米山隆一議員による「蓮舫議員の二重国籍問題(私見)」について(1)
ファクトチェック歓迎します。
米山議員の論考
衆議院議員の米山隆一氏が
という論考記事を公表されています。
2016年の蓮舫氏の国籍騒動以来、報道では、あたかも「台湾籍を併有する日本国民」が、一律に日本の国籍法上の重国籍扱いであるかのように、それが当たり前であるかのように伝えられてきたわけですが、この度の米山議員の論考は
>「外国の国籍を有する日本国民」であったかどうか微妙
と言う表現で、そもそもの前提に疑問を投げかけてくださった。この点に疑問を投げかける考察は、2021年の日弁連の調査報告書https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/complaint/2021/210924r.pdf
以降は私自身、見たおぼえがなく、画期的で大変ありがたいことです。
是非、もう一度「日台間で重国籍者の義務対象になるのか?」「そもそも義務対象になる要件とはいったい何なのか」と言う基本的な点に立ち返って、(米山議員だけではなく)多くの法律家、政治家などの有識者等々によってじっくり再検証していただけることを希望したいです。(だいたい、法律の専門家の間でさえ、義務対象について見解が分かれるような話を20歳そこらの一般人に押し付けないで欲しいですよ。)
ただ、私が米山氏の論考をざっと見たところ、「ここは攻撃側からすぐ突っ込まれるんじゃないか」と懸念した点もあります。
つまらないところを突っ込まれて、折角の意欲的試みが萎えてしまうようなことになってはもったいないですので、僭越ながら予防的コメントをつけてみました。
カニンガムの法則?
あるいは、もしかしたら米山議員は、すべてわかったうえで「カニンガムの法則」
を狙っていらっしゃるのかもしれない・・そんなことも、ちら、と頭の片隅に浮かんだのですが、まあ、それでもいいです。僭越ながら情報提供役を買って出ましょう。
中国国籍法を持ち出した点は突っ込まれそう
米山氏の記事中には「中国籍」の有無について、「中国国籍法9条により自動喪失したものと思われる。」という一文が出てきます。
もちろん、その前に
>(この時、中国(中華人民共和国)籍は、元より記録が無く、仮に観念的に存在しても、)
と言う、限定もついています。あくまで「仮に観念的に存在しても」という限りにおいての話だとわかります。
ただし、かつて次のような経緯がありました。
まず、2016年9月中旬以前は、報道でも「中国国籍法」を引き合いに出す形で説明されていたようです。なんなら、当時の記事によれば法務省自身ががそうした説明をしていたようです。
ところが、2016年9月15日ごろに、法務省は「台湾出身者に中国の国籍法を適用していない」 と広報して上記の従来見解を否定するかのような姿勢を見せました。
これで、当時各マスコミが委縮してしまったことは、ちくま新書「二重国籍と日本」第一章「メディアの迷走(野嶋剛 氏 著)」に詳しいです。
オンラインで見られる記事としては、楊井人文氏の
あたりでも、当時の様子がわかります。
こうした経緯から、この部分は、心して身構えておかないと「法務省がとっくに否定した理屈を今更持ち出している」とのツッコミを受け慌てる可能性がある。そう懸念しています。
想定されるツッコミへの反論1
2016年9月15日の法務省の説明は「台湾出身者に中国の国籍法を適用していない」というものです。
あたかも「いまだかつてそんな説明したことないよ」と言わんばかりです。だから「誤報」という騒動になった。
ですが、たとえば、遡ると、平成8年4月9日付金沢地方法務局回答では次のように説明されていました。
「適用されますので」という表現が使われているじゃないですか。
同じ論文の「注」には、「外国の国籍を有するかどうか」について昭和50年8月の京都法務局の説明内容が出ています。
我が国の承認している国の法規に照らして、その(日本国籍のほかの外国籍の)有無が審査されるべきである。そう説明されています。
こうした半世紀にわたる積み重ねを「台湾出身者に中国の国籍法を適用していない」との一言で、覆したことになるものだろうか?
少なくとも以前の説明を聞いてそれに従って対応してきた立場の人が少なからずいるわけです。まるでそんな説明はかつて全くなかったかのような、はしごを外すような真似は信義に反するでしょう。
想定されるツッコミへの反論2
中国の国籍法を適用していないのならば「台湾の国籍法」を適用すると言う意味かと思えば、決してそのように言っているわけではない。
日本国民が日本以外の外国の国籍を保有しているかどうか、ここでいう外国の国籍とは何かについては、2020年3月の日弁連への回答中で、法務省民事局が
と説明しています。
つまり
・外国の国籍の有無は「外国政府の証明書」で判断。
・外国とは日本が独立国として承認する国家。
これに沿って考える限り、台湾当局の籍が対象外なのは自明でしょう。
さらに念入りに
・台湾当局の証明書はここで言う「外国政府の証明書」と扱っていない。
とも説明しています。
こうしてみると「台湾出身者に中国の国籍法を適用していない」という思わせぶりな表現は、あたかも台湾国籍法で籍があれば日本側が「外国の国籍を有する」と扱っているかのように錯覚させる法務省の「叙述トリック」というべきものでしょう。
詳しく読み込んでみると、「台湾国籍法で籍があれば日本側が一律に「外国の国籍を有する(二重国籍者)」と扱う」などという話は、実際どこにも書かれてはいなかったのです。