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朝の修学院離宮
京都行きが決まった夏の終わりに、息子が「ぜひ修学院離宮へ」と参観の申し込みをしてくれた。
少し前に訪れて、いたく気に入ったらしい。
修学院離宮は17世紀半ば後水尾上皇により設けられた広大な庭園、山荘だ。位置的には街の北東、比叡山の山麓になる。
上離宮、中離宮、下離宮に分かれ、それぞれ趣向が凝らされている。
参観は無料。宮内庁職員の案内で、敷地内のコース約3kmを1時間強かけて散策する。
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修学院離宮「施設の概要図」より
当日は天気にも恵まれ、絶好の散策日和となった。
朝一番、9時からの回ということで、前の晩ホテルの部屋で遅くまで仕事をしていた夫も早起きする。
息子がこの回を予約したのは、休日はなかなか起きない夫(夜型)に、私が長い間「休日の午前中は存在しない。もったいない」と言い続けていたせい(おかげ)かもしれない。息子もどちらかというと夜型なんだけど。笑
四条付近から向かう場合、バスはずっと川に沿って北上する。鴨川、そして途中からは高野川へ。
秋の朝の穏やかな光、ところどころに現れる堰がきらきらと輝いている。
見えている景色と時間がしっくりなじんでいく、そんな旅はいいものだ。
河原をジョギングする人、ゆっくり歩く人もまた風景に溶け込む。
ところが。
「!?」
先ほど見た人が、またここに。
しばらくすると、また同じ人が!
……そんなことはなく、ご高齢の男性が極めて似た格好をして歩かれているのだった。
薄いグレーのいわゆる「ジャンパー」に帽子、小さな肩掛けカバンにスニーカー。
全国的にこういった出で立ちの方は多いのだろうが、京都には特に集中しているのかもしれない。笑
最寄りのバス停から修学院離宮までは徒歩で約10分。
住宅街を緩やかに上っていく。ここにもあちらこちらに金木犀が。
9時からの回の参加者は約30名といったところだっただろうか。
高齢のご夫婦、元気な女性グループが多い。夫の他にもうひとり外国の方もいらした。
案内役の職員さんはおそらく息子より若く、細身で端正なお顔立ち。
なぜかずーっと1メートル前方右斜め下あたりに視線を向けたまま。私たちの見えない何か(ネコとか)が見えているのでは、というような面持ちだ。
それでもまったく「感じが悪い」というわけではなく、どことなく二次元的な麗しさがあった。
まずは下離宮へ。
後水尾上皇もここから籠で入られた、という御幸門から入らせていただく。
池のある緑の庭を抜けると数奇屋風書院造りの「寿月観」がある。
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一の間にかけられている額は後水尾上皇の筆によるもの
3つの離宮の間の土地は長らく個人の所有となっていた。それを明治になって国が買い上げ、以来、宮内庁の管理下に置かれているそうだ。
とはいえ、実際のところは家屋の建造などを規制することが目的ということで、現在に至るまで元の所有者に「貸与」するという形で、変わらず耕作が行われている。(「耕作をお願いしている」という言い方をされていた)
田畑、人々の営みも併せて修学院離宮の風景、風情となっていることにじわっと感動。
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俗世の象徴のようなビニールシートの青一点もまたよし
離宮をつなぐ松並木を通って中離宮へ。
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元は後水尾上皇の皇女、光子(てるこ)内親王のために作られた建物
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来た道を少しもどって上離宮へ。
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上りながら振り返るとこの景色。
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上離宮まで上がってくると少し空気が違う。
午前とはいえ、日差しが強くなってきた。吹き渡る風が心地よい。
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黒はこの辺りのもので、赤は鞍馬山からのもの
海抜約150m。隣雲亭から見える景色がこちら。
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もうところどころ紅葉も(10月半ば)
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落差は約6m
先ほど隣雲亭から見下ろした浴龍池をぐるりと回る。
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浴龍池の島にある窮邃亭(きゅうすいてい)。
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下離宮に降りてきてほっと一息、というところで、もうひとりの(夫の他の)外国人の男性が細かい砂利が敷き詰めてあるところで滑り、盛大な音を立てて転んでいた。
だいぶ前を歩いていた息子が、はっと振り返った。私じゃないってば。
「I'm okay, I'm okay」と繰り返しながら、土が見えてしまっているところに砂利を戻し現状復帰を試みるその人は、きっといい人なんだろうと思う。
出口に戻る手前で、次のグループとすれ違った。
こちらは元気な女性職員さんの引率。
担当の方によって説明のポイントも雰囲気もかなり違うらしく、前回訪れた時に聞いたという解説を息子から副音声のように聞くことができたのも楽しかった。
こちらもいつかまた、訪れたい。
ちなみに、「雪が降っても散策路の除雪をしてお迎えします」とのことだった。
意外と人の少ない季節で狙い目かも。万全の用意をしてぜひ!