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家族法制の見直しに関する中間試案に関する意見

家族法制の見直しに関する中間試案に関する意見

令和5年(2023年)1月7日

 令和4年(2022年)12月6日に公示された「家族法制の見直しに関する中間試案に関する意見募集」に関し、以下に中間試案の考え方、各項目に対する意見を述べる。

1.考え方に関する意見

 法務省民事局参事官室「家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明」(以下、「補足説明」と記載)に「児童の権利に関する条約の批准後の状況等を背景に、国内外から様々な指摘がされており」 と記載されていることから分かるように、今回の法制審議会諮問の背景の1つに国連やEUからの勧告が存在する。「補足説明」には勧告内容が詳しく記載されていないので、ここで紹介すると、以下のとおりである。

  • 「共同監護(joint custody)を認めるために、離婚後の親子関係に関する法律を改正すること」(令和2年2月、国連子どもの権利委員会)

  • 「日本当局に対し、共同親権の可能性に向けた国内法令改正を促すとともに、自らが批准した児童の権利条約へのコミットメントを守ることを求める」(令和2年7月、EU議会)

  • 「子を家族から引き離すための明確な基準を設けるために法律を改正し、その正当性を判断するために、全ての事件に必須の司法審査を導入し、子の保護と子の最善の利益のために必要な場合にのみ、子および両親の意見を聞いた上で、最後の手段として、子が両親から引き離されることを確保すること」(令和4年11月、国連規約人権委員会)

  • 「実子誘拐の事件に適切に対応するために必要な措置を導入し、国内事件か国際事件かに拘らず、子の監護に関する決定が子の最善の利益を考慮し、実際に完全に実施されるようにすること」(令和4年11月、国連規約人権委員会)

 嘗て日本政府は、国連児童の権利委員会による第1回報告書審査の質問に対し、「我が国の憲法第98条第2項は、『日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする』と規定しており、我が国が締結し、公布された条約等は国内法としての効力を持つ」と回答している。然し乍ら、国連やEU議会から勧告を受けている事実とその勧告内容から、現実には日本国内で児童の権利に関する条約を遵守した運用がなされておらず、事実上効力がないことは明白である。
 「親権法の比較研究(日本評論社)」によれば、オーストラリアでは、国際条約の批准により、その内容がそのまま国内で効力を有するとする、直接適用主義が採用されていないため、児童の権利に関する条約の規定を反映させるために、国内法を再検討し、法的、行政的その他手段を講じたとある。
 そこで、オーストラリアに倣い、日本の家族法を児童の権利に関する条約の規定に合致するよう見直すことが、今回の家族法改正の絶対条件だと考える。

2.遵守すべき規定

 今回の中間試案に関わる児童の権利に関する条約の規定は以下の通りである。

第1条・・・児童の定義
この条約の適用上、児童とは、18歳未満のすべての者をいう。(以下省略)
第2条・・・差別の禁止
 締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。
第3条・・・子の最善の利益
 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。(以下省略)
第9条・・・家族から分離されない権利
 締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。
 すべての関係当事者は、1の規定に基づくいかなる手続においても、その手続に参加しかつ自己の意見を述べる機会を有する。
 締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。
第12条・・・意見を表明する権利
 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利がある。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。(以下省略)
第18条・・・親の責任
 締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的な関心事項となるものとする。(以下省略)
第21条・・・養子縁組
養子縁組の制度を認め又は許容している締約国は、児童の最善の利益について最大の考慮が払われることを確保するものとし、また、
⒜ 児童の養子縁組が権限のある当局によってのみ認められることを確保する。この場合において、当該権限のある当局は、適用のある法律及び手続に従い、かつ、信頼し得るすべての関連情報に基づき、養子縁組が父母、親族及び法定保護者に関する児童の状況にかんがみ許容されること並びに必要な場合には、関係者が所要のカウンセリングに基づき養子縁組について事情を知らされた上での同意を与えていることを認定する。(以下省略)
第27条・・・生活水準
 締約国は、児童の身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についてのすべての児童の権利を認める。
 父母又は児童について責任を有する他の者は、自己の能力及び資力の範囲内で、児童の発達に必要な生活条件を確保することについての第一義的な責任を有する。
 締約国は、国内事情に従い、かつ、その能力の範囲内で、1の権利の実現のため、父母及び児童について責任を有する他の者を援助するための適当な措置をとるものとし、また、必要な場合には、特に栄養、衣類及び住居に関して、物的援助及び支援計画を提供する。
 締約国は、父母又は児童について金銭上の責任を有する他の者から、児童の扶養料を自国内で及び外国から、回収することを確保するためのすべての適当な措置をとる。特に、児童について金銭上の責任を有する者が児童と異なる国に居住している場合には、締約国は、国際協定への加入又は国際協定の締結及び他の適当な取決めの作成を促進する。

