「総合的な学習の時間」事例:HIPHOP CHANGE DA WORLD.
以前より告知していたとおり、9月20日にヒップホップ型教育のオンライン研究会を開催した。
同研究会はヒップホップ型教育の知見を深めるとともに、研究者・実践者との交流を構築しながら、ヒップホップ型教育・研究をより体系的にしていくことを目的としており、参加者間の交流に重きを置いていたため、小規模での開催となった。
当日の発表では、小学校における総合的な学習の時間の中にラップやダンスを取り入れた実践や、「非日常」を授業内に取り入れた中学校のダンス授業など初等中等教育での実践だけでなく、ラッパーの振舞からラップの効果を検証した研究などが発表され、新たな知見に富む会となった。
今回はこの3つの中から、ヒップホップを通して自己表現について問い直すことを目的とした小学校における総合的な学習の時間の実践事例『HIPHOP CHANGE DA WORLD.』について紹介したい。
総合的学な習の時間とは
総合的な学習の時間(以降 総合的学習)が小学校で開始されて早20年が経つ。
「地域や学校、児童の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動」として位置づけられ、学習指導要領の改訂を重ねた結果、総合的学習では以下3つの資質・能力を育成することとなっている。
①学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等の滋養」
②生きて働く「知識・技能」の習得
③未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成
上述した位置づけ、3つの育成の柱に依拠する形で、各取り組みは各学校に委ねられており、自由度の高い教育活動となっている。
ここで鍵となるのが、総合的学習は「児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動」であるため、時代の潮流を読みながら児童の興味・関心に対していかに訴求できるかということである。つまり、この教育活動の良し悪しには、その学校ないしは担当教員のセンスが影響するといっても過言ではない。
総合的学習 X ヒップホップ
このような総合的学習の目標にヒップホップで迫ろうとしたのが、冒頭で触れた『HIPHOP CHANGE DA WORLD.』である。
同実践が取り組まれた東京学芸大学附属世田谷小学校の総合的学習では、自分の学びを自分でデザインすることができる力を育むことを目的とした「ラボ」が行われている。ラボとは、教師が設定したテーマのもと、児童自らが問題・課題を設定して探究する取組である。
このラボ内では、「哲学」、「食」、「飾ることの根源を探る」などをテーマに、複数のラボが立ち上げられており、児童たちは自分の興味・関心のあるテーマのラボに参加するという形式となっている。これらのテーマのうちの一つが『HIPHOP CHANGE DA WORLD』である。
同実践は、文化であるヒップホップを知り、体感することによって「自己表現」について問い直すことを目的としている。参加者たちはヒップホップについての基礎知識やヒップホップが自己表現の媒体であることを学習し、ヒップホップに従事する専門家による体験型活動を通して、自己表現を問い直すといった内容である。
HIPHOP CHANGE DA WORLD.
同実践は2学期間にわたって取り組まれ、4つの段階で構成されている。
①ラボの見通しをデザインする
②ヒップホップを体感する
③文化としてのヒップホップを知る
④ヒップホップを介して自己表現する
これらの段階ごとに、参加者たちはラップの歌詞分析に取り組み、ヒップホップが文化として体系化されるまでの背景を学び、どのような媒体で自己表現に落とし込むかということを探求してきた。
そして最終的に自己表現の成果物として完成させたものが、以下である。
<ジブンラップ―これが私->
この動画は、ゲスト講師として登壇したプロラッパー晋平太のレクチャーを受けながら完成させた、自己紹介ラップである。
この実践を担当してきた長坂教諭は、一連の活動を通した児童たちの「自己表現」に対する変容を次のように語る。
「活動開始時は、私も含め、どことなく緊張感が漂っていました。また、異学年ということもあり、互いのことを探り合っているような面もありました。しかし、活動が進むにつれ、互いを受容し合う様子が見られました。その結果、存分に『自己表現』することができるようになりました。」
まとめ
日本にヒップホップが流入し始めた1980年代から約40年の月日が経ち、欧米由来の野球やサッカーなどが日本人の日常に根付いたように、若者の日常生活にごく当たり前にヒップホップが存在する時代になった。
時代の潮流を読み、児童の興味・関心の対象となったヒップホップに焦点を当てた本実践は、総合的学習が目指す資質・能力の三本柱のうち、「未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力等』の育成」に寄与する実践であると言えよう。
今回紹介した実践は、日本におけるヒップホップ型教育の可能性の広がりを示唆させるものであり、今後の発展が期待される。他方、今回紹介した実践はヒップホップ型教育の実践の氷山の一角であり、日本において「ヒップホップ型教育」と認識せずに行われている取り組みはまだまだ存在するのではないかとも思われる。
今後も、ヒップホップ型教育・研究をより体系化していければと考えているので、ヒップホップの要素を教育実践に取り込んでいる方は、是非ツイッターよりご連絡頂ければ幸いである。
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