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品川の違法解体工事を見て、真面目に仕事をしても馬鹿を見る時代に突入したと感じた話

もふもふライオン(@mofumofu_LION)です。こんにちは。
実は私、ビルやマンションを壊してる解体施工業者として活動しているんですが、先日、X(旧Twitter)を徘徊してたら、品川で違法解体工事があり、大きな騒ぎになってました。
詳細は👇

誰が見てもヤバ過ぎる工事だと思いますが、みなさんはどう思いましたか?
私が、この解体工事の現場を見て思ったことは

「これからはこういう現場増えるだろうなぁ…」
「真面目な建設業者が馬鹿を見る時代の到来か…」

でした。
X(旧Twitter)にて、不動産業者や今後、自社ビルの解体工事を考えてる製造業者、そしてメディア関係者からも今回の違法解体工事の概要や原因に関する質問をいただいたので、今回は解体施工業者の観点から説明していこうと思います。


品川で起きた違法解体工事の概要

まず、品川で起きた違法解体工事の状況を知らない方向けに何が起きたのか、ニュースで取り上げられてたので、紹介します👇

簡単に言うと、誰が見てもわかるくらい杜撰な解体工事でした。
あまりに状況が酷かったため、近隣住民から通報があり、監督行政から解体工事を停止するよう、施工業者に指示があったようです。
しかし、時既に遅し…。瓦礫や鉄屑などの廃材が道路に流れ出たり、隣接するマンションの塀の一部が壊したりなどの被害が多数出ているとのことした。

X(旧Twitter)にて拡散された翌日、私も状況が気になって、近隣の解体施工業者に連絡を取り、ビデオ通話をしながら、現場の状況を確認しましたが、びっくりするほどの無法地帯でした。
被害が起きてる原因は現場を見れば、すぐわかる話で、他の方が撮ってる動画も含めて、少なくとも

  • 警備員が配置されていない

  • 周囲の人やモノを守るために隔離設置する仮囲いが設置されてない

  • 瓦礫が外に飛散しないようにする防音パネルが設置されていない

  • 作業員は高所作業にも関わらず、墜落制止用器具(フルハーネス)を装着していない

  • 工事に関する掲示板が貼ってない

  • 明らかに間違った解体工法で行ってる

という杜撰過ぎる状況があげられます。
解体工事に関わる身としては、どれもあり得ないと言わざるを得ないような内容です。
普段、是非、周囲の人やモノを守るために隔離設置する仮囲いに覆われて、中が見えませんが、解体工事を行なってる近隣の方々は、見える範囲で一つでも当てはまってるようでしたら、お近くの自治体に通報してください。

違法解体工事が起きる潜在的な原因をぶっちゃけてみる

品川で起きた違法解体工事が明らかに異常というのはお判りいただけたかと思いますが、これを他人事にしてませんか?もう終わった話と思ってませんか?
安心してください、今回のような違法解体工事、まだまだ続くと思いますよ泣

なぜそんなことを言えるかと言うと、違法解体工事が起きる潜在的な原因は私の経験上だいたい同じで

必要な工事費用を圧縮され、工期が絞る必要があり、安全対策を疎かにしてるため

というのが、ほとんどです。

本来、品川での解体工事ではビルの上に重機を吊り上げて、1階ずつ壁と床を壊して、発生した瓦礫を徐々に外部に排出しながら工事を進めていくのが一般的です。
しかし、今回の場合、重機をビルの上に吊り上げることなく、地上部から無理矢理壊しており、発生した大量の瓦礫が溢れて、道路や近隣のマンションに被害が出ていました。
そして、瓦礫類が散乱しないようにする安全装置は明らかに不十分と言える状態でした。

品川の違法解体工事の解体工法は間違ってる

今回の違法解体工事のような状況はなぜ起きるかと言うと、その多くは工事を行う施工業者が本来必要な工事費用が足りない場合がほとんどで、人件費削減のために工期を短くしなければいけませんし、安全装置も減らさなければいけません。

