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#15 アメリカの中学・高校で必ず読む3つの小説。物語を通して考えることの大切さ。

今回は海外体験第3弾ということで、アメリカの学校生活、主に英語の授業がどのようなものだったのかゆるーく記録したいと思います。

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私は中学校はネパールのアメリカンインターナショナルスクール、高校1年生から卒業するまでは、アメリカの現地の高校に通っていたのですが、英語の授業(あちらでいう国語の授業)が特に大変でした。

アメリカは州によって教育内容やシステムが若干違うのですが、共通して英語の授業では、必ず何冊かの小説を読みます。

日本のように教科書などはなく、小説を読み、内容や言語について学び、そして最後にその物語が伝えたいテーマや価値観について討論し、自身の考えを述べるというのが主な授業の流れでした。

もちろん、小説は1冊1冊がとても長くて、アメリカでもベストセラーになるような有名な本です。最初のうちはまず英語を読むのも一苦労で、内容を理解して討論をするというのはかなり難しかったです。

しかし、小説を読むことを通して、新しい価値観・道徳観を学び、社会問題に意識が高まったことは確かです。

今回はそんなアメリカの学生は誰もが必ずは読んでいて、私自身も特に印象に残っている小説を3つご紹介します。日本語版もあるので、機会があればぜひ読んでみてください。

① The Giver / By Louis Lowry 

1993年 Edition

まずはこちらの本。日本語版では、『ザ・ギバー 記憶を伝える者』で、著者はアメリカ人のLouis Lowry (ロイス・ローリー)という方。

主人公が住む未来の世界は、いわゆる痛み、妬み、欲望、苦痛などが一切消された争いのない平和な理想社会 (Utopia)

例えば、12歳になるとその人の特性に合わせて職業が与えられます。また、愛情や喜怒哀楽から生まれる争いなどを避けるため、そのような感情は薬の接種により制御されており、結婚する相手や家族構成も決められています。また、年をとって働けなくなると、老人ホームに入り、時がくれば安楽死と言う形でこの世を去るのです。

ここまで書くとかなり極端な世界と言えますが、主人公のJonas (ジョーナス)はこの完璧に作られた世界で痛みや愛情を知ることなく当たり前に生活し、過去の記憶(私たちが住む現代社会)と出会ったとき、彼が感じた葛藤や、以前の世界を取り戻そうと奮闘する様子が描かれています。

初めてこの本を読んだ時は衝撃を受けました。この本が面白いのは、改めて「理想な社会とは何か?」「幸せとは何か」と考えさせられるところだと思います。

彼が住む平和だけれど無味な世界と、争いはあるけれど人間味のある現代社会。自分にとっての良い世界とはどのようなものなのか?子供のうちから考えることで、物事の善悪や現代社会の問題について、意識を向けることができると思います。

アメリカの英語の授業でも、「あなたにとってのユートピアは何か」や「ユートピアを作るには何が必要なのか」などの問いについて議論をしたことを、今でもよく覚えています。

自然と難しい問題について考えさせてくれる素敵な本です。

② To Kill a Mocking Bird / By Harper Lee


1960年 Edition

こちらの本はアメリカの歴史も深く紐づいている物語。日本語は『アラバマ物語』で、著者はアメリカ人の Harper Lee (ハーパー・リー)という方。映画化もされているようです。

アメリカで今もなお根深い問題である黒人差別について描かれている作品です。アメリカのアラバマ州の小さな町で起きた白人女性への暴行事件の容疑者である黒人男性(Tom Robinson)を弁護することになった6歳の少女で主人公の Scout(スカウト) の父 Atticus (アティカス)。無罪な証拠がいくつもあるにも関わらず、黒人と言うだけで人々の偏見はひどく、不公平な裁判が行われます。

また同時期に、Scout (スカウト)の住む小さな町に、Radley (ラドリー)一家が引っ越してきます。彼らは、町の掟を知らなかったため、周りからは奇妙な存在として扱われていました。主人公のScout(スカウト)も最初は、変な隣人を面白がっていましたが、お父さんが担当している裁判などを通して、徐々に自分の価値観や基準が必ずしも他人と共通ではないこと、違うというだけで差別することの愚かさを学んでいきます。

この作品を通して、改めて黒人だけではなく差別や人が持つ偏見全般について、人権ついて、そして正義について子供ながらに考えさせられるものでした。主人公が6歳の少女だったこと、彼女が抱く素朴な疑問などのお陰で話の内容もすっと入ってきます。

この本の中で父のAtticusがScoutに言った言葉で印象に残っているものがあります。

"To put yourself into someone's shoes" 
他人の靴を履いてみる(=他人の視点から物事を見る)

というものです。

これは、英語でよく使われるフレーズです。アメリカには道徳教育などはありませんが、このような小説を通して、相手を思いやる心を育て、差別や偏見について考えさせているのではないかなと思います。

③ Lord of the Flies / By William Golding


1954年 Edition

こちらの本は中学2年生、高校1年生と2回読んだのですが、2回とも心の中がざわついた作品でした。日本語版では『蠅の王』で、著者はイギリス人のWilliam Golding (ウィリアム・ゴールディング)です。

ある日、戦争中に疎開する子供たちを乗せた飛行機が無人島に不時着します。生き残った子供たちは、リーダーを決め、その無人島で自由に生きるために子供ならではの社会を作り出していきます。最初は大人やルールがない世界は楽しく感じられたものの、次第にお互いへの不信感、不満、将来への恐怖などから、争いが起き始めます。

物語の主人公はRalph(ラルフ)とその友人で少しぽっちゃりしているPiggy(ピギー)で、民主主義的な世界を作ろうとします。しかし、そこに対立する男の子Jack (ジャック)などが現れ、様々な試練や争いに巻き込まれていきます。

この本を読んで、一番恐ろしいと感じたのは、「子供は無垢でピュアなもの」というものが覆され、規制がない中で現れる「人間の本性」が生々しく描かれるところです。人間の善と悪が問われる作品です。

また、この本を読んで行った議論のテーマが

Are humans innately bad?
人間は生まれつき悪なのか?

というものでした。

人はルールや罰則があるからこそ、良い行動を行っているだけで、本来は悪い人間であるのではないか、という主張に対して自分がどのように思うかでディベートをしたのを覚えています。

人間がそもそもルールを作るのだから、人間は生まれつき良い人だっていると主張する人もいたし、この本のようにルールがなくなったとたん悪になるのであれば、生まれつきそのような本性が備わっているはずだという人もいました。その上で社会の在り方についても議論が発展しました。


中学生ながらに永遠と議論したのを覚えています。
今でも答えは出ていません(笑)

小説を通して考えることの大切さについて


以上が今回ご紹介した3冊になりますが、どれも読んだ時は難しかったですが、今になるとその本の重みを感じることができました。

社会問題や道徳観などは、なかなか教員として切り込むのは難しく、日本の道徳教育でも感じることですが、本当に表面的なことをさらっと触れる場合が多い気がします。誰かを傷つけないように、当たり障りのないことを教えてしまいがちです。

でも、もし本当に問題の本質を捉え、意識を持たせ、世の中のさまざまなことを解決したいのであれば、歴史や文化、その人の持つ価値観などに対して幼いころから疑問を持つ必要があります。その点、互いに鋭く切り込んでいくところは、アメリカらしいなと今になって感じます。

必ずしも答えは1つではないし、本が伝える内容がすべてではないですが、小説を通して著者が訴えかけることに対して、深く考え、議論することが何よりも大切なのでは?とアメリカでの読書体験で感じました。この3つの小説はそういった意味では私の人生観に対しても大きな役割を果たしてくれたと思います。




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