腐るような夢の終わり
孤独に愛されて孤独を愛している自分ではあるが、少しくらい人とコミュニケーションを取らないとつい道を間違えてしまいそうになるので、多少は他人と関わろうという意思はある。傷つけあうことで、尖っていた心が擦り減って丸くなるのだ。価値観のアップデートともいう。周りが更新されていく中、自分のみ古い考え方のままだと生きていくうえで色々と不便が生じてしまう。面倒ではあるが柵に囲まれた不自由な部屋に連行されるよりマシだ。
なんて戯言、諸君らはもう聞き飽きただろう。
このように自分は他とは違うぞとアピールをしているが、実際のところ自分なぞ地味な方であり、贋作で欠陥品だ。世の中には自分より強烈な人間が大勢いる。なので今回は真作で完成品である他人の話でも紡ごうと思う。
もちろん、普通に紹介してもつまらないので少し縛りを設ける。今回は金銭が発生した交流のみ語ることにしよう。要するにゲームや会社などで出会った人物はナシだ。というかヘタに話をして、いつどこで誰の怒りを買ってしまうかわからないので、そこら辺の話は非常に危険なのだ。無料ほど高級なものは存在しない。
うん、つまり、風俗とガルバの話だね。
———読者諸兄諸姉には…永らくお待たせしたことをお詫び申し上げる
———今 漸くこのnoteに
自分にとっては日常だが、諸君らには異世界だろう。ならば語ろう、夢の世界での物語を。
File 001 真夏の夜の夢
川崎にあるソープの特徴として、制服やロリを推している店舗が多いのは拙作のnoteを読んでいる方々ならば常識だろう。
ロリはストライクゾーンに入っているのだが自分の好みではない(過去に塾講師のバイトをやっていたので子供は商品にしか見えない)ので、普段そういう店は選択肢に入らないのだが、その日、たまたま仕事先で制服を着たガキに精神を破壊されてしまったが故に、制服に強いとあるソープランドに立ち寄った。女子高生(成人済)に優しくされることで、心の均衡を保つ寸法だ。
やけに不機嫌な男性スタッフが用意した顔写真を一瞥し、タレ目で鼻が低くFカップで、今時アニメにも出てこないような媚び媚びのツインテールが特徴の女の子を指名する。人気嬢だったらしく、やけに高い料金を払わされた。
待合室で爪やルールのチェックを終わらせた数分後、自分が持っている札に書かれた番号が呼ばれた。頬の内側を噛み笑顔を殺しながら階段を登る。ああティターニア、僕の傷ついた翅を癒しておくれ。
ぬわーーっっ!!
……失礼、取り乱した。ティターニアかと思っていたらキャリバンだったので、つい。もちろん表に感情を出していない。レディにそんな反応をしたら無礼だろう。たしかにテンペストではあったが、嵐ごときで屈するほど自分はルーキーではない。
そう、まだわからないのだ。もしかしたら会話も床も上手くて、朗らかで優しい人柄なのかもしれない。自分は落としてしまった期待を拾い上げ、こんばんはと挨拶をする。
「あ、ども。部屋入ったらタバコ吸っていい?」
"悲しみというものは単独ではやってこない、必ず大挙して押し寄せてくる"《When sorrows come, they come not single spies, but in battalions》
まさに死すべき定め。心にシェイクスピアを住まわせていなかったらその場で泡を吹いて倒れていた。制服姿でタバコは色々まずくないか?
「あー、なに?幼い子が好きな感じ?」
「いえ、救済が欲しくて……」
「どういうこと?」
「あっ僕ロリコンです。はい」
どんなに質問をしてもロクな返答はなく、どんな自分語りをしてもへぇという相槌しかしない。オーラの使い方を練から纒に切り替えて、すみません、自分なんか怒らせちゃいました? と素直に思いぶつける。するとミルドラース彼女はゆっくりと、冷たかった表情を柔らかくしながら話を始めた。
なんでも彼女曰く、こういう塩対応のがおじさま方にはウケるらしい。なるほど、生意気なコが乱れる様子を見て支配欲を満たしているのか。まあ、わからなくもない。しかしその塩対応は、優しくされた経験を持つ人間のみ耐えられるわけで、自分のような人でなしには堪えるものがある。
出禁にならないよう、必死に殺意を抑えながら行為に及ぶ。本番中、機械的な喘ぎ声が頭に重く響いて実に耳障りだった。あと口でする時に歯を立てるなボケがマジで痛いんだよ乳首千切ったろか。
なんとかサービスを終わらせて、向こうの話を聞きながら退店の支度をする。帰り際ごめんねと言っていたが、何に謝っているのかについて一言もなかった。
退店時のアンケートというものは殆どの風俗店に存在しており、今回も例外ではなかった。自分は内容の殆どを最高評価にして提出する。たしかに愛息子を喰われかけた。しかしそれを理由に彼女の誇りを傷つけるとは如何なものか。こんな自分の相手をしてくれたのだから、その時点で低評価などあり得ない。あと評価を低くすると男性スタッフが滅茶苦茶問い詰めて来て面倒くさい。
ハズレを引いたからか射精をしたからなのか、ぼんやりとしているけれど確かに存在している虚無と倦怠が自分にまとわりつく。電車に揺られながら、泥のように眠ることにした。今はただ、この現実という悪夢を終わらせたい。素直な巨乳ロリとは、壊れた幻想だったのだ。
この恐ろしい微睡みに終わりはないのか?
