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醜い嫉妬

※上の作品とリンクしています。ご興味のある方は本編もどうぞ。



【短編小説】


 4対1はさすがに応える。

「オラッ! 四日市よつかいち!!」
「その程度かよ!!」
「なめてんじゃねーぞ!!!」

端に追い詰められて防御の姿勢を取るも、顔を守るだけで精一杯。腹と足を徹底的に狙われる。

「おらよっ!!!」

「ゴスッ」と鈍い音が腹への強烈な一撃で体は悲鳴を上げた。

「ガハッ……」

咽て息ができず、その場で唾液を吐きだす。

(クッ、クソッ)

ゲホゲホやっている間に後ろで見ていた奴が近づいてくる。

「顔はやめろよ~、お前ら。形変わってすぐにバレるからな」

髪をつかまれる。

「……よォ。四日市さん。最近やけにここ・・にいるよな。なんか思い出でもあんのか? あぁ?」

剣道場から少し離れた場所。最近は無意識によく来ていた。そこをこいつらに見られてここ数日絡まれている。

思い出・・・、あんのは、てめぇのほうだろ。相馬そうま

「ゴッ」とモロに殴られる。

(いってーな。クソッ)

頬を押さえて見返すも、こいつの怒りはそうとうのものだ。

「髪、離せよ。クソヤロー!」

「ベッ」とおもいっきり唾を顔に吹きかけた。

「貴っ様!!!」

怒りで我を忘れて一瞬、私の髪を離した。その隙に思いっきり頭突きを食らわす。今度は私が馬乗りになり右手左手に渾身の力を込めて殴る。

「てめぇ!! 四日市!!!」
「顔はやめろ!!!」
「おいっ! こらっ!! やめろってんだろ!!!」

他の奴らに殴られようが髪をつかまれようが、相馬こいつだけを目掛けてひたすら殴る。そしてとうとう引っぺがされて、今度は逆に私がボコボコにされる。

「てめぇー、顔だけは勘弁してやってたのによ!!!」
「鼻血出してやんの! ダセー!!」
「らしくねー下着履きやがって! バーカ! ヤリマンビッチが!!」

苦しい。息ができない。誰がヤリマンビッチだ。クソが。

「……はぁ、はぁ。ずいぶんやってくれたな。四日市」

ざまあみろ。痛み堪えてやせ我慢した顔しやがって。だが、私は殴られ続けてもう立てない。

「……へっ、へへっ! バカありす・・・!」

「ゴッ」と顔を蹴られて意識が飛んだ。

「……メ…………メー……ーン!!」
「メ……ン!……コテ!……ドォー!!」
「メン! メン! メーーン!」

耳に劈く様に響く音。

(……なんだ)

起き上がろうとしたが全身が痛くてなかなか起き上がれない。いつの間にか寝てたのか。いや気絶してただけか。

「イテテてっ……」

あのやろう。相馬あいつめ。最後本気で蹴りやがって。

「なにやってんだろうな。私……」

こんなことしてあいつ・・・が喜ぶわけないのにな。それにあいつ・・・相馬あいつの。

「メーーン!!!」

ちょうど今の視角から剣道場の中が見える。こちらから見えて向こうからは余程気にしないと見れない。

「でね! 雪代ゆきしろさん! 聞いて聞いて! さっき藤咲ふじさきさんから一本取ったんだよ!」
「馬鹿者!!! あんなのかすった程度だ! 一本ではない!!!」
「おいおい! 認めろよ! 最近のひかりは調子良いんだぜ!」
「本当、本当。光、強くなっている、ね」

先日、私を助けた剣道部員の1年か。休憩中楽しそうに談笑している。

「……チッ。柏東かしわひがし中の方がピリピリしてたぜ」

1年女子は5人いるのか。その中でも嫌に気になる奴がいる。

「ね! ね! 凄いでしょ! 私が藤咲さんから!」
「五月蠅い! 馬鹿者!! そこまで言うならもう一度あとで勝負だ!!! 月島つきしま!!!」

月島。名札にはたしかに月島と書かれている。

「月島……光」

可愛い顔。純粋そうな性格。そして、明るくて眩しい笑顔。

「……はん。なにが楽しくて剣道だ。稽古だ」

口では文句ばかり言っているが、彼女を中心に部員が和んでいるのがわかる。

「……あいつ、友達も多いんだろうな」

一つ一つの動きや声が、その優しさを物語っている。

「……私と、正反対、だな」

いや、私も子供の頃は道場で美静みせい、美静と可愛がられた。小学校高学年にもなれば、道場の団体戦では私が副将。そして。

「……相馬あいつが大将」

それでも勝ちを目指して共闘していた。少なくともその時は副将だから大将だからとかつまらないことで喧嘩なんかしたこともなかった。

「……あいつ・・・の声も普通で、剣道も上手くて、周りから頼られて、それでも」

美静お姉ちゃん、美静お姉ちゃんといつも後ろからついてきた。

「……なんで、なんでこんな。……クソッ」

手の甲に水が落ちる。

「……ごめん。ごめんよ。……ごめんな、宏樹ひろき

水が止まらない。

「今なら雪代さんからも一本取れるかも!」
「調子に乗らないの光。いいよ。このあと私と稽古しよう」
「待て雪代! 私が先に月島を黙らせてやる!!」
「はいはい。お前ら休憩終わるぞ」
「先輩たち、もう並んでる、よ」

視角から消える間際、月島光の楽しそうな表情が私の中で何かを壊した。

「……月島。……光。月島、光。はっはは……」

クククッ。あははっ。

「……なんで私だけが殴られて鼻血なんか出してるんだ。そうだよ! 私は強いんだよ! 今日は相馬あいつをボコボコにしてやったじゃないか! 楽しそうに剣道やりやがって! なぁ、月島光さん」

そうだ。先日もここで相馬あいつに絡まれた時に救ってもらったな。ポケットから例の物を取り出す。

「……あった。ハンカチ。たしか日野ひのとかって奴のだ」

これを綺麗に洗って、善人になった面してあいつらに近づいてやろう。そして、そして。

「……ふふっ、ふふふっ。月島あいつの綺麗な顔。今度は私が汚してやるよ。どうやってグチャグチャにしてやろうかな。あいつ、人気者だから鼻血なんか吹かせたらみんな怒るだろうな~」

クククッ。あーはっはっ。

「楽しみだなぁ。月島光。私がお前に屈辱を味合わせてやるよ!」

私はハンカチをギュッと握りつぶした。


                 (了)

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