寒さの緩んだ雨の朝に
雨の音で目が覚める。
冬はどんより曇る日がほとんどだが、雨はそれほど多くない。
外階段の手すりにしずくの当たる「トクトク」「ピチピチ」はそれぞれのリズムを刻む。通りから渡ってくるくぐもったバスの音。
なんだか遠い春のような懐かしさをおぼえた。
身支度を済ませて玄関を開けると、そこには予想通りの空気があった。
まだ日も昇っていない(といっても7時)のに5℃ある。湿度を含んだ空気は春のそれとは違うものの、心身ともにキュッと締まるような氷点下の冷気に比べるとだいぶ穏やかだ。
寒さが緩んでほっとする気持ちはもちろんある。先日の森でも小さな春の気配に心楽しくなることもあった。
でも、今朝はそれとは逆にどこか落ち着かない感情も芽生えた。「不安」というわけではなく「憂鬱」とも違うのだけれど、エスカレーターに乗る直前に、一瞬、足を前に出すのを躊躇するような感覚といえばいいか。
本格的に冬の曇天を抜けて青空が広がり、春の花々が咲き出す頃には、また「ああ、春はいいなあ」などとその美しさに無防備に浸ることはわかっているのだが、今朝のように、このまま春にはならずにもう一度寒波がやってくるということに安らぎを感じたりもする。
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いつも朝食にしているトースト用食パンをうっかり切らした。
「そうだ、あれがあった」と、クリスマスに持ち帰ったパネトーネを開けた。
ワインやパスタ、お菓子などを詰め合わせたカゴに一緒に入っていたものだ。
あともう少し冬にいようよ、とパネトーネに引き止められている。