3.各項目に関する意見

⑴ 全体感

 中間試案の各項目に対して、これから意見を述べていくが、中間試案が多重分岐の構造である上に、クローズドクエスチョンの様相を呈しており、家族法の個々のパーツの賛否を回答する以前に、家族法の全体像をはっきり確定しておかないと、進むべき方向を見失い、その構成パーツの回答を繋ぎ合わせた際に一貫性を欠いたものとなる恐れがある。
 そこで、まず、私の考える家族法の骨格を明確にし、その構成要素とその要素が具備すべき仕組みを基礎に置いて中間試案の要素と比較する方法で各項目に意見することにした。
 私の考える家族法の理解を容易にするため、以下の表に、「アメリカ」と「オーストラリア」の離婚後共同親権(監護)制度、「現行の日本」の離婚後単独親権制度、東京都立大学の木村教授が“離婚後共同親権制度”と称している「法制審」独自の親権制度、私の「要望案」である離婚後共同親権制度を纏めた。この表はそれぞれの特徴を明確にすることが目的であるため、分類の順序や分類の方法が民法学の分類方法とは一致していない。なお、表に記載した内容は主に以下の文献を参考にした。
 ①アメリカ
  日米親権法の比較研究(日本加除出版)
  アメリカ家族法(弘文堂)
 ②オーストラリア
  親権法の比較研究(日本評論社)
 ③日本
  子どもの福祉と共同親権(日本加除出版)
 ④法制審
  日本に共同親権が導入されるとどのような問題が生じるか(ビデオニュース・ドットコム)
 ⑤要望案
  オーストラリアの法制度(骨格)を可能な限りそのまま採用することを前提にしている。
  令和4年(2022年)7月1日の東京新聞に掲載されたように、オーストラリアは、子どもの安全を何よりも優先することを強調する形に離婚後共同監護制度を改正しており、改正を終えた現行のオーストラリアの家族法と同じ構造に日本の家族法を見直すべきと考えるからである。
  具体的には、離婚後も親責任は継続し、両方の親が子どもの養育の責務を負う。従って、それぞれの親の養育時間や共同親責任の多寡や有無に拘らず、養育費の支払いを義務化する。DVや児童虐待の加害者である親は、「子の最善の利益」を害することから、養育費支払義務は負うものの、もう一方の親との親責任の共有ならびに養育時間の共有を認めない。
  子どもの日常のケアや意思決定は、その時点で子どもをケアしていた方の親が責任を負う。つまり、「監護親が非監護親に子どもを預ける」のではなく、「決められた時刻で監護親をスイッチする」という概念である。
  これに伴い、養育費は養育時間をコスト換算し、養育時間と連動した金額をそれぞれが分担する。養育計画(養育費も含む)は、取決め後に裁判所の審査を受けることを離婚の要件とする。なお、離婚前に別居する場合は、養育計画の裁判所提出を別居の要件とする。養育費については、将来的にはオーストラリア同様、取決め決定後の回収を行政が担い、最終形としては養育費の査定も行政が担うことが望ましいと考える。

表 各家族法の具体的内容

⑵ 各項目に関する意見

 以降、中間試案の各項目に対し意見を述べていくが、前提とする見直し案が、私が支持するオーストラリアと大きくことなるため、対比しづらい項目もある。その項目については、若干の不整合が生じる可能性があるものの、考え方を理解してもらうことを優先し、オーストラリアに限定せず、項目に合う離婚後共同親権制度の国を参考にして意見することにした。

(前注1)本試案では「親権」等の用語については現行民法の表現を用いているが、これらの用語に代わるより適切な表現があれば、その用語の見直しも含めて検討すべきであるとの考え方がある。

【意見】
 「親権」と称する用語を、必ず見直さねばならない。
【理由】
 「親権」の意味するところは、子の利益や福祉のために行使する権利であるが、この文字が与える印象を悪用し、親が子を支配する権利と解釈する者が存在する。そのような者の多くは、離婚後共同親権制度を離婚後も元配偶や子どもを支配する仕組みと見做し、親権を取る、取られたという発想に囚われがちである。従って、「親権」と称する用語を、他の用語に変更し、父母が未成年の子どもを健全に育てる義務を負い、権利を有することを明確にすべきである。
 また、今回制度を見直したという事実とその効果を世間の方々が容易に理解し、円滑な運用に結び付けるには、法制度の中身だけでなく、頻繁に見聞きする法律用語をシンボリックな呼称に見直すことが効果的であり、欧米諸国でも中身の見直しと同時に用語の見直しを実施している。これが第二の理由である。
 第三の理由は、今回の法制審議会において、監護権を含む「広義の親権」を監護権とそれ以外の権利に分け、後者を「親権」と称する整理がなされたために、大手マスコミを始め、SNSにおいても混乱が生じており、その混乱をリセットするためである。

