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産婦人科② 10/21。

妊娠を告げた瞬間に彼から「堕ろしてほしい」と言われることは、この世に数ある不幸の中で何番目くらいだろうか。 産むか、産まないか。最終的な決断は自分で決めたかったので、彼とは連絡を絶った。 お腹に宿った命は愛おしく、毎日話しかけた。歌を歌ってあげたり、絵本を読んであげた。 「妊娠」「中絶」「シングルマザー」と言ったキーワードを何度検索したころだろう。 世の中には自分と同じ境遇の女性が案外多いことに安心と怒りを感じた。 2度目の産婦人科の受診の際に、中絶の予約を取った。

    • つわり。

      妊娠を自覚してからいわゆる「つわり」に悩まされるようになった。 実際に吐くことはなかったけれど、大好きな納豆やごはんといった体に良いものを受け付けなくなり、辛い物やジャンクフードが食べたくなった。体に良い物を食べなくてはいけないのに。 嗅覚が非常に敏感になり、台所の排水溝の匂いなど家の匂いはもちろん、自分の体臭まで気になってしまった。 妊娠初期の段階でこれほど自分をコントロールできなくなるものなのか。私は動揺を隠せなかった。 彼が子どもを望まなかったとしても「一人で産

      • 産婦人科① 10/15。

        彼に妊娠を告げた翌日。一睡もできなかった重い体を引きずって産婦人科に行った。 比較的最近できたのだろうか。きれいで最新設備が整った病院だった。医療事務として働いている友人が病院の設備が古くて業務量が減らないことをよく私につぶやくのだが、彼女の言う理想の病院ってこんな感じなのかと、待合室でぼんやりと考えていた。 名前を呼ばれ診察室へ。院長でもある医師に妊娠の可能性を告げた後、エコーで確認したもらった。妊娠していた。 モニターに映る小さな命はまだ人の形をしておらず、リングの

        • 妊娠判定日。10/14。

          世の中は三連休。私は生理予定日から5日目だった。 数日前から生理が来ないことに不安を感じていたが、9月に珍しく生理周期が乱れていたので、心の中で「きっと大丈夫」と何度もつぶやいていた。 けれど不安はどんどん大きくなるばかり。意を決して妊娠検査薬を買いに行くことにした。 本当は家に帰ってからすればよかったのだけどはやる気持ちを抑えることができず、商業施設内のトイレで検査した。結果は一分と立たずに陽性反応。 嬉しくて涙が出た。 とても驚いたし不安もあった。けれど、大好き

          赤ちゃんを授かった日。9/15。

          以前、出版の仕事をしていた私はとある男性建築家の本を作っていた。感性を使う職業の人はどこか浮世離れしている。何回目かの取材のとき、彼は若い頃のモテ自慢とともに、ふと、「子供ができるときのセックスって、あとから振り返ると不思議とわかるものなんだよ。あの時だなって」と言っていた。 当時は変なおじさん、と流していたが、彼のいうことは正しかったと思う。 9/15。あの日は朝からとても気分がよかった。町内会の秋祭りの日で、神輿を担いだ一行の音が聞こえていた。 シャリン、シャリン、

          赤ちゃんを授かった日。9/15。

          私の「人工妊娠中絶」体験記。

          2024年10月29日。私は人工妊娠中絶を行った。 赤ちゃんを授かった喜び。お腹にいてくれることの幸せ。そして生んであげられなかった深い悲しみを、私は一生忘れないと思う。 この体験記を書こうと決めた理由は、私自身が中絶を決断するまでの孤独な日々の中、ネット上で女性達の「心の声」を目にしたからだ。 経済的な事情で生めない。彼氏に逃げられた。など、人によって状況は様々であるが、授かった命に対し、極限まで悩み、決断していく女性達の姿に、私は時に共感し、時に違和感を感じながら、

          私の「人工妊娠中絶」体験記。