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まえがき公開!『わたしはわたし。あなたじゃない。10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』
はじめに
こんにちは。私は、鴻巣麻里香(こうのす まりか)といいます。職業はソーシャルワーカーです。なかなか聞きなれない言葉かと思いますが、ひとことで言うと「困りごとの解決に役立つ制度や専門家を探す達人」です。
「困りごと」の中身はさまざまですが、私は女性と子どもの支援を専門としています。お金がない、病気になった、障害がある、暴力や虐待を受けている、学校に行けない、いじめや体罰が苦しい、子育てがうまくいかない……そういった人たちの相談にのり、さまざまな制度(困っている人を助ける仕組みや法律)を使い、支援団体や専門家(医療や法律、福祉、心理など)と力を合わせて、解決のお手伝いをしています。世の中(ソーシャル)にある制度や人とかかわり、その人の生活がより安全なものになるよう、環境(ソーシャル)を整える。だから「ソーシャルワーカー」なのです。
実はみなさんが通っている小学校・中学校・高校にもソーシャルワーカーがいるかもしれません。学校にいるのでスクールソーシャルワーカーと呼ばれています。なんらかの「困りごと」を抱えていたら、その相談先候補にスクールソーシャルワーカーも入れてみてください。よりたくさんの味方を得ることができるかもしれません。
私も福島県でスクールソーシャルワーカーとして働いています。それだけでなく、仲間たちとKAKECOMIという団体を立ち上げ、こども食堂や女性とこどものためのシェルター(家にいられなくなったときの避難先)、相談室を運営しています。これらの活動を通して、私はたくさんの困りごとを抱えた人たち、子どもたちに出会いました。そこで気づいたのは、ほとんどの人が「バウンダリー」が侵害され、ゆらぎ、苦しんでいるということです。
さて、「バウンダリー」とはいったい何でしょうか? ひとことで言うと「わたしはわたし」「あなたはあなた」という心の境界線です。家庭や学校など、他者とかかわりのある場所では、誰かにバウンダリーを踏みこえられたり、自分のバウンダリーがゆらぐことで誰かのバウンダリーを踏みこえてしまったりすることがよくあります。結果、人間関係のトラブルやモヤモヤが生じます。
この本では、みなさんの悩みやしんどさを「バウンダリー」というキーワードでひもとき、「バウンダリーを引き直す」という対処法をいっしょに考え、編みだしていきたいと思います。
でも、ぜんぶ読まなくてもOKです。目次を見て気になった部分だけひろい読みしてもかまいません。まえがきだけ読んでバウンダリーという言葉に出会えたなら、本を閉じてもかまいません。この本をどう読むか、どう使うかも、みなさんが決めてよいことです。バウンダリーは、このように小さな「私が決めていい」の積み重ねで守られていきます。
★「バウンダリー」ってなに?
バウンダリーは、「目に見えない心の皮ふ」のようなもの。
私たちは皮ふを通してさまざまなものを感じます。ぬくもりや冷たさ、やわらかさや硬さ、心地よさや痛みなど。外からのよくない刺激を防ぐだけでなく、自分にとって「受け入れても大丈夫なもの」「受け入れたらつらくなるもの」を感じとり、仕分けをするためのアンテナになるのが皮ふです。仕分けを正しく行うためには、皮ふを健康に保たなければいけません。たくさん傷ついてしまうと、かさぶたが分厚くなって、上手に感じられない。洗いすぎると皮がむけて薄くなり過敏になる。適切にメンテナンスしないと「感じる」力に異常が出てしまいます。
バウンダリーも同じです。厚すぎると、誰かと距離をとりすぎて孤立してしまう。逆に薄すぎると自分と誰かの境目があいまいになり、影響を受けすぎてつらくなる。感じる力が強すぎると、あらゆることに心がゆれ動いてしまいますし、鈍ければ言葉や態度で誰かを傷つけてしまいます。
厚すぎず薄すぎず、硬すぎずやわらかすぎず、感じすぎず感じなさすぎず、その「ほどよさ」を知ることが大切です。
★「権利」ってなに?
自分と相手のバウンダリーを守るために欠かせないのが「権利(人権)」です。権利は、すべての人が「安全・安心に生きる」ために守られなければならないもの。もちろん子どもにも権利があり、国連がつくった「子どもの権利条約」には日本も賛同しています。
ここでは、そのなかの4つの軸を見ていきましょう。
1.「生きる権利」=命が守られ、健康に暮らせる権利。大人が戦争をしていても、親が貧しくても、子どもはさまざまな支援を受けて暮らすことができます。
2.「育つ権利」=自分に合った教育を受け、力をのばす権利。また、さまざまなメディアから役に立つ情報を得て、同時に有害な情報から守られる権利でもあります。
3.「守られる権利」=あらゆる暴力・虐待・搾取から守られる権利。暴力や虐待はあなたを支配する手段。搾取とは自分の楽しみのために相手を利用すること。巻きこまれると、あなたの「本当はいやだ」と感じる力が鈍ってしまいます。
4.「参加する権利」=あなたの意見が聞かれ、尊重される権利。そして年齢や体力に応じて勉強・遊び・休息を自由に選択できることなどです。
★「同意」ってなに?
同意とは、相手に自分のYESとNOを表明すること。なかでも「性的同意」は、相手が性的なスキンシップ(身体にふれる、キスをする、性行為など)を「したい」と望んでいるとき、自分が「したい」か「したくない」かを表明することです。
そもそも「したくない」を表明するのはとてもむずかしいものです。相手の機嫌をそこねないかという不安や怖さから、「したくない」をのみこんでしまうことが多々あります。そうすると「したくないと言わなかったじゃないか」と責められ、二重に傷つくことになります(二次被害)。
性的同意に限らず、何かを決めるときには、本人同士の「同意」が必要です(「子どもの権利条約」の「参加する権利」)。ですが、正しく同意できるためには、下地としてNO(したくない・いやだ)と言える力、NOと言われても動揺せずに受けとめる力が必要です。
同意と権利は、バウンダリーを守るために必要ですが、日本ではそのどちらもが軽んじられ、子どもたちの「NO」と言う力が奪われています。
だから、この本では「NOと言うことってむずかしいよね」「基本的な権利すら守られていないよね」ということを前提に話をしていきます。
みなさんの悩みがつまった箱のカギ穴に「バウンダリー」というカギを差しこむと、新しい何かが見えてくるかもしれません。
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★著者プロフィール
鴻巣麻里香(こうのす まりか)
KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー
1979年生まれ。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著作に『思春期のしんどさってなんだろう?あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題』(2023年、平凡社)、共編著に『ソーシャルアクション!あなたが社会を変えよう!』(2019年、ミネルヴァ書房)がある。
友だち、親、先生、SNSが…毎日しんどい。
本当は嫌なのにNOと言えない。そんな人間関係に悩むあなたへ。
モヤモヤの正体は、「バウンダリー」にある!?
本書は、中高生の困りごとに向き合うスクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さんが、10代が抱えている人間関係の悩みやしんどさについて、「バウンダリー」を糸口に対処法を見つけ出し、助けになる知識と作戦を伝える本です。
バウンダリーとは、「わたしはわたし、あなたはあなた」という、自分と相手の間に引く境界線のこと。
たとえ家族でも、友達でも、教師でも、恋人でも、バウンダリーを踏みこえるのはNGです。お互いの心地よい距離感を見つけて、ちょうどよく線を引けたらラクになるはず。
📘『わたしはわたし。あなたじゃない。10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』2024年8月27日発売!ご予約受付中。どうぞおたのしみに!