アラン・ホールズワースのサイン (プログレッシヴ・エッセイ第5回)
高校1年の夏だったか、楽器メーカー・ローランドのイベントが渋谷で行なわれた。
プログレバンド「UK」の元ギタリストであるアラン・ホールズワースが来日するということで見に行った。
ホールズワースといえば“速弾きの鬼”として知られ、唯一無二の誰も真似できないテクニックが売りだったギタリストだ。
とにかく何を弾いているか皆目聞き分けがつかない。
そしてどうやって弾いているのかも見当がつかない。
その時の演奏もただ残像を見ているだけでまったく理解ができなかった。
当時のギターの先生がホールズワース・マニアだった。
とにかくそのギター教室はスパルタ。入会して最初にやらされたのがラッシュ「YYZ」とブランドX「ニュークリア・バーン」。
とにかくマニアックで高度な曲を練習させられた。
生徒のレベルも高かった。
その中の一人は、有名なプログレ・バンドのギタリストとして加入し、今ではテレビ番組でギターを弾いている。
先生に、
「ホールズワース見に行きました! すごかったです!」
と報告した。
すると、
「じゃあホールズワースを弾くためにまずは理論から」
と座学が始まった。
否、見に行ったことを報告しただけなのだが。
そして迂闊に、
「あのギタリスト、好きです」
というと、
「好きなんだね? ではこれから学ぼう」
と座学が始まる。
ギターを弾くまでの前段が長く難解だった。
この教室でプログレのギタリストが嫌になった。
ブルース・アプローチをするエモーショナルなギターを弾こうと思った。
当時の教室でそれを極める生徒がいなかったからである。
だから私はいまだに速弾きが弾けない。
先日、部屋の整理をしていたら引越し用段ボールの奥底からホールズワースのサインが出てきた。イベントでもらったものだ。カビが生えていた。
早弾きの羨望は今も朽ちているようだ。