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「ん」の音は3種類ある~ㄴ(n),ㅁ(m),ㅇ(ng)パッチム攻略法

韓国語は日本人にとって世界一簡単な(=習得しやすい)外国語だと思うが、そんな中でも難しいと感じるいくつかの特徴のうちの1つが「パッチム(받침)」の存在だろう。「받침パッチム」とは元々「支えるもの」という意味で、ハングルの1文字の最後(=一番下)に書かれる(=終声になる)子音のことである。つまり、韓国語は英語等と同様に「子音で終われる言語」なのである。これに対して日本語は「ん」以外は全て母音で終わるので、そもそも子音で終わるように発音すること自体が難しい(日本人より韓国人のほうが英語の発音が良いと言われるのはこの違いによる)。例えば「김치キムチ」は正しくは「kimchi」と発音し、「m」は「ム(mu)」ではなく子音の「m」だけなのだが、日本人はどうしても母音「ウ(u)」を付けて「キムチ(kimuchi)」と言ってしまう。
また、パッチムには「k, n, t, l, m, p, ng」と7種類の音があるので、これをちゃんと発音できるようにならないとなかなか正しく伝わらないし、ちゃんと聞き分けられるようにならないと意味を取り違えてしまう。

さて、我々には厄介なパッチムだが、上での述べたように、日本語にも実は「ん」というパッチム(のようなもの)がある。「なんや、1つしかないやん」と思うかもしれないが、実は我々は普段から「ん」で3種類の音を出しているので、韓国語の7つのパッチムのうち3つは日本人でも簡単に発音できるはずなのだ(聞き分けるとなると別問題だが)。試しに下の文章を声に出して読んでみてほしい。

三人の運命を考える
にんのうめいをかがえる

それぞれの「ん」を発音する時、口の形や舌の位置が違うことに気付いただろうか?
上の文章を発音通りにローマ字表記すると

sanninno ummeio kanggaeru

無意識のうちに、順に「n」「m」「ng」と発音しているのだ。
これをハングルで表記すると

닌노 메이오 가에루

となり、順に「ㄴ(n)」「ㅁ(m)」「ㅇ(ng)」の3種類のパッチムの音を出していることがわかる。
つまり、「ㄴ(n)」「ㅁ(m)」「ㅇ(ng)」の音を出すためには、「三人」「運命」「考える」の「ん」の口の形や舌の位置を意識すればいいのだ。「김치キムチ」も「運命」の「ん(ㅁ,m)」を意識すれば「kimuchi」ではなく「kimchi」と発音できるはずだ。「運命のキムチ」と続けて何度も言えばいいかもしれない(笑)

もちろん、日本人は「ん」を発音する時にいちいち「n」と言っているか「m」と言っているか「ng」と言っているか意識もしていなければ聞き分けもしていない(日本語ではしなくても意味に違いが出ないため)が、韓国語(や中国語)では「(n)」「(m)」「(ng)」の違いによって当然、下のように意味も違ってくる

「ㄴ(n)」간 <kan> 塩加減
「ㅁ(m)」감 <kam> 柿
「ㅇ(ng)」강 <kang> 川

漢字音についても同様で、「山」も「三」も「算」も日本語の音読みでは「さん」だが、韓国語では

「ㄴ(n)」산 <san> 山 産 散 算 酸
「ㅁ(m)」삼 <sam> 三 森 滲 蔘
「ㅇ(ng)」상 <sang> 上 床 状 尚 相 桑 商 常 祥 喪 象 傷 想 詳 像 装 賞 償 霜

とパッチムの違う漢字がこれだけある。(산 <san>は日本語でも全て「さん」だが、삼 <sam>は「三」以外は「しん」になっているところが興味深い。また、상 <sang>が「しょう」「そう」等になる点については別記事で紹介している。)

先程、日本語では「ん」の「ㄴ(n)」「ㅁ(m)」「ㅇ(ng)」の音の違いを聞き分けていないと言ったが、その昔、漢字や韓国語が日本に伝えられた時には、その音を聞いた当時の日本人が「ㅁ(m)」と「ㅇ(ng)」の違いを聞き分けていたのではないかという「証拠」が残っている。それは

三位一体 さんみいったい
相模 さがみ

という言葉だ。もうお気付きかもしれないが、「三位」は普通に読めば「さんい」で「み」という音はない。同様に「相模」も普通に読めば「そうも」「しょうぼ」などで「が」という音はない。しかし、これを韓国語で書くと

위일체 sam wi il che
sang mo

となり、「三」は「sam」で「m」の音が、「相」は「sang」で「ng」の音が含まれている。
昔の人はこの違いをちゃんと聞き分け、「三」の「m」音を「さんみ」の「み(mi)」で、「相」の「ng」音を「さがみ」の「が(ga)」で表して、同じ「ん」でも微妙に音が違う痕跡を必死に残そうとしたのではないか、という推測が成り立つ。
時代はだいぶ下るが、Americanを「メリケン(粉)」、Hepburnを「ヘボン(式ローマ字)」と聴き取った昔の人は、アメリカン、ヘップバーンと(文字に釣られて)書いてしまう現代人よりよっぽど耳が良かった、音に敏感だったということだろう。

ちょっと脱線したが、パッチムの残りの4つの音(k, t, l, p)についても、
「k」は「かっこいい」の「こ」直前の口の形、
「t」は「もっと」の「と」直前の舌の位置、
「p」は「やっぱり」の「ぱ」直前の口の形
を意識すれば理解しやすいと思うが、
「l」パッチムだけは日本語の発音の中には存在しないので、英語の「help」の「l」だと理解するしかない。

どうだろう?パッチムは確かに韓国語習得のハードルのうちの1つではあるが、結局は同じ人間が同じ口で発音し、同じ耳で聴くのだから、できないはずはない。上にダラダラと書いた「理屈」がそのハードルを少しでも下げる助けになればうれしい。

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