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おじいちゃんと孫(晴れ男の最後)

きっと夜だろう。そう思っていた。

親族との面会が済んだ数日後。

それは昼だった。

急いで車を走らせる。

高速道路に入る。

間に合わないのは覚悟していた。
それでも…。ハンドルを握る手が汗ばむ。

もう少し。
そう思っていると、パニックの発作が出そうになった。

…ヤバい。
ここまでパニックの発作は出ないでやれていた。
急遽一つ前の高速道路の出口で降りる。

鞄の中から緊急用の薬を出す。
とりあえず飲み込んで、また車を出す。

病院に到着する頃には薬が効いていた。

しかし、またパニックになるかもしれない。会えないかもしれない。でも、会わないと。

色々な葛藤が頭の中で繰り広げられる。

7月に入って梅雨もあけた。熱い日が続いている。
空は吸い込まれそうな程、高く感じて、病院に入ると冷房で体が引き締まった。

何よりも体が動いていた。

冷静に。落ち着いて。分かってた事。

…やっぱり間に合わなかった。

葬儀屋の従兄弟に連絡をする。

兄も到着する。

お世話になった看護師さん。
通りかかると、外出を手伝ってくれた事にお礼を言う。

準備は出来ていた。

従兄弟に頼んで、安置する式場に運ぶ。
そのまま、葬儀の手続きに準備。
全てをつつがなく。

お世話になった、共同で仕事をしていた会社に挨拶に行く。

遠い親族にも話をしにいった。

家族の喪服を全部用意して、1日葬にしたから朝から気合を入れた。

この日もまた、暑い暑い、眩しい日。

たくさんの人が集まってくれた。

遠い所から来た親戚とも久々の再会。
仕事関係でお世話になった人達。

棺の上には、長年握り締めてきた電動ドライバー。

息子は泣かなかった。

娘も参加する事ができた。

私は泣いてる暇はなかった。

今日、この1日が父の集大成なのだから。

私だけは、無鉄砲で、好き嫌いが激しくて、でも優しい父の全部を肯定してあげたかった。

息子は父の過去は知りたくないと言った。
「今のじいちゃんが俺のじいちゃんだから。」
そう言った。

最後は賑やかに送ってやりたかった。

たくさんの人達が、棺にの父に花を添えてくれた。

【やってやったぞ!見てるか?お父さん!】

この後、骨壺に収まったしまった。

その日のうちに、叔母が見届ける中、兄と甥っ子、孫の手によって、墓地に入れられた。

さすが晴れ男。暑い1日だった。

71歳。
最後まで仕事をし、最後まで戦った。優しい父だった。



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