でも、根本的なことですが、本来必要な工事費用がなぜ足りなくなると思いますか?
よく言われる原因は3つあります。
解体施工業者の観点で、その3つの原因を紹介していきたいと思います。

原因①発注者による異常なまでのダンピング

まず発注者が複数施工業者に対して相見積もりをして、コストを叩きまくるパターンです。
ここで言う発注者は施主、不動産業者、建設管理会社(ゼネコンなど)を言います。
私自身、発注者から👇のような常軌を逸したことを言われる場合もあります。

発注者からすると安く済ませたいため、工事費用の減額要求するのは当たり前のことなんですが、やり過ぎて施工業者が赤字ギリギリ、もしくは赤字になってる場合をよく見ます。特に、根拠のない減額要求してくる発注者が多いこと、多いこと…泣
こういう話をすると、「解体施工業者が発注者からの依頼を断ればいいじゃん」という声が聞こえてきます。
その通りです。解体施工業者が断ればいいんです。
しかし、多くの解体施工業者は断ることが中々できません。なぜなら、解体施工業者は人件費、設備費用(重機)など大きな負担を抱えてる状態であり、赤字ギリギリであっても、目の前の売上を常に追いかける傾向があります。
そして、発注者もそのことがわかってるせいか、減額要求しまくって、叩きに叩きます。

原因②見積積算がまともにできない解体業者

これは新興の解体施工業者に多いかもしれませんが、明らかに赤字になるような見積積算して受注するケースがあります。
当然、工事を進めていく中で赤字になるのが見えてくるわけで、その後、キャッシュが回らなくなって、自転車操業になったり、潰れたりします。
そういった破格見積を標準だと思う発注者がいると、それ以降の工事案件もダンピングするようになります。

原因③異常なまでの多重下請け構造

これは解体の分野だけでなく、あらゆる業界に言える話です。

一般的に大きいビルの解体となると

施主→不動産デベロッパー→ゼネコン→一次下請け(管理会社)→二次下請け(施工会社)→三次下請け(人材会社とか)→…

のような構造になり、大型の現場になると六次下請けくらいまで見ることもあります。
小さいビルだと、ゼネコンや管理会社が入らない場合もありますし、営業業者(ブローカー)が入る場合もあります。
この構造上の問題は、下流に行けば行くほど費用は安くなることです。
もちろん、下流から上流に向けて積み上げれば、最低限の金額を担保できますが、施主にも予算があり、たいていは上流から下流に費用が決まっていきます。
そのため、末端下請け業者は圧縮された金額で工事を行う必要があります。

多重下請け構造による工事費用のダンピング

今回の品川の工事に限らず、圧縮された工事費用で解体施工業者が工事を行う原因はだいたいこの3つの要素が大きいです。
大小限らず、どれか一つでも当てはまれば、トラブルの温床になります。
そして、周りを見ると、この3つの要素のどれか一つでも当てはまってるような工事現場だらけなのが現状です。

工事費用をいかに安くするか…これは解体施工業者の腕の見せ所ではありますが、検討の余地がない場合がほとんどで、安全を軽視して仮設材を減らしたり、人件費を抑えるために技術力が不足してる外国人実習生を投入してるところをよく見ます。
そして、その状況が当たり前になってるので、安かろう悪かろうの工事を提案する業者しか残らなくなり、真面目に積算見積をしてる解体施工業者が損を被る状況になっているのです。

違法解体工事を起こさないためには?

「より安全に、より安く、より早く」という発注者ニーズを満たすのが生産活動には求められますが、解体施工業者に対しては「安全に行うのは当たり前、より安く、新築工事に間に合えば遅くてもよい」というのが一般的で、「安く」が強く求められます。
最近は解体工事のマッチングサイトもありますが、工事費用にしか焦点が当たっていません。
しかし、工事費用を安くすることばかりにとらわれると、前述の通り、突貫工事になるし、安全は落ちていきます。

もちろん、そんなところまで考えてる発注者はほとんどいませんし、杜撰な解体工事を行った際の責任は解体施工業者に当たる場合がほとんどです。
しかし、一度、杜撰な解体工事が行われると、近隣住民から厳しい目で見られることになり、その後の新築工事や発注者のブランドイメージ毀損にもなりかねません。

