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10年目の畑(上)
これから私がお話する出来事は、ある国の王子様が町の飢餓を救い、やがて立派に成長していくという物語です。
この国では貧富の差が激しく、食べ物を食べられる人と食べられない人での争いが絶えませんでした。
では、幼い王子様がまだどうしようもないわがままだったころから、このお話を始めることにいたしましょう。
◆
「ルドルフ王子様、こちらの野菜炒めは国内一の料理長が作った物です。是非一口お食べになってください」
「いやだ」
「そんなことおっしゃらずに…」
「いやだーー」そう言うとルドルフ王子は駆け出して逃げてしまいました。
「まったく、ルドルフ王子にも困ったもんだ。国内一料理長の料理を食べないんじゃあお手上げだぜ」周りのシェフたちもウンウン頷く。
「野菜となったら食べないもんな、あの王子は」野菜をめっぽう嫌う王子にシェフたちも困り果てていました。
ルドルフ王子はこのとき7歳。シルバー王国国王の息子で将来の国王になる存在でもありました。
「お兄様はまた逃げたの」
「はっ!これはリリム王女様。お待ちしておりました」
リリム王女、ルドルフ王子の妹。5歳でありながらルドルフ王子よりしっかりしています。
「困ったお兄様」
このことは当然、王様の耳にも入り、国内一の料理長でも解雇されました。
「ルドルフの野菜嫌いにも困ったものだ。国内一の料理長でも駄目とは」王様もどうしたら良いかわかりませんでした。
「国王様、失礼いたします。門の前に国王様にどうしても面会させてほしいという女性が訪ねてきています」
「何者だ」
「料理に多少自信があると申しておりますが」
「またか…」王様はため息をつきました。
「わかった、通せ」
「はっ!」
警備兵が連れてきた女性はボロボロの服を着た女性でした。
「はじめまして国王様。わたくしはネリー・ロール・エデンと申します」
「料理に自信があると申していたな」
「はいっ!是非ルドルフ王子様にわたしの作った野菜料理を食べていただきたくて」にっこり微笑んだネリーは腕に自信があるようだ。
「たった今、料理長を解雇したばかりだ。そんなに自信があるならやってみよ。ただし、期間は1週間だ。それまでにわが息子の野菜嫌いを治せなければ、お前も解雇だ!」
王様は厳しい口調で言いました。
「はいっ、わかりました。つきましては王様、強者の兵士を2人ほど貸していただきたいのですが」
「兵士だと?なぜ必要なのだ。…まぁ良い。わかった」
そして、新たな料理長ネリーはルドルフ王子とリリム王女を散歩に連れて行きました。なぜか2人の兵士も連れて。
「ねぇ、ネリー、どこに行くの?」常に笑顔のネリーには2人はすぐに懐いたようです。
「町に行ってみましょう」
「町ならよく行きますよ」リリム王女が言いました。
「いいえ、今日は王子様や王女様が知らない町に行ってみましょう」
「なぜ俺たちまで行くんだ」
「さぁ…」2人の兵士は顔を見合わせました。
30分を歩いて一同はある町に着きました。
「お、おい、この町は…」2人の兵士は驚きました。
「さぁ、行きましょう」
そう言うとネリーはルドルフ王子とリリム王女を連れて街中へ入っていきました。
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