【意見】
 見直し後の用語は「親責任」とすべきである
【理由】
 国によって、日本の「親権」に該当する用語は異なり、例えばドイツは「親の配慮」が用いられているが、親としての責任を果たすという意味をダイレクトに表現する「親責任」が最もシンプルで最も適切な用語と考える。例えば、この用語を用いることにより、「親権を手に入れて、離婚後も家族を支配したい」という誤った発想を「親責任を得て、離婚後も親としての責任を果たしたい」に変えることができる。
 オーストラリアを始め、イギリスや、イタリア等、「親責任」を採用している国が多いことも重要である。平成31年(2019年)2月1日に公表された日本に対する国連勧告で、「Shared Custody」という用語が用いられた。対応する日本の法律用語は、従来より家族法や心理学の文献では「共同親権」あるいは「共同監護」であるが、一部の学者が「共同養育」という用語を用いたため、「国連は家族法の見直しを勧告していない」という誤った情報が巷間に流布する事態が生じている。多くの国が使用している用語を採用することで、このような事態を防ぐことができる。

(前注2)本試案で取り扱われている各事項について、今後、具体的な規律を立案するに当たっては、配偶者からの暴力や父母による虐待がある事案に適切に対応することができるようなものとする。

【意見】
 この文章と「補足説明」を読んだが、表現が難解で、「DVや虐待がないケースとあるケースとに分け、前者を原則に骨格を設計し、後者を例外の設計とする」という意味なのか、「DVや虐待がある前提で、父母の一方あるいは双方に制約を課した設計とする」という意味なのか理解できない。
 厚労省の「離婚に関する統計(令和4年)によれば、裁判所を利用した離婚は、全離婚の12%、令和2年(2020年)の司法統計によれば、裁判所を利用した離婚において、離婚理由のうち、身体的DVが9%、精神的DVが13%であった(男女平均、複数回答可)。令和2年の法務省委託による「協議離婚に関する実態調査結果の概要」では、身体的DVが8%、精神的DVが21%であった(複数回答可)。そうすると、DVによる離婚は精神的DVを含め、全離婚の20~30%であり、離婚の70~80%が、DVとは無関係である。従って、法学の常識通り、家族法はDVがない別居や離婚を原則として設計し、DVが関与する離婚は例外規約にすることが合理的である。これは、DVを軽視するという意味ではなく、DVはDVに関する法律で手厚くフォローするという意味である。
 欧米諸国が離婚後共同親権制度に移行して久しいが、安全面をより優先すべく、離婚手続きに入る前のDVアセスメント強化、裁判所職員に対するDV研修の義務付け(アメリカのピーキー法、カナダのケイラ法)、DV歴の情報把握(家庭裁判所が過去の刑事罰、DV歴を照会する義務を含む)、DV懸念時の同席協議禁止等の対策を講じている。日本も欧米諸国に倣い、同じ対策を講じるとともに、初期段階からDV有無を特定し、それぞれに場合分けした家族法を規定すべきである。令和4年(2022年)12月15日に岸田総理大臣がDV防止法(配偶者暴力防止法)改正の検討加速を指示したように、DV防止法の改正、加えてDV支援措置制度の運用是正も、この家族法制度見直しとセットで実施すべきである。

第1 親子関係に関する基本的な規律の整理
1 子の最善の利益の確保等
 ⑴ 父母は、成年に達しない子を養育する責務を負うものとする。
 ⑵ 父母は、民法その他の法令により子について権利の行使及び義務の履行をする場合や、現に子を監護する場合には、子の最善の利益を考慮しなければならないものとする(注1)。
 ⑶ 上記⑵の場合において、父母は、子の年齢及び発達の程度に応じて、子が示した意見を考慮するよう努めるものとする考え方について、引き続き検討するものとする(注2)。

【意見】
 中間試案第1の1⑴を設ける目的の1つが、「補足説明」に記載されているように、「非親権者の親であっても子に対する責任を負うことを明確にする」ことであるならば、条文化に際して、曖昧な表現は避け、オーストラリア家族法の第61条B、第61条Cと同じ条文にすべきである。即ち、
 第61条B
子どもに関する「親責任」とは、父母が子どもに関して法律上有する全ての義務、権能、責任及び権威を意味する
 第61条C
 ⑴-1 父母は、成年に達しない子に対して「親責任」を有する
 ⑴-2 子どもの父母の関係性のいかなる変化に拘らず、⑴-1は効力を有する

【意見】
 「補足説明」で、条文化に際して中間試案第1の1⑵の「子の最善の利益を考慮」の文言を変更する可能性に言及している。しかし、この用語は「児童の権利に関する条約」の根幹となるキーワードで、世界の国々が使用しており、日本が家族法の条文で、この文言を変更する意味を見出せない。民法の他の規定との整合性を優先するのではなく、他の規定の方を見直すべきである。寧ろ、児童の権利に関する条約の第3条の趣旨に沿って、「子の最善の利益を考慮」ではなく、オーストラリアと同様に「子の最善の利益を最優先で考慮」に変更し、考慮の優先順序(子の利益>父母の利益)を明確にすべきである。

