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甲府の選手じゃないならどうでもいい

甲府の青赤以外の色に染まった元甲府の選手を見たくない。
きちんと移籍先の試合を見られるようになるのは、どの選手であってもシーズン中盤以降になってしまう。
Instagramのフォローも、移籍リリースが出た直後に外してしまう。
契約満了や期限付き移籍ならともかく、自らの意志で甲府を去った選手が移籍先のクラブでいきいきしている姿を目に入れたくないからだ。

「甲府の選手じゃないならどうでもいい」
そんな言葉が口をついて出たこともある。

私自身、身勝手なサポーターであることは重々わかっている。
短い選手生命の中でより年俸の高いクラブに行くこと、より上のステージを目指すことは、サッカー選手としてごく自然なことだ。
私は「ヴァンフォーレ甲府サポーター」であって、選手個人のサポーターではない。
ただ「私は個サポじゃないから」とスパッと割り切れるわけでもない。
私は甲府というクラブと甲府の選手を愛しすぎてしまったがゆえに、今まで共に戦ってきた選手のステップアップを素直に応援できないひねくれたサポーターなのだ。

昨シーズン、甲府でエースナンバー10番を背負って活躍し、今季J1アルビレックス新潟に移籍した長谷川元希という選手がいる。
先日、長谷川選手は新潟を勝利に導くJ1初ゴールを決めたそうだが、私はまだそのゴールシーンを見ていない。
正確には見られないのだ。

長谷川選手は大卒で甲府に加入し、3年間甲府の選手として戦った。
ルーキーイヤーから頭角を現し、どんな時も「甲府のために」と死にものぐるいでプレーした。
プロ2年目のシーズン後のオフにはオファーもかなり来たそうだが「僕が甲府に来た理由として今も揺るがない1番の目標は甲府をJ1昇格へ導く事」として甲府に残ることを決断。
3年目にはJ2勢としてACL初ゴールをマークし、甲府のエースとしてめざましい活躍を遂げた。

しかし昨年のオフに長谷川選手は新潟に完全移籍した。
「長谷川元希選手 アルビレックス新潟へ完全移籍のお知らせ」のタイトルを見た瞬間、ここには書けないような醜い考えが浮かび、自分で戦慄を覚えた。

元希には元希の人生がある。
数多のオファーを蹴って、今まで本当によく戦ってくれた。
元希がもっと輝ける場所があるなら、そこに行った方がいい。
これは他の誰でもなく、元希の人生なのだから。

わかっている。
巣立つ選手を気持ちよく送り出してあげることが、地方クラブのサポーターの役割だ。
そしてそれができない自分は果てしなく愚かだ。
全部わかっている。
でも心が言うことを聞いてくれない。

年が明けて、オレンジと青に身を包んだ長谷川選手の画像がXのタイムラインに流れてくる。
水色と黒の三浦颯太選手。
赤の井上詩音選手。
甲府ではない青と赤の品田愛斗選手。
今まで甲府の青赤を身にまとって戦っていた選手達。
共に喜びも悔しさも味わってきた選手達。
そんな選手達が、違う色のユニフォームを着ている。
強烈な違和感を感じ、同時に胸が締め付けられる思いもした。
甲府にいた時から近い存在ではなかったのに、急にはるか遠い存在になってしまったような気がした。

「甲府の選手じゃないならどうでもいい」
そう思いながら、各試合のスターティングメンバーが発表されるたびにチェックしてしまう。
全然どうでもよくない自分がいて、我ながら矛盾していると感じる。

「甲府の選手の移籍を素直に応援できない人は、甲府サポーターではない」
もし誰かからそう言われたのなら、私はぐうの音も出ない。
巣立っていった彼らを応援する資格すらないのかもしれない。
「甲府を愛しているから」なんてただの詭弁で、単に自己中心的な考えであることに反論の余地はない。

ただ私はこのねじ曲がった感情と共に、苦しみながらサポーターを続ける。
おそらくサポーターであり続ける限り、純真無垢な気持ちを持つことはないだろう。
「甲府を巣立っても応援するよ。今までありがとう」
口ではそう言っているサポーターも、心の奥では少なからず葛藤しているかもしれない。
自分を納得させるために、綺麗な言葉を言い聞かせているのかもしれない。
他人を傷つけなければ葛藤してもいい。
無理に自分の素直な気持ちを否定しなくていい。
それもまたクラブを愛するサポーターの姿なのだから。

こんなにひねくれたサポーターが、巣立った選手に対して何かを言う資格はない。
ただ、いつか甲府が彼らと同じ舞台に立つ日が来るかもしれない。
その時、私は彼らに自然と拍手を送っていることだろう。


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