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【観劇ログ】ガラスの動物園/消えなさいローラ

お久しぶりの更新になってしまいました。
なかなか公演レポートを書く時間が無くて、ただ観劇はしていて感想は吐き出したい!ということで、個人的な感想文もはじめることにしました。

観劇日時:2023.11.05マチネ
劇場:紀伊國屋ホール

※本記事は、内容のネタバレを含みます。これから観劇される方はネタバレ了承の上ご覧ください。ネタバレされたくない方の閲覧はオススメいたしません。

ガラスの動物園/消えなさいローラ感想


ガラスの動物園とても良かった。

渡辺えりさんと同世代で、演劇科を出た母はテネシー・ウィリアムズまだ流行ってるの?あの頃は欲望という名の電車とかみんな好きでよく演ってたけど未だにやってんのね?と少し怪訝な顔をしたけれど、渡辺えりさんが演劇少女だった頃から温めていた企画を令和の今上演する意味はあったように思う。

時代は変われどウィングフィールド家の人々にはどこか自分自身や家族と重なるところがあって、苦しさも滑稽さも、昔話を見ているようではなく、生々しく感じられた。

特に印象に残っているのはついに家に青年紳士を招くことになり浮かれているアマンダに、トムが「姉さんに期待しすぎちゃいけない」と諭すところ。娘の幸せを願い、そんな娘の将来に不安を抱くあまりローラの性質や事実を正しく理解しようとしないアマンダと、一家の中で唯一「まとも」であるが、姉のそして自分自身の窮状からひとつも逃れることの出来ないトムから絞り出された母と姉を思う言葉のやりとりが胸に響いた。

全編に渡って尾上松也さん演じる常に限界ギリギリで怒りと諦めと渇望をたぎらせているトムの姿が作品の骨子をつくっているように感じた。
それに対して吉岡里帆さん演じるローラの、いわゆる普通の生活を送ることに完全に諦めているがどこか浮世離れして現実と幻想を行き来している様子は対比のように見えた。

そしてとにかくジムがかっこよかった件である。
鬱々とした家族模様が繰り広げられる中、トムに連れられ客席通路を歩いてきたジムの登場シーンが良かった。

ジムがおもむろに振り返りあの根拠の無い自信に満ちた表情にスポットライトが当たった瞬間、待望と言うよりむしろ場違い感すらある急な空気感の変わり様は、笑うシーンではないのに思わず吹き出しそうになった。

そして、この人ならウィングフィールド家の将来に希望をもたらしてくれるのではないかと見ているこっちが期待に胸躍らされる心持ちになった。

痛々しいところは沢山あれどとにかくかっこよくて、結果ああなってしまっても私がローラならあの停電した日の思い出をよすがに一生閉じこもって生きても良いじゃないかと思ってしまった程だ。


テネシー・ウィリアムズの戯曲ではジムは普通の人、むしろ容姿はブサイクという設定だったが、和田琢磨さんが演じて「ブサイク」というのはかなり無理があるなぁ…と思っていたら、その設定はとっぱらっていて、男前で素敵で、そしてちょっと残念な和田琢磨版ジムになっていた。

あれだけイケメンで口八丁だったらローラ!騙されてるよ!傷つく前に気付いて!と思ってしまいそうだが、そんな一見胡散臭いジムが心からローラに惹かれている純粋な気持ちがスっと入ってきたのが観ていて不思議だった。終演後にパンフレットを読んだら、渡辺えりさんが「和田琢磨さんのジムは山形人特有の純朴さによって深みが出る」と語られていて、なるほどと思った。

和田琢磨さんのお芝居に惹かれる理由が少しわかったような気がした。

消えなさいローラは、和田琢磨さんの回を観劇した。
単純に和田さんの女装が見たいという不純な動機でこの回のチケットをとったものの、ガラスの動物園のあとの休憩時間で、どうしてローラ役を吉岡里帆さんで固定にしないのだろうと疑問に思ってしまった。

アマンダ役の渡辺えりさんならまだわかるけど、ジム役の俳優がローラを演じる意味ってなんだろうとそんな気持ちのまま消えなさいローラを観劇した。
最初はとにかく女が誰より体格が良いしあの伏し目がちで消え入りそうな吉岡里帆ローラとは似つかぬ妙に陽の空気を纏った女がなんだか面白くて、男との掛け合いも客席から時折り笑い声が漏れており、コメディ舞台を見てるような気持ちにもなった。

しかし話が進んでいくにつれ、女の、ローラの置かれている状況が見えてきて、女は劇中ではアマンダでありローラだったけれど同じようにローラの中にジムも宿しているのだと解釈した。そこでガラスの動物園での停電のさなかジムとローラがクルクルと踊っていたひと時を思い出し、胸が熱くなった。
最後の脱ぎ捨てる演出には度肝を抜かれたけど、消えなさいローラは2人芝居でありながら、今日このステージ上で見たウィングフィールド家の話の続編ということが演出上よく見えて、連続上演の醍醐味も味わうことができた。
そして、はじめてのガラスの動物園の観劇が今回の上演で本当に良かったなと思った。

『ガラスの動物園/消えなさいローラ』は、11月21日(火)まで東京 紀伊國屋ホールで上演。その後は11月23日(木・祝)に渡辺えり、和田琢磨の故郷である山形 やまぎん県民ホールでの公演を経て、11月25日(土)より大阪 松下IMPホールで上演され、11月26日(日)に千秋楽をむかえる。

テネシー・ウィリアムズによる不朽の名作と別役実によるその後日譚の連続上演。
高校時代にガラスの動物園を観て感銘を受け、しばらく席を立てなくなったという渡辺えりさんが演出する、痛々しくも愛を感じる舞台を皆さんもぜひ。

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