【意見】
 中間試案第1の1⑶の「務める」という表現は採用不可。児童の権利に関する条約の第12条で児童の意見表明権を謳っている以上、寧ろ意見聴取を義務化しなければならない。オーストラリアでは、子どもの独立弁護士や家族報告書により子どもの意見を吸い上げる運用を実施しており、オーストラリア家族問題研究所の調査報告書「Children and young people in separated families」は、当事者である子どもの意見を聴くことが、子どもにとって非常に重要な意味を持つことを明らかにしている。イギリスの「“What about me?” Reframing Support for Families following Parent Separation」では、子どもの意見を聴くことを義務付け、子どもの意見を聴けなかった場合には、必ずその理由を記載して裁判所に提出することを提案している。「補足説明」には「子の意見を聴くことが父母の葛藤を高める恐れがある」「子の意見が絶対的な指標となるとは限らない」との発言が記載されている(その後の試案にも繰り返し、父母の葛藤を根拠にした反対意見が記載されている)が、父母の葛藤を理由に子どもの意見に耳を傾けてはいけないという主張を海外の文献では見たことがないし、意見を聴くことと意見通りに行動することは別である。大人視点の屁理屈は排除し、海外の運用を参考にして、父母の葛藤を低減する方法、子どもに負担を掛けずに子どもの意見を聴く方法を学ぶべきである。

2 子に対する父母の扶養義務
⑴ 未成年の子に対する父母の扶養義務の程度が、他の直系親族間の扶養義務の程度(生活扶助義務)よりも重いもの(生活保持義務)であることを明らかにする趣旨の規律を設けるものとする
⑵ 成年に達した子に対する父母の扶養義務の程度について、下記のいずれかの考え方に基づく規律を設けることについて、引き続き検討するものとする(注)。
【甲案】
子が成年に達した後も引き続き教育を受けるなどの理由で就労をすることができないなどの一定の場合には、父母は、子が成年に達した後も相当な期間は、引き続き同人に対して上記⑴と同様の程度の義務を負うものとする考え方
【乙案】
成年に達した子に対する父母の扶養義務は、他の直系親族間の扶養義務と同程度とする考え方

【意見】
 中間試案第1の2⑴に、賛成する。
【理由】
 児童の権利に関する条約の第27条2項に対応し、明記して当然の規律である。条文は、「父母は、その関係の如何に拘らず、子が父母と同等の生活水準を確保する義務を負う」とし、養育費の金額を決定する際の法的根拠となるようにすべきである。

【意見】
 中間試案第1の2⑵の甲案、乙案ともに反対である。
【理由】
 養育費は「未成年の子ども」に対する扶養義務であり、成年に達した子どもに対して具体的な扶養義務を定めず、各事案に対して適切に柔軟に対処すべきである。
 児童の権利に関する条約第1条では、「児童とは、18歳未満のすべての者をいう」とあり、日本国内でも140年ぶりに民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる法律を令和4年(2022年)4月1日から施行したところである。試案2⑵は、原則と例外の区別ができておらず、その上、条約や他の国内法との一貫性も見られない。
 本中間試案の全体を通して、DVに関しても同様の混乱が散見される。原則と例外をごちゃ混ぜにした冗長な法律を作るのではなく、原則と例外を厳格に規定し、例外を別の法律でしっかりフォローすべきである。例えば、成年に達した未成熟子を代表する学生において、大学進学時の学費は、奨学金制度の見直し等で対応すべきである。連立方程式を無理やり1つの式に纏める必要はない。

第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し
1 離婚の場合において父母双方を親権者とすることの可否
【甲案】
父母が離婚をするときはその一方を親権者と定めなければならないことを定める現行民法第819条を見直し、離婚後の父母双方を親権者と定めることができるような規律を設けるものとする(注)
【乙案】
現行民法第819条の規律を維持し、父母の離婚の際には、父母の一方のみを親権者と定めなければならないものとする。

