『地域社会圏主義』山本理顕著:「家族のカタチの多様化」「家を買えない住宅問題」「地域コミュニティーの喪失」の解決を図るプリツカー賞受賞の建築家からの提言
戦後日本では、両親と子どもから成る核家族が持ち家を手に入れるという人生モデルを理想とし、経済活性化を目的に家の購入が推奨されてきた。一方で公営の賃貸住宅はどんどん減らされて今ではヨーロッパの国などと比べて極端に少なく、民間の賃貸住宅は高くて狭く設備もよくない。家族の在り方が多様化する中で、住宅はいまだにほぼ、ファミリータイプの広い家かワンルームマンションか、という2者択一だ。プライベート空間を重視する住宅は、戦後の人口増加政策には有利だったが、地域住民の結びつきを希薄にした。
そうした問題を改善する方法として、2024年プリツカー賞を受賞した建築家、山本理顕さんが提案するのが、「地域社会圏主義」だ。
地域社会圏とは、住宅の在り方とコミュニティーの在り方を同時に考えたもので、私的空間を狭めて共有空間を増やす、住民同士の相互協力の仕組みがある、地域へ開かれた空間を設ける、といった特徴がある。家を私的所有する住宅購入は住宅を再利用しづらく、購入者の負担も大きいことから、すべて賃貸とする。部屋はユニット(ブロック)単位を組み合わせて造ることで低コスト化し、ユニットごとに賃料を設定して、借りるスペースを変更できるようにする。ガラス張りで外から見える「見世(店)」の空間をつくって、店やアトリエやサンルームのように使えるようにし、人との緩やかなつながりを促す。時給800円くらいで空いた時間に自分の能力を生かして住民の手助けができる。太陽光発電なども集団の単位で実施することで無駄なく使えるようにする。昔の地域社会のような人の目を気にしてしがらみなどでがんじがらめになる関係性ではなく、過度に干渉はしないが談笑したり手を貸し合える関係構築を見据えている。
子どものいない単身者は、住宅や地域社会とのつながりで問題を抱えることが多い。高齢者は「対策」の必要があると認識されているが、働き盛りの年代は政策においても焦点にならない。しかし、従来の家族とは異なるカタチで家族のような関係を築いたり(この場合の家族の機能は週に何度か一緒に食事をしたり話をしたり心身が困難な状況のときに助け合ったりすることとする)、他人の家族の子育てにほんのちょっと参加したり、満足できない賃貸マンションでも広過ぎて高価で買えないファミリー向けの家でもなく手頃で快適な家(集合住宅)に住めたりしたら、地域社会に貢献できるかもしれないし、孤独で病気になりやすい状況に陥らずに済むかもしれない。子育てしやすい環境づくりに寄与さえできるかもしれない。高齢者も、若い人と交流し、手助けをし、助けてももらうことで、健康に生きられるかもしれない。
子ども食堂、シェアハウス、高齢者と若者の同居など、子育て世代を支えたり、異世代交流や助け合いを促したりする試みはあるが、たいてい小規模で、その場所固有のものにとどまりがちだ。地域社会圏主義のような仕組みをつくることができたら、汎用性を持って各地でこうした場をつくっていけるのだろうか。
細かいことでは、キッチンもバス・トイレも共同でやっていけるのか、とか、もっと大きなことでは、外から人が入りやすい空間も設けることで安全性は確保できるのか、といった課題もあるとは思うが、超高齢化・少子化、経済の悪化や格差の拡大といった問題が山積みの、行き詰まり感のある日本社会にいて、地域社会圏主義はわくわくするような希望を少し感じさせてくれる。
社会を変える、建築にとどまらない建築。面白い。実験してみたい。