風見鶏ローディー(番外編)|古い#毎週ショートショートnote(裏お題)からお題拝借(㊗️2周年)
『博士と助手』シリーズです。今回の話は長いし、〆切もとっくの昔(2023.5.13)に超過しているので #毎週ショートショートnote のハッシュタグ外しています。あと、こちら(当時の表お題)やこちら(後日のお題)を読んでいただけたら、より一層妄想の世界が広がると思います。
ダラダラ書いているうちに、毎週ショートショートnoteの2周年も巡って来ました。お祝いと感謝の意も込めて仕上げたいと思います。
それでは、はじまりはじまり! ↓
俺の名はローディー・バリモア。植物学者をしている。日本の学会に呼ばれ講演し、その後の交流パーティーに参加している。世界権威のハナ・ヘンダーソン教授との会食が楽しみだったが、彼女の通訳立方 体嬢は、俺のどストライクだった。
「こんにちは、ヘンダーソン教授。今日の講演テーマも素晴らしい!常に地球規模で考える教授の視点には、毎回学ぶことが多いです」
「いつもお世辞をありがとう、ローディー教授。そして、あなたの狙いは私の通訳なんでしょう?でも、彼女は思い人がいるの。諦めることね」
なんと、早々に思惑がバレていたか。しかも彼女に思い人がいるとは!誰だ?会場にいるのか?
ヘンダーソン教授は何やらメモを書き、彼女に誰かへ届けるよう告げた。俺は彼女の後を追う。途中で彼女はパッとしない男とメモを交換して戻って来た。そいつ…ではないだろう。男の戻り先を見たら、さっき俺の前に講演していた木下とかいう奴だった。
もしかして、木下教授か。ヘンダーソン教授がマクロな視点なら、木下教授はミクロの視点で考える感じだ。地味だが緻密で丁寧な研究レポートには説得力がある。知的な印象で侮れない奴だ。
木下教授と意見を交わしてみるのも、彼女に振り向いてもらう第一歩になるかもしれない。
「初めまして、木下教授。私はローディー・バリモアと申します」
「いや〜、ローディー教授!初めまして。教授の方からわざわざ会いに来ていただき、恐縮です。せっかくですから、もっとこちらの方で…」
「いや、そんなに奥の方まで行かなくても…(通訳の彼女から離れてしまうし)」
俺はチラッとヘンダーソン教授の通訳の方を見たら、彼女はメモを交換したパッとしない男をずっと目で追っていた。えっ?こいつ(木下教授)じゃなくて、そいつ(助手の井上)だったの?
俺は木下教授から離れたかったが、頼りにしている助手の井上とやらの研究熱心さについて異様に熱く語ってきた。恋仇の話なんか、誰が耳を傾けるかっていうんだよ!よし、だったら今度はそいつと話をしようじゃないか。俺の方が格上だっていうことを証明してやる。
「木下教授、すみませんが大変優秀な助手の方はどちらに?少し彼とお話がしたくなりました」
「それはいい。お〜い、井上!ローディー教授がお前と話をしたいそうだ」
「大変ありがたいですけれど、僕は英会話がちょっと苦手なので…」
「だったら、ハナ教授の通訳を連れてくれば良いだろう?ちょうどそこにいるじゃないか!」
なんと、俺にとっても幸運なことに通訳の彼女も同席することになった。所詮、助手程度の知識や経験しかない男に、俺は負けるはずがない。彼女の目を覚まさせ、こっちに目を向けてもらうチャンスだな。
「初めまして。植物学では作物栽培学を専門にしているローディー・バリモアと言います。Mr.井上はどのような分野にご興味がお有りで?」
「初めまして、バリモア教授。井上清敬といいます。まだ専門を決めかねているのですが… ただただ植物のことを知りたい!そればかりです」
なんだよ、ただの植物オタクか。何か拍子抜けするな。広く浅くの知識しかないんだろう。パーティー料理のつまみのひとつ、アボカドをネタに、どこまでついてこられるか聞いてみるか。
「このアボカドディップはなかなか美味いですね。Mr.井上は、アボカドお好きですか?」
「お酒にも合うし割と好きです。こちらの料理で使われているのは… 一般的なハス種ではなく、多分国産のチョケテ種かな?」
「ほぉ!舌もなかなか肥えていらっしゃるようで。(意外だったぜ)今は世界的にもアボカドは人気のようですね。Mr.井上はどう思われますか?」
「栄養価が高く健康や美容にも良くて美味しければ、人気が出るのは当然だと思います。ただ、急激な需要要求に供給側が追いついていず、環境破壊などが起きていることは憂うべき事態だと思います」
「(なんだよ、こいつ。意外と新聞とか隅々まで読むタイプなのか?)例えばどのような環境破壊があるのですか?」
「日本など、ここ10年ほどで輸入量は2倍になりました。世界的な規模でアボカドの消費量が高まっているので、主な原産国であるメキシコは、生産量を上げるために、トウモロコシや豆畑をアボカド畑に変え、それでも足りず違法な森林伐採も行われるようになったと聞きます。更にアボカド栽培では水を大量に使うので、水源地独占化が起きて周りの住民の飲水が無くなったり、水源地が枯渇したりの弊害もあると聞いています。バリモア教授の専門分野ですね。教授はどのようにお考えでしょうか?」
「(それなりの知識はありそうだな)豊かではない水源地の地域ではアボカドの栽培を辞めさせたり、そのような地域で栽培されたアボカドは購入しない…などの働きかけは必要ですね。今よりも少ない水で生育できるよう品種改良を進めることも大切です」
俺はなんでこいつ(井上)とアボカドについて熱く語り合っているんだろう… 通訳の彼女にも、ただ働きしてもらったりして悪かったな。(あ、気遣いのできる俺って凄い)
「バリモア教授、僕のような者にも声をかけていただきありがとうございます。大変勉強になりました。教授もお忙しいことと思いますし、この通訳の彼女のボランティアにもずいぶん甘えてしまいましたし… ありがとうございました」
な、なんでこいつが先に会話を…しかも彼女を労って終わらせるんだよ?
「バリモア教授、井上さん、貴重なお時間にご一緒させていただきありがとうございました。少しでもお役にたてたのなら嬉しいです」
うわぁ、彼女にも会話を終わらされてしまった。しょうがない、ここはひとまず退散するか。しかしMr.井上、侮れない奴だな。
「Mr.井上、そして通訳の…お名前は?」
「名乗るほどの者ではないので…」
「…(教えてくれないのか)ありがとうございました。とても楽しかったです。またお会いしましょう」
「「へばの〜!!」」
「へばの?」
「See you と同じ意味よ」
二人揃って同じ言葉をかけられると、なんだかいたたまれないな。
「へばの〜」
俺は、よくわからない敗北感に包まれて、通訳の彼女から離れた。まぁ、いいさ。次がある。
ほら、会場の向こうにもいい感じの…確かフランスから来た准教授だったような。
[約2600字]
お題を書いて、裏のお題も書いていたらどんどん妄想が激しくなり、410文字では書き足りなくて…
そんな情熱のあった頃を思い出して喜々としています。
アボカドの記事を書くのに、あれこれ調べていたのが懐かしい思い出ですね。
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