餃子日記
自宅の最寄り駅に降り立ち、目当ての商品も買えずにやれやれと自宅に帰ろうかと思っていたが、駅前のスーパーで生鮮品を買おうと帰路のルートを変更した。
5月の終わり。まもなく6月で梅雨入りに差しかかろうとしている気温は、連日夏日の記録をたたき出している。そんな気候でほてった体温をスーパーの冷房はひんやりと静めてくれるのだ。
店内でまず目に入ったのは青々と束になったニラ。一束89円という近頃野菜の高騰に反骨している家庭の味方の価格。
思わず買い物かごに入れてしまったが、ニラで何を作るか決めていなかった。
ここで思いついたのが餃子を作り冷凍しておくことだった。ニラといえば餃子、安易であるがまとめて作って冷凍しておけばいつでも餃子が味わえる。餃子欲は突然やってくるのだ。
そうと決まれば精肉コーナーへ向かう。
午後の時間帯のおかげか、なんと豚挽肉のパックに割引シールが貼られていた。賞味期限は今日まで。お店としては残しておきたくないのだろう。
私は割引シールの30%に感謝しながらかごに入れた。
その他物色し、ある程度かごに入れてレジに並ぶ。ちょうど夕飯前ということでレジは人の列ができてレジは忙しなく稼働している。
自分の会計が無事に終わると差し掛かったとき、肝心の餃子の皮を買うのを忘れてしまったことに気づく。
ニラと豚挽肉以外にも購入した食品を持って再び精肉コーナーへ行き、餃子の皮のみ買う手間を考えた。
疲れた思考ではそれすらも面倒になり、一度家に戻って荷物を置いてから家の近所のスーパーで餃子の皮を買うことにした。
家に着くと疲れがどっと出てくる。
餃子を包むのをやめようかと思ったが、豚挽肉の賞味期限が今日までというリミットが課されているため、否応なく餃子の皮を買いに行くことに決められる。
出る前に炭酸の抜けた三ツ矢サイダーを喉に流したが、予想外に感じた甘ったるさに自分の老いがほんのりよぎった。ただ今の私にはこの過剰に思える甘さが栄養に感じた。
近所のスーパーも駅前のスーパーと同じく店内は食材を買いに来ている客で満ちていた。
先ほど買い物を済ませていた私は余分なものを買いたくないため、餃子の皮を求めて精肉コーナーへ向かう。
この店でお肉はよく買うのだが餃子の皮を買うのは初めてだ。
どれどれ、と標準サイズの皮を手に取る。
ずしっと予想以上に重かったのはなんと50枚も封入されていたからだ。
さすがにそんなに包む予定ではなかったため、肉ダネは50枚分もない。
他の皮は大きめが20枚の品があったので大きめの皮をかごに入れた。
ところでこの店ではエビが売られている。以前は30尾入ったパックが売られていたのだが、不況のためか25尾に減ってしまっていた。この店に来るたびにエビのパックが30尾になっていないかチェックしてしまう。そしてエビがある鮮魚コーナーはレジの通りの手前にある。
今日はパックのエビは何尾か。
そこで脇目もふらずレジに向かえばよかったものの私の悪いくせが出てしまい、チェックしてしまった。
そしてこう書いているということはつまり、なんと本日は30尾で売られていたのだ。
見てしまうとつい欲しくなる。いつもと同じ値段で30尾買える。もちろん大きさが小さいかもしれない。だけど以前肉ダネにエビを入れたエビ餃子はとても美味しかった。
どうせ餃子を作るなら美味しいエビ餃子も捨てがたい。
そんな誘惑がもやもやと湧いてきて、エビのパックの前で立ち止まってしまう。
しかし疲れていつもの勢いが無い私は、冷静になる。
殻付きのエビの処理は面倒であること、先ほどスーパーで買い物をしたのだから余分な物は買わないこと。
私はエビを買うことを断念した。
自分の欲望に打ち勝ち、凱旋した私。
さっき戻った時よりもなんだか疲れが増しているのはきっと気のせいではない。
これから餃子を作らねばならない。手順は簡単だが作業量がある。
もし今日餃子を作らねば、豚挽肉は賞味期限を迎えてしまうし餃子の皮を買いに行った労力とエビの誘惑を振り切った私に意味がなくなってしまう。
私は先ほど飲みかけの三ツ矢サイダーを飲みきり、台所に立った。