【意見】
 中間試案第2の1甲案に賛成する。但し、条文は「双方にできる」ではなく、「例外を除き、双方にする」に見直さねばならない。
【理由】
 ここでいう「親権」が何を指すのか明確ではないが、主要な長期的事項の意思決定、オーストラリア家族法でいうところの「共同親責任」、及び日常の意思決定を含むものとして意見を述べる。
 心理学の研究結果は、離婚後の共同監護が単独監護よりも子どもの健全な成長、成年期のアウトカムに資することを明らかにしている。つまり、離婚後共同監護は、児童の権利に関する条約第3条が謳う「子の最善の利益に資する」ものである。一方、現行の単独親権制度は、子の親権を独占する同居親の権限が強く、子どもが別居親との親子関係維持を希望していても、子どもの希望よりも自分の感情を優先できる。その結果、子どもを別居親から引き離す行為がまん延し、社会問題化していると考えてよい。このような親子分離は児童の権利に関する条約第9条に反する行為であり、両方の親が子どもの養育に関与できるよう、父母双方に義務を求める法制度が必要である。更に、国連は具体的に「共同監護を認めるため、離婚後の親子関係について定めた法令を改正よせ」と勧告している。日本国憲法第98条第2項は、締結した条約を遵守することを謳っており、現行の離婚後単独親権制度を離婚後の共同監護制度に見直すことは当然である。令和4年(2022年)2月に公表された内閣府の「離婚と子育てに関する世論調査」では、離婚した両親が子育てに参加すべきかどうか尋ねたところ、あらゆる場合に望ましい11%、多くの場合望ましい39%、特定の条件があれば望ましい42%で、92%が肯定的な回答であった。このように世論も離婚後の共同監護を支持している。
 なお、条文化に際しては、「父母双方を親権者と定めることができる」ではなく、「子の最善の利益を害する場合を除き、別居や離婚後も父母双方は親責任を有する」と明記すべきである。前者の「可能である」ということと、後者の「原則とする」では全く考え方が異なる。
 日本の法律の条文はいかようにも解釈できるような文言を用いる傾向があるように感じられる。家族法のような人間関係に係る法律は、白黒がつかず相反する解釈ができるような曖昧な表現は、寧ろ当事者間の葛藤を増幅する懸念があるため、明確で具体的な表現を使用して頂きたい。
 また、中間試案の「親権」とう言葉に具体的にどの権利が含まれているのか、また、その諸々の権利はセットで扱うことを前提にしているのか不明であるが、オーストラリアと同様に、宗教や教育、進学等に関する個々の権利別に、共同意思決定にするのか、単独意思決定にするのかを父母や裁判所が定めることができるようにすべきと考える。

【意見】
 中間試案第2の1乙案に反対する。
【理由】
 「補足説明」に乙案を支持する理由として、①父母の考えが一致しない場合、意思決定が適時にできない恐れがある、②婚姻時の支配と被支配の関係が継続する、③一方の親にだけ親権を行使した方が安定的な養育ができるという3点を述べている。しかし、これらは離婚後共同監護制度を採用して久しい各国で既に対策が講じられている、或いは、心理学において結論が出ている。
 1点目の対策として、諸外国は、別居前や離婚前に作成が義務付けられた養育計画にて、どちらの親がどの意思決定をするのかを事細かに取り決めることで、適時な意思決定ができないといった事態を回避している。2点目の対策として、両親の間に無視できない支配関係が存在する場合には、協議する以前にDV案件として対応すること、或いは、弁護士を介入させることを原則としている。3点目については、主張している内容自体が、ほぼ半世紀前にゴールドスティンらが「子の福祉を超えて(岩崎学術出版)」で提起した見解であり、既に克服され、現在では離婚後も両方の親との良好な関係を維持し続けることが子の健全な成長に資することが判明している。とはいえ、葛藤により離婚に至っていることから、諸外国では離婚時に親教育を義務化し、離婚後のカウンセリングによる親子のメンタルケア、両親間葛藤の子どもへの悪影響と感情制御方法等に関する啓蒙という具体策が講じられている。このように、離婚後共同監護を数十年前に導入している欧米は、現在に至るまでの間に、生起した課題に対策を講じている。自分の想像で描いた改正案に不安を抱き続けるより、後進の優位性を活かして、諸外国の対策やノウハウを最大限取り入れるべきだと考える。
[補足]
ゴールドスティンらは、上述した書籍(p121)で「自分に責任をもってくれるおとなが自分の監護養育についてなんでも自由に決定できる、と子どもが信頼した場合に、子どもは順調に成長する」と述べ、監護親が子どもの養育について特別な規制に服したり、監護親の要望が踏みにじられると、子どもは監護親の権威や能力に疑問を感じ、子どもと監護親との関係を破壊の脅威に曝すことになると述べている。繰り返しになるが、この見解は半世紀前に否定されている。

【意見】
「補足説明」で、国連が勧告した「shared custody」を「共同養育」と翻訳、記載しているが間違いである。「custody」をロングマン英英辞典で引くと以下の3つの記述がある。
1 the right to take care of a child, given to one of their parents when they have divorced
custody of
子どもの面倒を見る権利で、父母が離婚した場合に、父母の一方に与えられる監護権。
2 when someone is kept in prison until they go to court, because the police think they have committed a crime
犯罪を行ったと警察が判断し、裁判を受けるまで刑務所に入れられること。
3 formal when someone is responsible for keeping and looking after something
何かを維持し、世話をする正式な責任。
真っ先に出てくる「custody」の意味は、「監護権」である。また、従来より、心理学や家族法の分野では「親権(制度)」「監護権(制度)」と翻訳しており、国連こどもの権利委員会からの勧告であるというコンテクストからも、「監護制度」と翻訳するのが至当である。「養育」という「子どもを育てる行為」に言及するのであれば、それを表す、より適切な単語である「parenting」「child rearing」「childcare」「child-raising」「nurturing」を使用する筈である。

