【読書】江國香織「神様のボート」

江國香織の「神様のボート」という本を読んだ。主人公は一児の母。彼女はかつてある男性と別れるときに男性から「いつか迎えにくるから」という約束の言葉をかけられ、未だにその言葉を忘れられずにいる。その男性と会いたいという気持ちとは裏腹に、彼女は男性から逃げるかのように頻繁に引っ越しを行う。やがて子どもは成長し頻繁な引越で転校を余儀なくされる現状に反抗するが、それでも彼女は引越を行いたいという気持ちを抱き続ける。果たして彼女は約束の男性と出会えるのだろうか。

以下、ネタバレを含みます。なぜ彼女が引っ越しを繰り返すのか。それは、彼女はその男性と会うこと自体に喜びを持っている以上に、その男性と会えると信じて生きることに喜びを持っているからだと思った。一度会ってしまうといずれ別れが生じるが、会えない間は彼の存在を信じ続けることができる。そのためこのような屈折した行動をとるのではないだろうか。

主人公が引っ越しを繰り返し子がそれに反発するという一見起伏のないストーリーであるが、チャコールグレーやオフタートルといった普段自分がなかなか使わないような外来語が頻繁に登場し、日本について描かれた日本語の小説でありながら外国について描かれた外国語の小説を読んだかのような読後感があった。

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