罰によって薬物依存症は回復しない。名著#3「助けて」が言えないSOSを出さない人に支援者は何ができるか
この本は名著だ。
長年、薬物依存症の問題に取り組む松本先生は次のように断言している。
罰の痛みによって人を薬物依存症から回復させることはできない。
覚醒剤取締法事犯者5年以内の再入率は、満期釈放は55.5%の約8割を占めるらしい(法務省編:犯罪白書)。同じ人が何度も受刑している。さらに再犯予測因子は、精神疾患の併存などが影響している。覚醒剤犯者の女性は、男性に比べ、小児期の逆境的体験、精神疾患、食行動の障害が有意に多いとの特徴もある。”SOSが出せない”、”人に依存ができない”。松本先生は、罰の痛みによって人を薬物依存症から回復させることはできないと断言し、『何よりも重要なのは、薬物をやりたくなった時に、「やりたい」という気持ちを援助者に言葉で伝え、「やってしまった」「やめられない」と正直に言えることであるという。Addictionの対義語はConnectionであると松本先生は別の場面で仰っていた。出所後も継続的に支援するプロジェクトも2017年より始動されている。出所後の方々を追跡調査し、民間回復支援団体利用者のコホート調査では、24ヶ月時点での断薬率は62.9%と、その非常に優れた回復効果が明らかにされた。
この本の対談ページに
『自立は、依存先を増やすこと。希望は、絶望を分かち合うこと』
とあった。
この本の著者らは、トラウマを念頭に置いたケアの実践者である。Trauma Informed Care(トラウマを念頭に置いたケア)を紹介したい。さまざまな疾患の患者のケアを行う際に患者がトラウマを体験している可能性や、トラウマの苦痛を和らげようとする不適応な対処行動が現在の症状につながった可能性を想定して関わることを指すのだという。
トラウマ体験の広義の定義(SAMHSA)は、「身体的または感情的に有害であるか、または生命を脅かすものとして体験され・・・長期的な悪影響を与える」、狭義のトラウマ体験は「実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への暴露」(DSM5)というらしい。
私もその一員に加わると心に固く誓った。