特許重要判例を読もう!(1)生理活性物質測定法事件
最高裁判所第二小法廷平成11年7月16日
1.本判例の意義
方法の発明に関する特許権の範囲を判示したものです。特許には幾つか種類がありますが、それぞれ違いがあるんです。
2.事件概要
特許「生理活性物質測定方法」の権利を有するXが、当該特許請求範囲である測定方法を使用し品質規格検査を行っている製品を販売するYに対して、差し止め請求を行った事件。請求棄却。
3.判決趣旨
①「方法の発明と物を生産する方法の発明とは、明文上判然と区別され、与えられる特許権の効力も明確に異なっている」「当該発明がいずれの発明に該当するかは、明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべき」
②XはYに対して「本件方法の使用」の差止めを請求することができる。しかし、「その製造及びその後の販売を」差止める請求は認容できない。
検討① 発明のカテゴリーによる効力の範囲
特許権の効力範囲は、そのカテゴリーにより変化することが示されました。なので、実際に権利問題に陥った時には、問題となる特許がどの特許なのかは大きな問題になるということが分かります。
理屈としては
①特許法2条3項で種類と実施行為が定義されています。⇒②同68条で実施行為の専有が示されています(各権利で専有できるのは①に示された実施行為)⇒100条で差止めを規定という流れです。各条文が一つで完結せず、組み合わせて意味を成していくのは、面倒ですね。文が長くなっても、簡単な言葉で記載してくれたら分かりやすいのにと恨み節です。
検討② 「方法の発明」と「物の生産方法の発明」の違い
上記のような違いが生まれてくるのであれば、方法の発明であっても物の生産方法に属したほうがいろいろ使い勝手が良さそうです。かと言って、何でもかんでも物の生産方法の発明にするわけにはいきません。どういう決まりがあるのでしょうか?
「物自体を何ら変更することなく単にその物を使用するにとどまりこれにより生産を伴わない使用方法の発明」(大審院S18.4.28)
「方法とは、一定の目的に向けられた系列的に関連のある数個の行為又は減少によって成立するもので、必然的に経時的な要素を含有するもの」(東京高判S32.5.21)
上記のような判例から、下記のような調査官解説が出されています。
生産を伴わず、確認の対象となる対象物に変化を生じさせるものではないから、単純方法の発明に該当する(モノの生産方法の定義は明示されず)
ちなみに事件の背景として、行政指導上、その製造工程上で当該検査方法の使用(先発医薬品と同じ定量方法)が義務付けられていたという事情があり、検査を製造工程の一部とみることもできた。しかし、権利範囲が第三者から見て明確にすることが重要との観点から、記載通りの認定とした。
検討③ ほかのカテゴリーの範囲は?
物事には例外があります。上記に当てはまらない類型の場合や例外を含む発明、例えばPBP(プロダクトバイプロセス)クレームとか用途発明の場合はどうでしょうか?
PBPクレームは少し意外でした。
検討④侵害予防のための差止の範囲
100条2項による侵害行為の予防のための廃棄請求について、積極例と消極例があります。今回は消極例に分類されることになると思います。まだ裁判での議論が熟していないのだとおもいます。今後の裁判の積み重ねを通じより明確になるだろう。
今回のケースで言えば、下記の判断が出されています。
「侵害差止請求としては本件方法の使用の差止めを請求することができるにとどまることに照らし、上告人医薬品の廃棄及び上告人製剤についての薬価基準収載申請の取下げは、差止請求権の実現のために必要な範囲を超えることは明らかである。」
⇒(100条1項)方法の使用の差止はOK
⇒(100条2項)侵害予防のための廃棄:承認や薬価基準収載申請の取り下げはNG
あとがき
こんな感じで、判例を少しずつ見ていきたいと思うのですが、もう少しさっぱりとした簡潔な記事にしようかと思ってます。ステップバイステップです。