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「法典質疑錄」から「自己ノ志望ニ依リテ・・・」

 連日、国立国会図書館デジタルコレクションの資料を楽しんでいます。折角見た資料ですが、もし何も記録を残さないで別資料に目を移してしまうと、二度とその情報にめぐり合わないのではないかという、一期一会的な心配もあるため、最低限の記録をnoteにしておこうと思います。


今日の資料はこれ

『法典質疑錄』(27)

法典質疑會,1899-04. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1493196

ここに
「国籍法案第20条(現行国籍法では11条1項に相当)に所謂「自己の志望に寄りて外国の国籍を取得したる者とは如何」
という質問・回答があります。この内容は現行の国籍法11条の解釈にも通じるものでしょう。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1493196/1/27


https://dl.ndl.go.jp/pid/1493196/1/28


https://dl.ndl.go.jp/pid/1493196/1/29

(現代語概要訳:筆者)
・国籍法案第二十条のいわゆる「自己の志望によって外国の国籍を取得した者」とは何か?

・いわゆる「自己の志望によって外国の国籍を取得した者」とは、外国の国籍を選んでこれに就いた者を総称するもので、次の三種に類別できる。

(1)帰化

 帰化の語は広義にこれを用いるときは外国人が国籍を取得するすべての場合に適用し、狭義にこれを用いるときは外国人が国権の特別の行動によって国籍を取得する場合に適用し、さらに狭義にこれを用いるときは外国人の任意の出願に基き国権の特別の行動によってその外国人が国籍を取得する場合のみに適用する。
 ここでいういわゆる帰化と言う語は第三の、かつ最も狭い意味で使っている。この国籍法案の「帰化」とは、この意味で使っているのである。だから日本人であってこの国籍法案が規定する帰化と同種の方法によって外国の国籍を取得した者は、この法案第二十条のいわゆる「自己の志望によって外国の国籍を取得した者」の一種となる。

(2)選択権による国籍取得

 この種の国籍取得は、この国籍法案に規定はないが、外国においてみられる。すなわち、ある法定の資格を備えて、かつ国籍を取得しようと志望する者が法定の条件を踏んで、その志望を陳述することにってその国の国籍を取得するものである。
 一例を挙げれば、フランスにおいて国内に生まれた外国人の子であって、当然にはフランス人とはならない者(フランス法においては父、父がいないときは母)が国内に生まれた者であるときは、その子がフランス国内で生まれた場合、当然のフランス人とする。また、外国人の父(父がいないとき母)がフランス国内で生まれていなくても、その子供がフランス国内で生まれたものであって、成年時にフランス国内に住所を持つ者はフランス法によって、成年となってから一年以内に、フランス国籍を望まない旨の意思表明をするのでなければ当然フランス人となる。
 ゆえに、フランス国内に生まれた外国人の子で当然にはフランス人とならない者とは、国内に生まれた外国人の子であって、上に述べた二種類の「当然フランス人」を除いた者を言う。この立場の者が二十二歳になる前に、若干の法律の条件を踏んで、フランス国籍取得の希望を出してフランス人となるような場合がこれに当たる。
 ゆえに、フランス生まれではない日本人を父としてフランスに生まれ、かつ、成年の時にフランスに住所を持たない者が満二十二歳に達する以前に法定条件を満たして、国籍取得の志望を陳述することによってフランス国籍を得た時は、この法案第二十条のいわゆる自己の志望によって外国の国籍を取得した者の一種となる。

(3)任意の出願による国籍回復

 これは、国籍法案第二十五条、および第二十六条に規定したような類を除外するもの。もし外国人であるものが、一旦日本の国籍を取得したあとに、さらに日本の国籍法案第二十五条、および第二十六条に規定したのと同様の方法で原国籍国の国籍を再取得した場合は、この法案第二十条のいわゆる自己の志望によって外国の国籍を取得した者の一種となる。

(補足)

 以上で国籍法案の「自己の志望に依って外国の国籍を取得した者」の類型を説明したが、特に注意が必要なのは、
対象としては
「直接に外国の国籍を選んでこれに就いた者」
のみを含み、
「自己の任意に行った行為の間接的な法律上の結果として外国の国籍を取得した者」
は含まないことである。
 ゆえに、たとえば
・外国人と結婚したことにより、外国の国籍を取得した者
・外国の公務員につくことで、(自動的に)外国国籍を付与されたもの(ドイツにおいては、国家、教会、または地方団体の公職に就く外国人は、その辞令に外国の国籍を失わないと明記しているのでなければ、ドイツ国籍を取得したものとみなす。ノルウェーにおいても同種の規定がある。イタリアにおいては、国籍喪失者の子で国外に生まれた者がイタリアの公務員になるときは当然イタリア国籍を取得するとしている)および外国に居住することにより外国の国籍を取得した者(ベネズエラにおいては領土内に移住する者に対して帰化の名称でその国籍を取得させる)などを含まない。
(ドイツの例の筆者による解釈補足:「外国人でも任官できる」、と明示されている役職以外は、任官にはドイツ国籍が必要であるが、その場合は任官の辞令で自動的にドイツ国籍を取得したものとみなされる。こうした場合は日本側では「外国の国籍を志望取得した扱い」にならない。)

この125年前の文献から明らか・・「帰化と嘘をついた」というのは「難癖」です

 現代の蓮舫氏の問題にからめて。
 攻撃側は蓮舫氏が「日本国籍取得」を当初「帰化」と表現していたこと、『二重国籍問題』なるものが騒がれてから「国籍取得です」と表現を変えたことについて「嘘をついた」という風な非難をあびせていました。
 ですが、奇しくも、125年前の国籍法案を作る段階の文献に、
・広義の「帰化」と、狭義の「帰化」の用法がある
・広義の「帰化」は国籍を取得するすべての場合に適用
・国籍法案で言う「帰化」は最も狭義の「帰化」を指す
ということが書かれていたわけです。

 となると、当初、広義の「帰化」という表現を使っていた蓮舫氏が、国籍法でいう狭義の「帰化」との食い違いをつつかれて、その後は「国籍取得です」と言い方を変えたことは、何ら不自然なものではないことが分かりますね。「帰化と嘘をついた」と責めるのは「難癖」というものです。

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