関節アニメーション解体新書 〜キャラクターアニメーションと広告映像の親和性について〜
広告映像におけるキャラクターアニメーションの強み
モーショングラフィックスによる情報伝達を得意領域としているLIGHT THE WAYでは、ビジュアルコミュニケーションの手法としてキャラクターアニメーションをよく用いています。
広告映像には、基本的に「どんな人に伝えたいか」というターゲットが設定されており、キャラクターアニメーションはそのターゲットの人物像を描くのに非常に有効です。また、さまざまな「行為の描写」もキャラクターアニメーションの得意とするところです。たとえば、プロダクトの使用方法を実演したり、サービスのユーザーエクスペリエンスをユーザー視点で描いたりすることが可能です。
さらに、アニメーション特有の雰囲気(やさしい、コミカル、ポップなど)を演出できる点も大きなメリットのひとつです。こういったキャラクターアニメーションのもつ特性から、LIGHT THE WAYでは、プロモーション、How To動画、ブランディングなど、さまざまな用途でキャラクターアニメーションを活用しています。
この記事では、普段LIGHT THE WAYがキャラクターアニメーションを制作する際に考えていることや、その思考プロセスについて明文化してご紹介します。アニメーションが作られる過程や自然な動きに見せるための工夫、そして何よりもキャラクターアニメーションの魅力が伝われば幸いです。
実写映像からアニメーションを再現する
キャラクターアニメーションの思考プロセスを伝えるために、今回は人が歩いている実写映像をアニメーションで再現するというアプローチを採用します。
キャラクターアニメーションにも様々な種類がありますが、LIGHT THE WAYでは主に「関節アニメーション」を用います。関節アニメーションとは、身体のパーツを関節ごとに区切って関節の回転運動で全身の動きを再現する手法です。
TVアニメのように1コマずつ作画していく手法よりもアクションの自由度は下がりますが、動きを数字で細かくコントロールできるため、モーションが与える印象をコントロールしやすいというメリットがあります。同じ関節運動でも、緩急をつけてキビキビ歩く人と均一な速度で機械的に歩く人とでは受ける印象が違うように、その時々で伝えたい情報に合わせて適切な印象を設計することができます。
プロセス①:身体の位置を移動させる
関節にアニメーションをつける前に、まずは歩行によって移動する身体の位置の変化を再現します。
プロセス②:両手両足の関節運動を再現する
歩行のアニメーションにおけるもっとも大きな関節運動は両手両足のサイクル運動です。 まずは両手両足が交互に前後するような回転運動をつけます。
しかし、両手両足が単に振り子のように揺れているだけでは、自然な歩行には見えません。ここで注意すべきポイントは、両手両足のサイクルのタイミングを完全に揃えないことです。実際の動きをよく観察すると、〈足を前に踏み出す速度〉と〈前に出ている足が後ろに下がる速度〉は異なります。正確には、始めと終わりのタイミングは同じですが、途中で加速するタイミングや減速するタイミングが異なります。さらに詳しく観察すると、足を前に踏み出すときに膝が曲がるように、同じ足の中でも各パーツの回転するタイミングが異なることがわかります。
タイミングのずれを加えると、かなり自然な印象になりました。
プロセス③:全身の関節運動を再現する
歩行は両手両足の運動のように見えますが、実は身体全体を使った複合的な運動です。人は常に全身を使って運動しています。歩行の際も、両手両足の動きに伴って腰や首など、全身の関節がわずかに回転しています。
プロセス④:地面と身体の関係を再現する
そもそも歩行とは足で地面を踏みしめて摩擦による反作用で前に進む動作です。したがって、足の位置は常に地面より下がることはなく、軸足(足を踏み出すとき、地面に着いて身体を支えている逆側の足)が後ろに退く量は常に身体が前に進む量と同じになります。これを加味すると、身体全体の移動は常に一定ではなく、軸足の移動に合わせた緩急のある動きになります。また、軸足の角度の変化によって身体の位置は上下に変化します。
プロセス⑤:人間らしさを演出する
ここまでのプロセスで自然な人の動きは再現できたと思います。最後に、さらにアニメーションとしての魅力を高めるためにアクションを少し誇張して人間らしさを演出します。
ここでは、動きの緩急を強めることで、活発で堂々とした印象を演出しました。このように、どんな印象を与えたいかに応じて動きのイージング(加速・減速のタイミングや強弱)を調整します。これにより、歩き方だけでその人物の感情や性格、年齢性別などの情報を演出することができます。
余談ではありますが、キャラクターの誇張表現については、ウォルト・ディズニー・スタジオに在籍していた2人のアニメーターが提唱した「アニメーション12の原則」が参考になると思います。ディズニー12の原則といえばアニメーション界隈ではあまりに有名なのでご存知の方も多いかと思いますが、それほど古くから人々の興味関心を引くための手法として研究され、重要視されてきたということがよくわかります。12の原則についてはここでは深く触れませんが、気になる方はぜひ調べてみてください。
「アニメーション12の原則」https://sp-magazine.disney.co.jp/p/7091=dfb_7091
質の高いアニメーションを広告映像で用いる最大のメリット
ここまでを見て、「シンプルなアウトプットにみえても、制作工程が多いな」と感じた方も多いのではないでしょうか。特に人の動きのアニメーションは、手間がかかり、表現が難しい部類です。私たちは普段から無意識に運動を行うため、感覚的に自然な動きを知覚しています。そのため、キャラクターアニメーションにわずかでも不自然さがあれば、すぐに違和感を感じてしまいます。
それでは、なぜ多大な手間暇や制作コストをかけてまで、質の高いアニメーションを広告映像に求めるのでしょうか?
それは、アニメーションの動きには、人々の心を惹きつける大きな力があるからです。 質の高いアニメーションには、人を感動させ、巻き込んでファンにする魅力が存在しています。それは単に情報を伝えるだけにとどまらず、しばらく見入ってしまうような感動を与えます。そして、その感動は共感を生み出します。この共感は、SNSで「いいね」を押す感覚に似ているかもしれません。共感が高まれば人々は映像中のメッセージを自分ごと化して捉え、自発的に行動を起こす可能性が高まります。良い映画を見た後に誰かと話したくなったり、自身の意識が変わることがあるように、アニメーション表現も、人々に行動を促す力があると私は考えています。
これが、質の高いアニメーションを広告映像で使う最大のメリットです。情報が溢れる現代社会では、単に認知を広げるだけの静止画スライドショーのような、とってつけた単調なアニメーションだけでは人の心は動かせません。ましてやそこにファンは生まれません。広告には、特定の層に深く刺さり、根強い支持を得るための共感性が求められます。「この商品は自分に合っているかもしれない」「このブランドの考え方が好き」といった共感を生み出し、人々が自発的に行動を促せる広告こそ価値が高いと言えるのではないでしょうか。そして、アニメーション表現はその価値を高めるための選択肢の一つになりえると考えています。
繰り返しになりますが、アニメーション表現で共感を生むためには、やはり動きの質が重要です。静止画のスライドショーで情報は伝わっても、そこには感動は生まれません。私たちは今後もアニメーションのもたらす効果と重要性を理解し、日々こだわりを持って企画・演出・制作に取り組んでまいります。
編集者:高橋直貴 https://twitter.com/nao4200
記事を書いた人:森重 宏紀 https://twitter.com/morishige_ltw
※LIGHT THE WAYのHPはこちら
※LIGHT THE WAYのお問い合わせはこちら
※LIGHT THE WAYの資料請求はこちら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?