将来の新型うつを予防する子育て方法について
先日ある研修で産業医面談から興味深い話を聞いた。
その研修は僕が仕事で関わった大手企業向けの管理職研修で、テーマは「自身と部下のメンタルヘルス管理」だった。
主なポイントは以下のとおり。
▼WHAT(新型うつとは何か)
・最近、「従来型うつ」とは異なる「新型うつ」が大きな問題になっている
・発症例は「従来型うつ」が真面目な性格の40代・50代(中間管理職)に多かったのに対して、「新型うつ」は一見社交的な20代(新入社員)に多い
・発症しやすい人の特徴は、根拠となるスキルや経験がないのに自己評価が過度に高い人
・よくあるパターンは、「新入社員が上司や先輩から仕事の不手際を指摘され、心を折れて出社できなくなってしてしまう」というもの
※ポイントは、この「指摘」がパワハラといえるものではなく、業務指導として適切なコミュニケーションだったこと!
▼WHY(なぜ新型うつになるのか)
・「従来型うつ」の原因が過重労働と過度のプレッシャーだったのに対し、「新型うつ」の原因は、本人の人格形成の未熟さであるとされている
・考えられる背景としては、少子化や一人遊びの増加、ほめて育てる教育から、幼少期に養うべきストレス対処の力が身につかなかったこと
※一般的にストレス対処力が最も身につくのは、小学校5・6年生頃だとされており、この時期に適度なストレスを乗り越える経験を積むことが重要!
▼HOW(新型うつの対処方法)
・近年の若者(いわゆるZ世代)はこれまで以上に承認欲求が高い傾向にあり、上司は意識的に新人の存在の承認と感謝の言葉を投げかけ続けることが重要
※例「君がいてくれてよかった!ありがとう!」
・加えて小さな成功体験を積み重ねさせ、中長期目線で能力と自信を高める人格形成支援をすることが求められる
世の子育て方法の風潮にかねてから違和感を感じていた僕は、この話のWHYに共感してむち打ちになるくらい大きくうなずいた。
最近の子供は親が先回りして障害を取り除くため、小さなケガをすることが圧倒的に減っているという話を聞く。
例えば、昔は自然や町中がこどもの遊び場だったのに対し、最近では子供の遊び場は徹底的に安全整備された公園に限られている。(親によっては砂場にある石を取り除くらしい)
同様に、友達同士の摩擦や挫折経験などの「心理的なケガ」の経験も、親のきめ細かい監護により取り除かれてしまっているように感じる。
小学生が人間関係に悩まされないで遊ぶには、家で一人ゲームか勉強が最適解になるだろう。
しかし本来人は失敗により多くを学び、成長する生き物であることは経験的に周知の事実だろう。
この話は我が家の子育て(長男小4・長女小1・次女4歳)を振り返るよい機会にもなった。
僕はこれまで子育て本に書かれていた教えに従い、自己肯定感をはぐくむ「受容と共感」を意識して子どもにかかわってきた。
この点の方針は今後も変わらないが、それとは別軸で、ストレス耐性を鍛えるために「心理的なケガの余地を残し、それを乗り越えるサポートをする」という視点は必要だと感じた。
そこで今後具体的にどんなことをしようか考えた。そして、「できる限り色んなタイプの友達と、思い切り遊ばせること」というシンプルな結論になった。
自分と異なるタイプや年齢の友達と遊ぶことは、よい意味でのストレスを受け入れることになる。加えて、当然遊びの中では大小の摩擦や衝突が発生する。その時に、自分と違う考え方をする存在に気づくと同時に、彼らとの適切な関わり方を試行錯誤を通して学ぶことも期待できると考えたからだ。
では、具体的に親としてどんなことができるだろう。
方法はたくさんあるが、何らかのコミュニティーに入れることも有効な方法の1つかもしれない。
自分自身の子供時代を振り返ると、小学校3年~6年まで参加していた地元の少年サッカーは、まさにストレス対処力の鍛錬の場となった。
毎週土日、朝から夕方まで20名以上のチームメイトとその親御さん、コーチや先輩後輩と時間をともにする中で、多くの人間関係の失敗を経験した。
その中にはチームメイト同士のいざこざや親御さんに怒られたことなど、ほろ苦い思い出もある。
ただそれらの失敗経験の積み重ねが、自分ストレス耐性を鍛えてくれたという実感ははっきりと感じている。
またサッカーを通して、自分のサッカースキルは大したことないという現実を受け入れることもできた。当たり前のことながら、他の小学校には自信を無くすほどうまい奴らがいっぱいいることに気づいた。
子供時代に取り組むスポーツ活動は、身体面の成長だけでなくこうした精神面の成長の効用が大きいように思う。
では反対に気を付けたいものを考えると、やはりYoutubeやゲームなどのスマホ遊びは人間関係におけるストレス対処力を鍛えることができない。
(パズドラで負けるイライラに耐える訓練にはなるけれど…)
そしてもう一つ考えたいのが、中学受験だ。
中学受験をするとなると、小学中学年~高学年にかけて、どうしても遊びよりも勉強が中心の生活になる。
勉強は集中力や忍耐力を鍛えるという点では、認知能力だけでなく非認知能力を鍛えられるというのが僕の持論だ。しかし人間関係におけるストレス対処力という観点では、やはり分が悪いだろう。
加えて、私立の中学生活では同質性の高い人間関係に囲まれがちだ。
もちろん、私立中学にはその世界なりのストレスや悩みもあるだろうが、やはり「教育熱心な中流階級家庭以上の出身」という枠組みから大きくはみ出る子供は少ないだろう。
僕が通っていた公立中学では、地主の娘もいればやくざのせがれもいて、まさにダイバーシティーの宝石箱だった。
教育レベルの低さや受験指導力の弱さ、ヤンキー率の高さなど、親として心配事が多いのも事実だが、今のところ我が家ではこの「多様性の高さ」というメリットを最重要視して、子供は公立中学に進学させたいと考えている。