2 親権者の選択の要件
上記1【甲案】において、父母の一方又は双方を親権者と定めるための要件として、次のいずれかの考え方に沿った規律を設けるものとする考え方について、引き続き検討するものとする(注)。
【甲①案】
父母の離婚の場合において、父母の双方を親権者とすることを原則とし、一定の要件を満たす場合に限り、父母間の協議又は家庭裁判所の裁判により、父母の一方のみを親権者とすることができるものとする考え方
【甲②案】
父母の離婚の場合においては、父母の一方のみを親権者と定めることを原則とし、一定の要件を満たす場合に限り、父母間の協議又は家庭裁判所の裁判により、父母の双方を親権者とすることができるものとする考え方

【意見】
 中間試案第2の2甲①案の「双方を親権者とすることを原則する」点は賛成する。「一定の要件を」以下は、「子の最善の利益を害する場合に限り、家庭裁判所の判決により、父母の一方のみを親権者とする」と見直す必要がある。
【理由】
 親権とは「親責任」であるから、別居や離婚をしようと、両方の親が「親責任」を果たすためには父母の双方が親権者であることが「原則」でなければならない。
 また、裁判所が「単独親責任」「単独親権」を命令する際には、オーストラリアと同じ「子どもの最善の利益判断」項目を点検し、命令書に各項目に対する見解を記入した書面を記載した命令書を発行すべきと考える。なぜなら、日本の裁判命令には、現状維持を良しとする「継続性の原則」を他の考慮すべき項目より過度に重視したり、結論から強引に理由付けをして根拠にしたり、世間一般の通念では根拠になりえないことを根拠として取り扱うケースが散見されるからである。根拠となる評価項目やその評価を明確にすることにより、当事者が命令に納得できるだけでなく、評価項目が見劣りしないように日常的に子の最善の利益に資する監護を実行する働き掛けにもなる。
 因みに、オーストラリア家族法第60条CCに記載された考慮事由は以下の通りである。

●主要な考慮事由
⒜ 子どもが両親との有意義な関係を有することによる利益
⒝ 子どもを虐待、ネグレクト若しくは家庭内暴力を受ける、または、それらを見聞きすることによる身体的または心理的な危害から保護する必要性
●付加的な考慮事由
⒜ 子どもが表明した一切の見解、及び、裁判所において子どもの意見を評価する際に関連性があると考えられる一切の要素(例えば、子どもの成熟度・理解度等)
⒝ 次のものと子どもとの関連性
 ⅰ 子どもの父または母
 ⅱ その他第三者(子どもの祖父母・その他親族等)
⒞ 子どもの父または母が、次の点について、どの程度機会を持ってきたか、或いは、持ってこなかったか
 ⅰ 子どもに関する重要な長期的事項をめぐる決定に参加すること
 ⅱ 子どもとともに時間を過ごすこと
 ⅲ 子どもとコミュニケーションをとること
(ca) 子どもの父または母が、子どもに対する扶養義務を、どの程度果たしてきたか、または、果たしてこなかったか
⒟ 子どもの環境に生じ得る一切の変化、例えば、次の人物との離別による影響を含む
 ⅰ 子どもの父若しくは母
 ⅱ 子どもがそれまで共に暮らしてきた、その他一切の子ども、若しくは、その他一切の第三者(祖父母・その他親族等)
⒠ 子どもが、一方の親と時間を共に過ごし、コミュニケーションを持つために発生する現実的な困難及び費用、並びに、その困難または費用のために、子どもが父母双方との間の密接な関係を維持し、父母双方と定期的に直接面会する権利に大きない影響が及ぶか否か
⒡ 次の人物において、子どもの心理的及び知的ニーズ等のニーズに応えることのできる能力
 ⅰ 子どもの父母各々(or父または母)
 ⅱ その他の第三者(子どもの祖父母・その他親族等)
⒢ 子ども、子どもの父または母における成熟度、性別、ライフスタイル、及び、その他背景(ライフスタイル、文化及び伝統を含む)、並びに、裁判所が関連を有すると考える、その他一切の子どもの特性
⒤ 子どもの父または母が、子どもに対して、及び、親としての責任対して示す態度
⒥ 子どもまたは子どもの家族の構成員に関わる一切の家庭内暴力
⒦ もし、子ども、若しくは、子どもの家族構成員に対して家庭内暴力に関する命令が発令される、または発令されている場合、当該命令から導かれる一切の関連する推察
この点については、以下の事由を考慮に入れるものとする
 ⅰ 当該命令の性質
 ⅱ 当該命令が発令された事情
 ⅲ 当該命令の申立手続において認められた一切の証拠
 ⅳ 当該命令において、裁判所によって行われた、または当該命令の申立手続において行われた一切の事実認定
 ⅴ 関連性を有する、その他一切の事由
⒧ 子どもに関する更なる訴訟の提起を最も回避し得る命令について、これを命じることが好ましいか否か
⒨ 裁判所が関連性を有すると考える、その他一切の事実または事情

