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なつのかおり

8月生まれの彼は夏が嫌いだった。
今日も彼は「まだ8月だってのに、9月になったらどうなるんだよ」とぼやいていた。
そんな彼の誕生日に香水をプレゼントした。
初めてのプレゼント。

彼は「俺そんなに体臭ひどいか?」と苦笑いを浮かべたけど、私が「そういう意味じゃない!」と強く否定したのを見て、驚きながらも「ありがとう」と優しく笑った。

彼は香水を自分の腕に吹きかけて、鼻をひくひくさせて匂いを嗅いでいた。
こういうところ、可愛いな…と見つめていたら
彼は「めっちゃいい匂い!夏の嫌な暑さ吹き飛ばす爽やかな香りだ」と言った。
初めてのプレゼント喜んでもらえて良かった。

その後は食事をして、他愛もない話をしてお互いの家に帰った。

私は家に帰り夫の帰りを待つ。
夫は職業柄帰りが遅く、私は毎日ひとりで晩御飯を食べていた。
寂しさはもう無い。
夫が帰ってきたら、笑顔で出迎え優しくて可愛い奥さんを演じる。
そんなひとりの夜に幼なじみの彼から連絡が来た。
連絡を取りあってからは早かった。
私たちはお互いを慰め合い、毎日の頑張りを褒めたたえ合った。

本来であれば夫婦での行為を彼に求めた。
彼が私を求める時私は幸せになった。
でももう彼と会えるのは今日で最後だ。
夫の転勤が決まり、それについて行くことになったのだ。

私たちは互いにプレゼントを送り合わないよう約束をしていたけど、少しの未練と私を美しい思い出として残して欲しかったから。

会えないことを彼に伝えたら「そっか…」とだけ返ってきた。
続けて「今まで夏は暑くて嫌いだったけど香水のおかげで好きになれるよ」と来た。
私は「今更だよね」と伝えた。

私たちは、始まりから終わりまでずっとお互いの気持ちを隠してきたのに今更気づいてしまった。
この気持ちは香水のようにいつか薄れて消えてくれるのだろうか。

消える時は多分この香水を使い終わった時だろう。と思いながら自分用に買った香水を化粧台に隠した。

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