アラサー女子の葛藤〜『自転しながら公転する』を読んで〜
山本文緒さんの本は多分はじめて読んだ。
アラサー女子であれば誰もが共感できる悩みや葛藤が織り込まれたお話だったと思う。アラサーでなくても女性ならではのライフイベントとか心情が描かれていて世界観に入り込みやすかった。こういうリアルな感じの小説が好きなので、割とスラスラ読めた。
主人公の都(みやこ)は自己主張が少し苦手で、周りに合わせて生きているところがあるように見える童顔巨乳女という設定だ。私はどちらかと言うとしたたかな女性の方が好きなのと、巨乳に僻む気持ちもあり、都にはそこまで好感を持っていなかった。
けれども、将来に不安を覚えて自分なりに色々考え始めたり、行動し始める姿が後半あたりから見えてくるようになり、徐々に応援したい気持ちになっていった。
都が恋人の貫一(かんいち)と2人の将来について話し合っていたとき、なかなか結論を出そうとしない貫一に痺れを切らして放ったセリフが私は特に気に入っている。
「自分が困るような展開になると、うんちくで煙に巻こうとするとこがうざいんだよ!」
多少口が悪くなろうとも、真っ当な本音をぶつけている人の姿というのは、見ていてスカッとするものがある。いつも人の顔色を窺って、衝突を避けて、自分の本音を隠す人は日本人に多いのではないか。私もそういう一人だからこそ、代わりに誰かがスカッとするようなことを言ってほしいという願望がある。その調子でいってくれ、都。
女性は20代、30代で人生が決まるのではないかというような一大イベントが盛りだくさんだ。学業、就職、キャリアップ、結婚、出産。おまけに都には、親の介護という課題まで課されているのだから、それについては同情してしまう。そして、その親がやや毒親チックなところがあるのだが、都と親の関係性が変化していく過程でも都の成長が感じられる。
人生の中で何かを選んだり、行動を起こす動機になるものは何か。都の場合、最初は焦りや不安に駆られたのがきっかけだったが、最終的には自分の本当の気持ちに動かされて自分なりの未来を切り開くことができたのではないかと思う。
恋人の貫一は世間一般的に見ると良い男とは言い難く、人間性は良いところがあるものの最終学歴は中卒で安定した職につくのが難しいような境遇だ。両親や友達に交際を反対されてしまう上に、友達の恋人と比較して惨めな気持ちを感じたこともあったが、それでも都は貫一のことが忘れられず貫一と生きていくことを選ぶことになる。
都を見ていると、とても合理的な判断をしているようには見えないけれど、その人なりの正解というのは理屈だけでは説明できないものなのかもしれない、と思った。その人が幸せだと思うことが世間の標準に合うとは限らない。何に喜びを感じるか、何を好ましく思うかは、人それぞれだ。