日韓の漢字語の違い~同義異字語:代用字の功罪
「漢字語」という共通項を持つ日本語と韓国語。日本人にとって韓国語がいかに学びやすい言語であるかということは、前書き①と②で述べた通りで、「日本人は韓国語の単語の半分を最初から知っている」と少々乱暴な自説も展開した。
韓国語を学びたての頃は、この恩恵を十分に受けて、韓国語の漢字語の単語がスラスラと頭に入って来る。それは間違いない。
ところが、レベルが中級以上になってくると(これを読んでいる人の多くが中級以上だと思うので、よくお分かりだと思うが)、「あれ?同じ意味の漢字語なのに、なんで発音が違うの?」というケースにいくつも出会って戸惑うはずである。
前回は「同じ漢字だが意味が違う」同字異義語①と②を紹介したが、今回は「意味は同じだが使われる漢字が微妙に違う(=それ故に発音も違う)」漢字語(同義異字語)についてお話したい。
例えば「慰謝料」。「感謝」が「감사《カムサ》」だから当然「위사료《ウィサリョ》」と思いきや、正解は「위자료《ウィジャリョ》」。
例えば「広報」。「広告」が「광고《クヮンゴ》」だから当然「광보《クヮンボ》」と思いきや、正解は「홍보《ホンボ》」。
例えば「刺激」。「感激」が「감격《カムギョク》」だから当然「자격《チャギョク》」と思いきや、正解は「자극《チャグク》」。
この微妙な差は、日韓で同じ意味の漢字語に使われている漢字が「微妙に違う」ために生じる厄介な現象である。
上の3つの単語を韓国で使われている漢字で表すと「慰藉料」「弘報」「刺戟」となる。
それぞれ、日本語では「イシャリョウ」「コウホウ」「シゲキ」と読み「慰謝料」「広報」「刺激」と同じ音だが、韓国語の音は「謝(사)/藉(자)」、「広(광)/弘(홍)」、「激(격)/戟(극)」と違うのだ。
なぜこんなことになったのだろうか?
実は、日本でも昔は「慰藉料」「弘報」「刺戟」と書いていた。
その頃に韓国語を学んでいた日本人は、漢字をそのまま韓国語の音に置き換えるだけで「위자료」「홍보」「자극」と正しく発音・表記できたはずだ。
ではいつから、どうして、変わってしまったのだろうか?
1946(昭和21)年に内閣が「公文書や新聞などで使われるべき漢字の範囲」を示すとして「当用漢字表」なるものを作成、告示した。
10年後の1956(昭和31)年、この「当用漢字表」にない漢字を含む漢字語について、国語審議会が「同音の漢字による書きかえ」というものを発表し、その中で『代用字』を定めた。
この『代用字』こそが、日韓の間で漢字語に「微妙な違い」を生じさせた張本人だ。
上の例でいえば、「藉」「弘」「戟」は当用漢字表にないので、音が同じで意味も似ている「謝」「広」「激」に置き換えなさい!というお達しが下ったのだ。
「なるべくやさしい漢字を使いましょう」という「お上の余計なお世話」が、韓国語を学ぶ我々にとっては「障害」となって現在まで続いているのだ。まさに「ありがた迷惑」といったところだろうか。
因みに、この「障害」という言葉も「被害」が「피해」だから「장해」と思いきや、正解は「장애(障碍)」。日本では「碍」が「当用漢字表」にないため、「害」という『代用字』に置き換えられたのだ。
このような日韓漢字語の「微妙な違い」は、調べれば嫌というほどある。
以下にその一部を列挙する。(あいうえお順)
この他にも『代用字』自体はまだまだ沢山あるのだが、本来の字と代用字の韓国語の発音が「たまたま同一だった」ために、代用字による漢字語をそのまま韓国語読みしても通じる「ラッキーなケース」もある。
『当用漢字』や『代用字』の導入に関しては、当時も少なからぬ反対の声があったそうだ。
韓国語を学ぶ立場からは「多少漢字が難しくても、韓国と同じままにしておいてほしかった!」と思う人も多いのではないだろうか?
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