【エッセイ③】祖母と万歩計
最近、歩数計を購入した。歩数計とは、歩く振動を測定し、歩数として自動的にカウントしてくれる装置のことだ。散歩が趣味と言いつつ、健康のために歩いてんじゃないからと今まで気にも留めなかった。
先日実家に帰った際、祖母が腕時計型の歩数計を使っているのを見かけた。見ていたら、なんだか自分も欲しくなってきた。祖母の使っている歩数計は山佐時計計器製で、商標名で万歩計と呼ぶらしく、生協のカタログで購入したそうだ。「万歩計」や「生協」という響きが懐かしくて、くすぐったい。小学生の頃に戻った気分だ。
アマゾンで調べてみると時計型や板状のもの、たまごっちみたいに可愛らしいものまであり、種類は豊富だった。価格帯も幅広く、百均で買えるものから一万円近くするものもある。値段が上がるほど機能が増えていき、スマホとBluetoothでつながって脂肪燃焼量や目標活動カロリーを算出してくれるらしい。近くの百均に探しに行ったが売っておらず、結局ネットでオムロン製の歩数計を購入した。板状で、機能も一番シンプルなものだ。グレーと黒の配色がかっこ良い。それでいて、手のひらサイズだからちっこくて愛い。
物は試しということで、さっそく歩数計をもって散歩へ出かけた。数十メートル進んだところで歩数計を確認してみる。十八歩。正確に計ってくれているようだ。
時刻は二十一時を過ぎたあたり。夜の散歩は面白い。家の前で素振りをしている坊主頭の高校生やゴルフクラブで素振りをしているおじさんを見かける。あとは、夜釣りをしているおじさんも。丈夫な椅子とクーラーボックスを用意してかなり本格的だ。そんなに釣れるものなんだ、何が釣れるのだろう?といつも思う。勇気が出ないので話かけはしない。
そういえば、歩数計はガジェットに分類されるのだろうか?PC周りとは言い難いが、スマホと連動するものもあるからそこら辺が気になるところ。僕の趣味は散歩以外にもラジオが好きで、アパートの自室でポケットラジオを流しっぱなしにしている。ちなみに、ホームセンターで買ったオーム電機製で、DSPラジオなのでFMの感度が良い。今はradikoやSpotifyでもラジオを聞けるが、ザーっというノイズを聞きたいがためにアンテナを張って聞いているところがある。あの雑音には人を安心させる何かがあるのかもしれない。
周知の事実であるが、歩数計もポケットラジオもそれぞれスマホアプリがあり、それで十分事足りる。じゃあなんでわざわざ不便な方を使うのかと聞かれると、単純にワクワクするからだとしか言えない。見た目もかっこいいし、ボタンをポチポチ押しているだけでテンションが上がる。ポケットラジオのチューナーを合わせ聞いたことがないラジオ番組を探し、面白いチャンネルを見つけた暁には、えっげつない量の脳汁がブッシャ―と弾け飛ぶ。
不便なものを使うもう一つの理由として、進み過ぎたデジタル化の反動でアナログに回帰したくなる特性が人間の中に芽生えるから、というのもあるもしれない。
最近でいうと、レコードやレトロ喫茶、アディダスのサンバ、ウォークマンあたりをSNSや某都会型雑誌でよく見かける。おそらく、年代物でデザインがおしゃれなものが流行りやすい傾向にあるのだと思う。若干、消費されるスピードが年々早まっている気がしなくもない。
まあ、その流れで歩数計とポケットラジオブームが来てくれると、上からマウンティングを取れるので大変ありがたいのだが。
そうこうしているうちに、町内を一周してアパートに着いた。ズボンのポケットに入れた歩数計を確認すると、6,770歩。今夜はよく歩いたほうだ。歩数を稼ぐための散歩は義務感が生じて億劫になるだろうけど、「考え事をしていたらこんなに歩いてしまったのか!」と、知れる分には良い買い物をしたように思える。