だから、「より安全に、より安く、より早く」をバランス良く満たす解体施工業者を選ぶことが発注者にも求められます。
今回の品川での違法解体工事のあとには、不動産業者や今後、自社ビルの解体工事を考えてる製造業者、そしてメディア関係者から解体施工業者の選定方法について聞かれることもあったので、悲しいかな…ネガティブな状況になって初めて関心度が上がるのかと思いました。
そこで、手っ取り早く違法解体工事を起こさないための解体施工業者の選定方法をここでは紹介します。

まずは、信頼できる解体施工業者を探してください。
探し方はネット検索でも紹介でもSNSでもなんでもいいです。
しかし、その後に相見積だけで業者決定するのはやめてください。
業者から見積提示を受ける際に次の内容を聞くようにしてみてください。

  • 施工計画、見積項目に関して説明がある

  • 下請けにぶん投げることをしない(施工ゼロの管理会社でない)

  • 同様の工事実績があること

話を聞いて、一つでも納得できないなら、依頼するのはやめた方が良いと思います。
…というのも、施工計画や見積項目を説明できない業者は架空請求してるかもしれないし、施工をリードできないかもしれません。
実はこれ、解体工事に限らないもので、私も大きな額が動く、もしくは危険な専門外工事や重機購入する際には、この3つは聞くように意識してます。
全ての工事の内容を理解することは不可能なのですし、とてもめんどくさいことですが、「関心を持つ」という姿勢があるかないかで、違法工事のリスクは確実に減ります。

根本的な構造を変えない限り、違法解体工事は続く

ここまでの話をすると、

「なんで発注者がそこまで考えなきゃいけないんだよ(怒)」
「違法解体工事の取り締まりを厳しくすればいいじゃないか!!」
「解体業界で自浄作用が働くように国が動けよ!」

という意見が出てきますが、建設業全体的に人手不足な状況なので、国は取り締まりを厳しくするどころか、緩くしている傾向があり、工事参入者を増やそうとしているように見えます。
例えば、大きな解体工事現場に専任する必要がある監理技術者の要件として「施工管理技士」の資格は定期的に要件が明らかに緩くなっています。
本資格は学科試験と実地試験を受かって初めて資格を取得できるようになってました。そのため、学科試験受かっても実地試験が落ちたら、次の年は学科試験からやり直しです。
しかし、昨今、見直しがあり、学科試験を一度受かれば、二度と学科試験を受けなくても良い「施工管理技士補」という称号が与えられ、実地試験に落ちても、次の年からは実地試験から受けることが可能になりました。
図で書くと👇な感じみたいです。

こういった国の緩和政策が建設業では、いくつか見受けられます。
(もちろん、あくまで一例ではあり、年々難しくなってる資格もありますが…。)

言わずもがな、人口減少の傾向は今後も続き、解体業を含む建設業も人手不足が今後も加速していくでしょう。
国の緩和政策はこれに対抗するものですが、同時に参入障壁を下げたことによって、トラブルを起こす業者も多くなるでしょう。
そして、そういった業者が業界の基準となり、安かろう悪かろうの工事が増えていく。
そういった状態が次の違法解体工事に繋がります。

…という未来が見えているので、多重下請禁止といった制度変更や革新的な技術活用による人員削減を行わない限り、今回のような違法解体工事は続くと思われます。
違法解体工事を起こさないためには国、発注者、受注者全てが合理的な判断のもとに動くことが必要ですが、実際は感情論や政治的意図も加味して、非合理的な状態になり、中々進みません。
大きなトラブルが続いて初めて、これが合理的な方向に動くようになります。
だから、今後も違法解体工事は増え続け、大きな問題になった時に初めて合理的な判断がされるというのが私の考える今後の流れです。

長くなりましたが、今回はここまで。
(もっと深い話もできますが、さらに長くなるので、ご興味のある方はDMください笑)

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