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LAST WEEK REMIND~裸足の終身犯~
LAST WEEK REMIND
~裸足の終身犯~
3/31-4/6の振り返り
☆は4点満点
【映画】
・裸足の伯爵夫人(1954)
☆☆☆☆:にっくきマンキーウィッツがヒットを打った。ハリウッド映画界を舞台にした今作は、一夜にして銀幕の大スターになったマリア・バルガスの肖像を、彼女と関係した3人の男たちの視点から描いている。スペインの踊り子だった彼女を見出した脚本家、彼女の活躍を近くで見ていたパブリシスト、彼女と愛を深めた伯爵。この三者の視点から浮かび上がるのは、手の届かないスターとしてのイメージのもとに生きるしかなかったマリアの思いだ。その完璧な美貌を捉えた映画や、愛する男が作らせた美しい彫刻の像に封じ込まれた彼女のイメージに対して、スペインの貧しい家庭生まれのありのままの自分を貫こうとする、裸足のままでいようとするマリアが逞しくもあり、それが上手くいかなくなっていく様が哀しくもある。主演のエヴァ・ガードナーの力強い眼差しはマリアに命を宿らせる。ボガートの人生の師のような存在感も良いし、オブライエン演じる汗っかきなパブリシストは本当にハリウッドにいそうな雰囲気。撮影と協力して完璧な画を作り上げている美術セットや衣装の数々に息を呑む。いつもはそりの合わないマンキーウィッツ映画だが、今回は夢の虚像を鋭い眼差しで見つめたMr.マンキーウィッツに完敗でした。
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・終身犯(1962)
☆☆☆:殺人の罪で終身刑を宣告されたロバート・ストラウド。ストラウドは獄中で鳥類の研究をして、その道の権威となった実在の人物だ。原題「Birdman of Alcatraz」が示す通り、その名もアルカトラズの鳥人だ。粗暴で短気な若者ストラウドが、怪我をした小鳥と出会い、牢屋の中で小鳥の世話を始める。もちろん周囲の助けなしではできないことだ。鳥を保護していくうちに、周囲を威圧するような彼の態度が変わっていく。愛する鳥のためなら何でも試みる。病気に効く特効薬だって開発するようになる。なんでも時間は一生分あるのだ。鳥の研究を通して穏やかになっていくストラウドを主演のバート・ランカスターが実直に演じていて頼もしい。ハリウッド映画の名脇役セルマ・リッターもストラウドの母として印象的に映画を盛り上げる。ちなみに、今作にもE・オブライエンが出てるよ。鳥類の権威となり、社会にも貢献したストラウドだが、刑務所からの仮出所の願いは拒否され続ける。フランケンハイマー監督は、作品を通してひとりの人間の尊厳を問いかける。刑務所が更生としての役割を果たさず、何もかも奪ってしまうところにアメリカの刑務所システムの闇を感じる。それでも黙々と日々を過ごすストラウドの姿が重厚な物語の太い柱となる。彼は檻の中で一生を過ごしたが、彼の心は鳥のように大空を羽ばたいていたのだ。たとえ実際のストラウドが冷徹な男だったとしてもこの作品は良い映画だ。
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・ゴーストバスターズ/フローズン・サマー(2024)
☆☆:ヤング世代投入で若返りを試みるも胸焼けするようなノスタルジーに寄りかかっていた前作から3年が経ち、今度は真夏のニューヨークを襲う凍てつくような脅威にゴーストバスターズが立ち向かう。ノスタルジーからは一歩抜け出して、新たなストーリーを紡ごうとしているが、集中力に欠ける仕上がり。マッケンナ・グレイスを中心としたヤング世代の面白そうなストーリーがあるのに、ダン・エイクロイド率いるオールド世代が幅を利かせ、ポール・ラッドとキャリー・クーン等のミドル世代は存在感すら薄くなってしまった。彼らが全員集合しても、おもしろさも興奮も生まれないという致命的な状態に。マーレイ氏の何のために出てきたのか分からない仕事ぶりに呆然とする。敵のフローズン野郎のデザインが怖いという以外に見どころが少ない。ゴーストバスターズ自体から魂が抜け始めていて残念だ。
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・オッペンハイマー(2023)
☆☆☆☆:【分裂】
彼は天才だ。「全ての戦争を終わらせるため」に原爆を開発した。
彼は身勝手だ。彼は仕事ではルールを破り、彼は家庭の外で女を愛した。
彼は共産主義者か?
彼は仕事のために主義をあっさりと捨てた。
彼は裏切り者か?
誰が敵味方か分からない時代に、彼はスパイのレッテルを貼られた。
彼はアメリカの英雄か?政府は政府のために晩年の彼に勲章を与えた。
では、彼は全ての戦争を終わらせたのか?
結局、全ての戦争は終わることはなく、世界は新たな世界へと突入した。
そして彼は自らが起こした波紋の影響から目を背けた。
そして、私たちはその波紋から目を逸らすことの出来ない世界を生きている。
※これはノーランが意図した通りの感想です。
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・SOMEWHERE(2010)
☆☆:高級車がスピードいっぱいに走り回り、パーティーではドラッグと酒が並び、部屋ではセクシーな双子のダンサーが踊る。字面では刺激的なシーンにも思えるが、ハリウッドスターである主人公ジョニーは退屈そうだ。ソフィア・コッポラ監督はジョニーが感じる空虚さを長回しで観るものにも体感させる。刺激的なのに満たされない感覚で、頭がボーッとしてくる感じ。ジョニーを演じるスティーブン・ドーフが非凡な凡庸さをみせる。そんな感覚が麻痺するような生活を送る彼の元に元気溌剌の娘がやってくる。娘との時間が彼を、映画を、退屈から救う。エル・ファニングが太陽そのもの眩しさで心に安らぎを与える。プール沿いで日向ぼっこをしたり、音楽を聴いたり、町を歩いたり、なんてことのない時間が特別な瞬間へと変わっていく。平凡な生活のスペシャルさがグッと沁みる。ただ、そんな平凡で退屈なところに映画のウェイトがおかれてはいるが、映画が本当に退屈な場合どうしたらいいのでしょう?キャラクターの抱える孤独が浮世離れしているのも興味を保てない理由かもしれない。映画一家に生まれ育ったソフィアの感覚との隔たりを感じてしまった。
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【再鑑賞】
・落下の解剖学(2023)
【TV】
・Mr. & Mrs. スミス 第1シーズン第4話
【おまけ】
・今週のベスト・ラヴィット!
みーんなでジップラインでええ!
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