【意見】
 「補足説明」に記載のある改正後の遡及効については、遡及効を認めるとともに、新法の全ての基準を適用するべきである。この場合も、当事者任せではなく、裁判所の点検を必須とするべきである。
【理由】
 現行の法律により不利益を蒙っている子どもや両親が多数存在する以上、その方々を見捨てずに、新法の基準に沿って改めて判断を下すべきだと考える。アメリカのカリフォルニア州で離婚後共同監護法が成立した際にも、同様の趣旨で遡及効を認めている。

【意見】
 中間試案第2の2甲②案に反対する。
【理由】
 両方の親が担うべき「親責任」を、父母の両方が希望する両親が担ってよいとする法律は、親責任を放棄する親を不問に付し、子どもが両方の親から享受する利益を逸失することを認めているのと同じである。
 父母間の協議が整った場合は共同親権(共同監護)を可能とするという考え方は、「選択肢が増える」という観点から前向きに捉える者がいる。しかし、「共同親権により得らえる子どもの利益」と「単独親権により得られる自分の利益」を天秤にかけ、自分の利益を優先する親にとって最善の仕組みであり、子どもにとって最善の仕組みとは言えない。実際、「男たちの意識革命(朝日文庫)」によれば、カリフォルニア州が共同監護法を施行する以前に13の州が父母の合意を条件とした共同監護法を施行していたが、父母の合意が成立するケースは稀なうえ、その合意さえ弁護士が介入したことで壊れてしまい、「名ばかり」になったとある。したがって、原則「親責任」とすべきである。
 また、オーストラリアを始め、欧米各国では、メディエーション、養育計画書、親教育プログラムという実務上の手段が、父母の合意形成に良い影響を与えていることが実証されているので、条文の見直しとセットでこれらの手段を整備し、義務化すべきである。

3 離婚後の父母双方が親権を有する場合の親権の行使に関する規律
(本稿は、上記1において【甲案】を採用した場合の試案である。)
⑴ 監護者の定めの要否
【A案】
離婚後に父母の双方を親権者と定めるに当たっては、必ず父母の一方を監護者とする旨の定めをしなければならないものとする
【B案】
離婚後に父母の双方を親権者と定めるに当たっては、父母の一方を監護者とする旨の定めをすることも、監護者の定めをしないこと(すなわち、父母双方が身上監護に関する事項も含めた親権を行うものとすること)もできるものとする(注1)。

【意見】
 中間試案第2の3⑴A案に反対する。
【理由】
 日本は国連子どもの権利委員会から、離婚後の家族法制度を共同監護(joint custody)に見直すよう勧告を受けており、憲法第98条により条約を遵守しなければならない。
 それだけではなく、離婚後共同監護の家庭で育つ子どもは離婚後単独監護の家庭で育つ子どもよりアウトカムが優れていることが心理学で明らかになっている。

【意見】
 中間試案第2の3⑴B案が、「親権から監護権を分属せず、且つ、父母双方が親権を有する」という趣旨であれば賛成する。
【理由】
 オーストラリアの家族法制度を導入すべきと考えており、そこには法的監護権や身上監護権は存在しない。主要な長期的事項のどの要素を共有するか、子どもと共に過ごす時間はそれぞれ何時間にするのか、という概念しかない。そこで、条文は「離婚後も父母の双方は親責任と相応の養育時間を有する」を提案する。

⑵ 監護者が指定されている場合の親権行使
ア 離婚後の父母の双方を親権者と定め、その一方を監護者と定めたときは、当該監護者が、基本的に、身上監護に関する事項(民法第820条から第823条まで[監護及び教育の権利義務、居所の指定、懲戒、職業の許可]に規定する事項を含み、同法第824条[財産の管理及び代表]に規定する財産管理に係る事項や、財産上・身分上の行為についての法廷代理に係る事項及び同法第5条[未成年者の法律行為]に規定する同意に係る事項を含まない。)についての権利義務を有するものとする考え方について、そのような考え方を明確化するための規律を設けるかどうかも含め、引き続き検討するものとする(注2)。
イ 離婚後の父母の双方を親権者と定め、父母の一方を監護者と定めたときの親権(上記アにより監護者の権利義務に属するものを除く。)の行使の在り方について、次のいずれかの規律を設けるものとする。

【意見】
 中間試案第2の3⑵のような狭義の親権(米国の法的監護権に相当)と監護権(米国の身上監護権に相当)の分属に反対する。
【理由】
 オーストラリアの家族法制度の導入を前提にしているため、反対である。
また、狭義の親権と監護権を分属する方法を積極的に実施した時期が日本でもあったが、良い結果を納めなかったため、現在は殆ど運用していないと理解している。

