8月
「なんでセミって鳴くの?」
『人間に夏だって知らせるためだろうな』
「ねぇ、ラムネのビー玉とってよ」
『そこが仕事場のやつを邪魔しちゃいけねぇよ』
「ねぇねぇ、お魚釣れた?」
『いんや、魚にあっかんべーされた』
「今日はどこに行くの?」
『墓参りだ』
「誰の?」
『誰だろうな』
何を聞いても的外れなことしか言わないじいちゃんとのやり取りが暑さと共に蘇る。
頑なに誰のお墓かを言ってくれなかったあの場所は、いつしかあなたが眠るようになっていた。
墓石まわりを掃除するときに箒を貸してくれてたお隣さんは2年前から誰も来なくなって、気づいた時にはさら地になってた。
「死んだらどこ行くの?」
『死んでみねぇとわからねぇな』
「じいちゃんも死ぬの?」
『生きてるときに聞くんじゃねぇよ』
「長生きしてね」
『考えとくよ』
あの夏から幾度となく夏を迎えて、還してきた。
じいちゃん、また夏がきたよ。
『ねぇ、なんでセミって鳴くの?』
「人間に夏だよってお知らせしてるのかもね」