もの間、この列車に乗り続ける。
「…生きていてね」
手紙は届いたかな。
駅まで迎えに来てと書いておいた。
きっと来てくれる。
あなた。
もう一度、逢いたい。
どうか、あなた。
40年後に。
記憶の果てで逢いましょう
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