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フォーレのレクイエム|シュテファン大聖堂
11時間電車に揺られて到着したウィーン。
中央駅から街の中心シュテファン大聖堂のある広場までは地下鉄を利用する。
大聖堂から歩いて5分のところに宿を取っていた。
宿まであと何歩かというところで、ぽつりと最初の雨粒が。
部屋に入り窓を開けると、さーっと降り始めた。静かな夕立だった。
少しのあいだ続いた雨は、これまた静かに止み、夕方の光があたりを照らしはじめる。
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この日の夜は、シュテファン大聖堂でコンサートがあった。
演目はガブリエル・フォーレの「レクイエム」。あらかじめチケットを予約してある。
20時半開演とのことだったので、時間までしばらく辺りを散歩することにする。
「どことなくミラノに似てるんだよな」と夫は言う。「でもウィーンのほうがきれい」
言われてみれば、歩いた界隈にはほとんどゴミが落ちておらず、犬の落としものもない。建物の壁の落書きも見なかった。
ミラノを離れてからのほうがずっと長くなった夫、もしかしたら幼いころの遠い記憶のミラノとつながるなにかがあるのかもしれない。
*
20時の開場を前に、大聖堂の入り口には列ができていた。
せっかくなので私たちも早めに入ることにした。
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客席はどんどん埋まっていく。ビシッとスーツで決めている人もいれば、まったくの普段着にエコバッグを提げている人もいる。こういうところに文化の成熟を感じたりもする。
数あるレクイエムの中でも、フォーレのレクイエムは穏やかでやさしく慈愛に満ちているように思う。今年はフォーレが亡くなって100年になるそうだ。
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ここしばらく、いくつかの訃報にふれた。
身内、古くからの知り合い、またお会いしたことはなくとも身近に感じられていた方々……母の命日も近い。
この世を去った人たちがいつの日も安らかに、またその人らしくありますように。美しいレクイエムに祈りをのせた。
こちらはフォーレの母国フランス、パリ音楽院管弦楽団によるレクイエムです。