インタビュー#1 子どもも、大人も自由。居心地の良さを大切にする。
最初の方は、小学校教諭で現在は育休中の美保(仮)さんです。穏やかで優しい雰囲気があり、まさにこんな先生が近くにいて自分のことをそのまま肯定してくれるとしたら、学校は居心地の良い場所になるだろうなと想像できました。美保さんが思い描く「居場所としての学校」と、それを目指すに至った経緯をお聞きしました。
ー教師を目指したきっかけはなんですか
いまいちはっきりとしたきっかけはありませんでしたが、「教師になりたい」と言うよりは、「教育のことを考えたい」と思っていました。
中高時代の自分を振り返ると、すごく生きづらかったんですよね。 学校では思ったことを言えないし、勉強といえば全てが受験勉強と繋がっていて。色々わからないことが多いのに、勉強とテストの繰り返しで、ただただ流れていく日々に何となく違和感を持っていました。そして、だんだんと学ぶことが暗記になっていき、つまらなく、苦痛になっていきました。
あとは、高校時代に仲の良かった友達があまり学校に来れなくなったことが大きかったです。いろいろな原因があったと思うんですけど、私自身も朝にしょっちゅうお腹が痛くなって、学校に行きたくないなと。けれど、行かないっていう選択肢はなかったので、頑張って当時は行っていました。 気持ちは不登校状態でしたね。
進路を考えた時に、「学校の居づらさって何なんだろう。もっと居心地の良い学校にならないのかな。」という思いがあって、心理系に進もうと思っていました。大学では教育心理学を学んだんですけど、統計学に近い感じがしました。“こう思ってる 人は何人”って、なんか表面的な感じがしてしまって、統計を取って数字で表してしまうと見えなくなるものがあるんじゃないのかなって。
私の中で関心があったのは、人の心と環境であり、「学校環境をどうしたら変えられるのか」っていうところだったので、環境を変えるなら教師の力は大きいなと思って教師の道に進みました。
ー大学を卒業してすぐに教師になったのでしょうか
大学4年生で教員採用試験を受けたんですけど、何となく「このまま教師になってもいいのかな?」って思っていました。自分に自信がなくて、もっと学びたいなって気持ちもありました。
そんな思いもあって、大学院に進学することにしました。教員になる前の猶予制度があって、大学院に行くと2年間の猶予がもらえるのでそれを使いました。
ーどんな大学院時代を過ごしましたか
生活綴方教育の研究をしました。日々の生活の中で、自分自身が本当に考えたいことを作文を通して表現していくような教育です。
例えば、「なんで自分の家は貧乏なんだろう」とか「自分の家には障害のある人がいて、その人のことをどう考えていったらいいんだろう」という感じのことで、内面的なことを書きます。 自分が考えたいことを深く考える、というのがすごくいいなと思って。
でも、いざ現場で実践している先生のクラスの様子を見ると、私が想像していた実践になっていないことに気がつきました。 子ども達はあまり内面的なことを書いていないし、書けないんです。「今日は〇〇をしました。楽しかったです。」という感じで。たしかに、作文にそういうデリケートなことは書けないし、書けたとしてもそれを人に見せるのは難しいと思います。
クラスの中に本音を言い合える関係性がなければ難しい。その関係をどのように作っていくのかということをもっと研究したかったのですが、不完全燃焼のまま終わってしまって、それがずっと引っかかっていました。
ーいざ教師になってみて感じたことは
教師になって、学校現場に入って初めて分かることがたくさんありました。
学生時代は、「何でもっと現場の先生達は生活綴方教育とか色々な実践をしないんだろう」 と思っていましたし、それは教師の努力不足なんじゃないかともかなり生意気に(笑)考えていたんです。
でも実際に現場に出てみると、自分で創意工夫してやるとか自分がやりたい実践をやることの難しさを知りました。
大量の書類仕事や、何のためにやるのかわからない仕事、「これもやらないといけないのか!!」みたいな仕事もたくさんあって、ダダダーと仕事を終わらせていく感じで。
自分の実践を振り返ってまた明日これをやろうとか。そういう時間がなかなか取れない。金曜の夜には、「土日で色々考えよう!」と思うのに、疲れすぎてもう考えたくなくなってしまってすぐに月曜日が始まっちゃう、みたいな感じです。しんどかったですね。
ー教員生活の中で印象に残っている出来事はありますか
2年目は6年生の担任を持っていました。高学年になるとクラスをまとめるのも難しかったです。子ども同士で自然とグループができるんですけど、そのグループ間の交流はないんですよね。
そんな時に岩瀬直樹さんの本に出会って、「サークル対話」というものを知りました。それで、やってみよう!と思って、朝、クラスで輪になって話し合う時間を作ったんです。
でも、それが長引いてしまうこともあって、管理職の先生に指摘されてしまいました。「朝は学習の時間だから学習させてください。朝自習させてください。1時間目にも食いこまないようにしてください。」って。
