森美術館のコレクションを多数含む企画展。キャッチコピー?副題?は「みんなで学ぼう、アートと世界」。
企画展の入り口に、本展を鑑賞した子どもや学生の感想の言葉と話す映像、これまで同美術館で展示した作品のアーティストの国・地域を示した地図を掲げている。これらは、展覧会のタイトルの「ワールド」(世界中のアート作品を扱う)と「クラスルーム」(一般の人々にアートを広める)のコンセプトを示したものなのだろう。
「科目」ごとにセクションを区切って作品を展示している。タイトルにはないが、「哲学」「音楽」「体育」「総合」もある。
以前の森美術館の企画展で見たが時間がなくすべて見られなかった映像作品があり、今回はすべて見ることができた。次の2作品。
《オーシャン・ビュー・リゾート》は、沖縄出身の男性が久しぶりに故郷に帰って、かつての友人の男性と再会した様子を語るというもの。英語で語り、日本語の字幕を表示(男性はアメリカに何年間か住んでいたことが語られる)。男性の祖父が戦時中にアメリカ軍の捕虜になり、兵士の一人と仲良くなった話も出てくる。映像は沖縄の海を映し、ベートーヴェンの曲が流れる。
《帝国の教育制度》は、太平洋戦争時にアメリカ軍が敵国を知るために制作した日本の教育制度について説明した映像と、作家が韓国で若者たちにワークショップを行ったときの映像とを組み合わせた作品。前者の映像では、日本の学校教育が国のために尽くして戦う国民を養成する目的で行われていることが語られる。後者の映像では、若者たちは戦時の残虐な映像を見てそれについて説明し、最後は韓国が日本の植民地支配から解放されたときに韓国の人が喜びの行進をするところを再現する。
森美術館の近くのマクドナルド六本木ヒルズ店で高山明 / Port B「マクドナルドラジオ大学」が開催されているという案内が展示の最後にあったが、行きたかったものの疲れていて行けなかったのが残念だった。
《ロスト・アンド・ファウンド》は、世界の消滅危機にある言語を収録した作品。英語字幕版と日本語字幕版を交互に上映している。
米田知子の写真作品は、著名な芸術家などの眼鏡を通して、その芸術家に関連するテクスト(文章、文字)を写したもの。そのコンセプトを知らなくても目を引かれる写真である。
《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》は、ベトナム戦争に従軍した画家たちが描いたスケッチと、それについて語った映像から成る作品。
《運命と密会の約束―1947年8月14日、ジャワハルラール・ネルー(1889–1964年)による憲法議会演説》は、インド独立の際にネルー首相が行ったスピーチを作家が吹き込んだ音声をマイクから流す作品。
「I and I」シリーズの写真作品も以前見たことがある。中国のドラァグクイーンの人々などを撮影したもの。見る人を引き込む力がある。10年以上前の写真だが、被写体となった人々は今どうしているのだろう。
《怪物のおなかの中》は、作家が食べたものを順番にたくさん映す映像。
《授業》は、遺体安置所(?)で引き取り手のない遺体たちを床に横たえた前で黒板を背に「死」について作家自身が講義をするという映像作品。時に遺体たちに問いかけながら、文学などの話題を出して死を考える。最後に遺体からの質問という体で作家が答えた「どんな死に方をしたいか」の回答は、『星の王子さま』を書いたサン=テグジュペリの最期を指すのだろうか。作家でパイロットで、誰にも発見されずに消えてしまったと言っていたから。
《ソニック・ハイブリッド》は、広い空間いっぱいの作品。壁にペインティング、床にはギラギラした立体物。立体物を動かすパフォーマンスのようなことが行われた様子を見られる映像のQRコードがあった。
学校の授業に見立てて作品を展示したこの企画展、どうなのか。学校教育に嫌悪感を覚える身としては複雑な心境になる。作品のセレクションはよいのかもしれないが、説明書きには「わからせよう」という意図を感じる。まさに学校のテストのように、作品の解釈に正解があると言わんばかりだ。