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きいろ

大好きでたまらない人がいた。
会えたらものすごくわくわくした。
一緒にいられる時間はとても楽しいのにずっと苦しかった。
いつのまにか楽しいよりも苦しいの方が大きくなってしまった。上手に息ができない。
だからもう会うのをやめようと決めた。

それを伝えると決めたけれど、どうにも言えそうにないじゃないか。なので彼が大好きだと言っていたシュークリームを作った。

その包みに手紙を入れた。
もう会いたくない。わたしを思い出さないで。連絡してこないで。と。
POPSで薬子ちゃんが三島くんに言ったセリフ。
その時の薬子ちゃんの気持ちとおんなじ、そのままだったので拝借したんだと思う。

その別れを手に持って待ち合わせに行く。
彼は大きな笑顔で、君の大好きなもののお店見つけたからそこでご飯を食べよう。と言う。
たまごが好き。それを覚えていたらしく、オムレツのお店だった。

別れを手に持っているから、ちょっと気を抜くと泣きそうになる。歯を食いしばる。

優しく笑って、楽しげに話す彼。

少し離れた席のおじさんが、1人でもくもくとオムレツを食べていた。
別れをそばに置いて苦しい表情のわたしに気づいた彼が、どうしたのと言うようにテーブルの上にあるわたしの手を取る。
1人で食べてるの淋しくないかな。と勝手におじさんを可哀想な人に仕立て上げようとするわたし。

彼は
君と一緒でたまごがすごく好きなのかもよ?
今日はオムレツ食べよう!1人でじっくり味わおう!
って朝から楽しみにしてたかもしれないよ?
と言って、わたしの握りしめたグーの手を優しく包んだ。

シュークリームを手渡して、バイバイした。
強い気持ちで振り返らずに。
がんばったなぁ、若いわたし。

彼を思ってたくさん悩んで泣いた。
楽しい思い出ももちろんあるけれど、苦しい6年の恋だった。
今ならあの恋をしてよかったと言えるけれど、当時は出会わなければと呪ったりもした。

久しぶりにオムレツを食べたら、鮮明に訪れた黄色い思い出。
オムレツって難しい。
いつかきれいな形の、とろりとしつつもしっかりしたやつ、作れるようになるかしら。

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