せっかくみんなが繋がるきっかけだと思ってやったのに、それがなくなってしまって、じゃあどうしようかなと思っていました。でも高学年になるとやることが多くて時間が取れなくて、結局そのままで終わってしまったのがすごく心残りです。
今思うと、子どもたちに「変わる」ことばかりを要求していて、私自身が変わったり、環境を変えることをしていなかったと思います。
1~3年目の自分はいろいろやってみたい、もっとこうしたいと思うことはあっても、その思いと実践をなかなか繋げられないというか、上手くいかないことが多くて、失敗ばかりの日々で、子どもたちにも申し訳なかったです。
けれども、自分が実践していて思ったのは、子どもたちがすごく管理されている、ということです。もっと自由にのびのびとさせたいのに、なかなかできない。「サークル対話」にしても、 目の前の子に必要だと思ってやっているのに、なぜ時間とかそういうことに縛られなきゃいけないのか、学校のやり方に従ってやっていくやりづらさをひしひしと感じていました。
ー育休に入ってからはどのような変化があったのでしょうか
ある研修で出会った人に、オランダのイエナプランという教育方法について教えてもらいました。 それから、日本の小学校でイエナプランの方法を実践し、今は実際にオランダでイエナプランを研究している川崎知子さんと出会いました。調べていくうちに、岩瀬さんの「サークル対話」はイエナプランを元にして考えられたものだったと知りました。
ー学生時代に興味を持った「生活綴方教育」と育休中に出会った「イエナプラン」、共通しているところがあったのでしょうか
イエナプランは、「教室がリビングルーム」。居心地が良い場所を作るっていうのを目指しています。
そして、私が学生時代に研究していた丹羽先生は「教室に子ども達の生活を持ち込めるようにしたい」と考えて、生活綴方教育を実践していました。
イエナプランも生活綴方教育も、学校を子どもたちにとって安心し、リラックスしていられる居場所にする点で共通していると感じました。
例えば、イエナプランを紹介する動画の中で、円になって子ども達が対話するシーンが出てきます。 「こんなことがあって、今日僕は落ち込んでるんだ。」って男の子が話していて、周りの子はそれを聞いていて、「この子はそういう状態だからみんな知っておいてね。」って先生が 言っているのを見ました。
それを見て、子どもたちがそんな風に自然に自分の気持ちを表せる場っていいなと改めて思いました。
ー今の学校が抱える課題は何だと思いますか
自分に子どもがいない状態でも一杯一杯の毎日でしたから、子どもがいる状態を想像すると、とても生活がまわらないなと感じます。仕事とプライベートの両立ができるような働き方ができるようになっていくと良いなと思います。
時間的にも制度的にも、それを保証してくれる仕組みがほしいのと、教師側もその点をもっと意識して働かないとと思います。
ー現場に復帰してからやりたいことはありますか
もう一度、サークル対話を実践したいです。そして、セレクトタイムという時間割を取り入れたいなと思っています。 1日1時間なんですが、自分でやりたいこと書いて自分でやる時間を作ります。
管理することもある程度は必要だと思うのですが、大人がコントロールしすぎると、子どもは大人の顔色をうかがって、自分の考えで動くことをしなくなると思います。
そして、管理のしずぎは教師にとっても子どもにとってもしんどいと思います。子どもたちに任せるところは任せて、いっぱい失敗したりしながら成長していってほしいと思います。
育休中に今しかないと思って、学校以外の場所、例えば子育て支援施設や学童、自主夜間中学などに色々と行ってみました。そしたらすごく面白くて。子どもたちは学校だけでなく色々な場所で育っているのだなと分かりました。そして、学校が閉鎖的だと感じました。もっと保護者の人や地域の人が関わっていけるといいと思いました。
新しい学校も最近たくさんできてきていますよね。イエナプランをベースにした私立の学校もできるし、大人も子どもも一緒に学ぶコミュニティスクールなども興味があるので、もっと学びたいと思っています。
ーこれから学校がどんな風に変わっていったらいいなと思いますか
オランダのイエナプラン校の先生が「大切なのは自分が自分であること」と言っていたのが心に残っています。
今まで私は何者かになろうとしてなれない苦しさに悩んでいました。教師らしくとか、大人として、などのような言葉で自分を縛っていたように思います。
けれど今はだいぶそれが薄れてきて、ありのままの自分を肯定できるようになりました。みんな得意不得意があってもいいし、それを補っていける学校、社会になっていくといいと思います。
目指したいのは、子ども達が自由にしていて、子どもを取り巻く大人も自由でいられる居場所としての学校です。学校にいて、子どもも大人も「楽しい」って思えたらいいなと思います。
ー美保さん、ありがとうございました!インタビュー後記もご覧ください。