File 045 妖怪ルービックキューブ
いつだったか忘れてしまったが、ピンサロの方が手軽に遊べる分行く回数が多いと、前にも言った覚えがある。それは働く側も同じなのか、ピンサロの方が在籍している女性の入れ替わりが激しい。この間のあの娘が1ヶ月も経たずに辞めてしまうなんてザラだ。しおりちゃんと本の話をもっとしたかったと思っても、それは叶わぬ願いなのである。
だからこそ、個性的な女性との出会いはソープより多くなる。今回はその内の一つを紹介しよう。
ある晴れた昼下がり、ショッピングを楽しんだ〆に一発ブチかますことにした。理由を挙げるとすれば、セクシーで妙に殺し甲斐のありそうな店員さんとエンカウントしたからである。万が一を考慮して、しっかり身だしなみを整えていて助かった。チンチンを尽くして天命を待つという言葉を思い出す。秋の空模様と性欲はいつだって悪戯好きなのだ。ネットに弾かれたテニスボールはどっち側に落ちるかわからない。まあ、これから弾かれるのは自分の金玉なわけだが。
男性スタッフといつも通りのやり取りをして、座席に案内される。今回、笑顔が素敵な新人の女の子ですので……と言われながら飲み物を差し出されたので、爽やかな好青年こと自分はお礼に満点スマイルを見せた。
ほぼ氷しかないコップでしばらく遊んでいると、近くに人の気配がしてきたので顔を上げる。すると綺麗な黒髪が似合う細身の女性が、会釈をしてこちらの席に座ってきた。こんにちは。
返事はなく、返ってきたのはおしぼりのみだった。緊張しているのだろうか。こんにちは。
今度は何も返ってこなかった。女性は座席の隅を見つめている。
全てを理解した自分は、脳内をプランBへと移行させる。つまり、めげずにこちらから話しかけ続け、向こうが働きやすい環境を作ろうというわけだ。自分は現代人らしくリードするのは不得手で、昔、女性から『絶対車道を歩けないタイプだよね(笑)』と言われたことがある(その件について結構気にしている)が、ここでひいたら男が廃る。やってやりんすよ。
はじめまして、何か嫌なこととかあったらすぐに言ってくださいね? ……あ、髪綺麗ですね、日頃から何かケアとかしてるんですか? 髪が綺麗な人って良いですよね。羨ましいな〜。
「うるさい」
マキマさん助けて。俺この店出禁になっちゃう。
慌てて謝りながら、頭の中をフル回転させる。変なオプションを頼んだ覚えはないし……イマドキの風俗嬢はみんなこんな感じなのだろうか。しかし、前来た時まではとても話しやすい娘ばかりが対応してくれた。きっとこの娘だけに違いない。店は悪くない。
……殺すか?
いやまて落ち着け。考えるのだ。スマートでクレバーな解決策があるはずだ。まだ時間はある。ゆっくりやっていこう。そうだ、最初におしぼりを渡してくれたのだから完全な絶望ではない。たしかに、先ほどの自分はやや強引だったような気がする。ここはあえて、相手に会話を委ねよう。激流を制するは静水なのである。
しばらくすると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「あの」
「は、はい!」
「ルービックキューブって、好きですか?」
「あ、あの……立体パズルの……?」
「うん」
「あ〜〜……うん! えっと……はいはいはいはい! ルービックキューブね! 昔やったことあります! 面白いですよね!」
「うん、ルービックキューブの話するね」
ルービックキューブと聞いて、色の違う6面が9マスに分割されているものを真っ先に思い浮かんだのは、自分だけではないだろう。しかし現在、多種多様なルービックキューブが存在しているのだ。ピラミッド型だったり、球体だったり、クマの形をしているものまである。色も様々で、全てが真っ白なルービックキューブなんてものまで存在しているらしい。
そんなルービックキューブだが、最もポピュラーな形の6面タイプには、有名な解法が存在しているのをご存知だろうか。CFOP法といって、まず十字(Cross)を揃え、次に下2段(First 2 Layer)を揃える。そして上の面を全て揃えて(Orientation of Last Layer)から、最後に側面の上段位置を全て揃える(Permutation of Last Layer)と完成する。
……などと提示したが、言うは易く行うは難しという言葉の通り、これを実現させるのは困難である。しかし、それを彼女は必ず20秒以内に完遂できるらしい。大会にも出たことがあると言っていた。
彼女はルービックキューブをこよなく愛しているらしく、その魅力を延々と語っていた。飛び跳ねながら喋るその姿は純粋そのもので、瞳がらんらんと輝いていた。話を聞いているこちらにも、彼女の気持ちが感染る。何か大切なことを忘れているような気がするが、大した問題ではない。好きという感情には、どんな理由があろうとも邪魔は決して許されないのだ。
——今はただ、君に感謝を
「あ、時間……」
男性のくぐもったアナウンスが、自分たちのいる座席番号を呼ぶ。どうやら、30分経ってしまったらしい。やってしまった、という顔とともに消えてしまいそうな声で、ごめんなさいと言われた。
すっかり落ち込んでしまった彼女を慰めながら、店を出ていく。最後に男性スタッフからも謝罪を貰ったが、とにかく大丈夫ですよと言い続けた。
謝りながら渡された特別な割引券を財布にしまい、空を見上げる。今日も太陽がやかましい。けれどなぜか少しだけ、いつもより憎めなかった。
まあ、彼女はガルバとかで頑張った方が良いと思います……