⑶ 監護者の定めがない場合の親権行使(注5)
ア (上記⑴【B案】を採用した場合において)監護者の定めがされていないときは、親権(民法第820条から第823条まで[監護及び教育の権利義務、居所の指定、懲戒、職業の許可]に規定する身上監護に係る事項、同第824条[財産の管理及び代表]に規定する財産管理に係る事項や、財産上・身分上の行為についての法的代理に係る事項を含む。)は父母が共同して行うことを原則とするものとする。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは他の一方が行うものとする。
イ 親権の行使に関する重要な事項について、父母間に協議が調わないとき又は協議をすることができないとき(父母の一方が親権を行うことができないときを除く。)は、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、当該事項について親権を行う者を定める(注6)。
ウ 上記の各規律に反する法定代理権及び同意権の効力は、現行民法第825条[父母の一方が共同の名義でした行為の効力]と同様の規律による。

【意見】
 中間試案第2の3⑶アは、子どもの養育に関する全ての要素を共有することを原則としている。考え方はそれで良いが、オーストラリアと同様に、「主要な長期的な事項」と「日常的な事項」とに大別し、「主要な長期的な事項」の要素選定と当該要素を共同決定するのか単独決定するか、単独決定ならどちらの親がするのか、父母が決めることができるようにすべきである。
【理由】
 家族の多様性を考慮し、それぞれの家庭に即した養育計画ができるような仕組みが必要である。共同監護の家庭といっても、子どもと共に過ごす時間が50対50の家庭もあれば、90対10の家庭もあり得る。そこで、法的監護と身上的監護を両親が共有するが、身上的監護権の配分(それぞれの親が子どもと過ごす時間をどんな比率にするか)に加え、法的監護権の配分(どちらの親が何の権利を有するのか)も柔軟に変更できるようにすべきである。

【意見】
 中間試案第2の3⑶イ、ウに賛成する。
【理由】
 オーストラリアに倣い、具体的には、以下のような養育計画作成フローを考えている。
 別居時や離婚時の養育計画を取決める際は、まず父母で協議し、協議が調った場合はそのまま裁判所に提出。その後、裁判所の点検に合格すれば、そのまま同意命令とする。
 父母の協議が調わなかった場合は、裁判所が「子の最善の利益」の観点から養育計画を決定し、養育命令とする。
 上述したように、自主性を重視し、当事者同士による養育計画作成を志向(裁判所関与の最小化を志向)することで計画遵守の思考に導いているので、養育計画で共有すると定めた意思決定項目に関し、決定する(行使する)段階になってデッドロックが生じる可能性は低い。実際にデッドロックが生じてしまった場合は、当該項目を共有決定のリストから外し、どちらか一方の単独決定にすることを裁判所が決定するしか方法がない。

⑷ 子の居所指定又は変更に関する親権者の関与
離婚後の父母の双方を親権者と定め、父母の一方を監護者と定めた場合における子の居所の指定又は変更(転居)について、次のいずれかの考え方に基づく規律を設けるものとする。
【X案】
上記⑵アの規律に従って、監護者が子の居所の指定又は変更に関する決定を単独で行うことができる。
【Y案】
上記⑵アの規律にかかわらず、上記⑵イの【α案】、【β案】又は【γ案】のいずれかの規律により、親権者である父母双方が子の居所の指定又は変更に関する決定に関与する。

【意見】
 私の主張は共同監護であるため、中間試案第2の3⑷は、意見を述べる対象ではないが、敢えて意見を述べるとすれば、X案[単独転居決定]には反対、Y案[共同転居決定]に賛成である。
【理由】
 オーストラリア家族問題研究所の調査により、父母の居所が遠距離にある場合、子と過ごす時間が少ない方の親と子どもの関係が乏しくなることが判明している。一方の親が子どもを連れて遠方に転居してしまうと、事実上、面着の交流が断たれてしまう(現実には、別居親と子どもの関係を断つために意図的に転居するケースも存在する)ため、これを許容することは、離婚後の親子分離を認めているのと同じことであり、児童の権利に関する条約第9条違反である。
 また、令和3年(2021年)1月の法務省の委託による調査「未成年期に父母の離婚を経験した子の養育に関する実態についての調査・分析業務」において、Q15「誰と同居したいか意見や希望を伝えたか」に対し、本心を伝えたが28%、伝えたが本心ではなかったが10%、意見や希望はあったが伝えていないが18%であった。伝えたが本心ではなかったと答えた子どもへの質問「誰に配慮したか」では、父母双方が37%、同居親が60%、別居親が3%であった。子どもの声に耳を傾ければ、子どもが父母双方の家で暮らす時間を、それぞれの親と子の関係にあわせて配分するのが好ましく、この配分を困難にする転居の決定には父母双方の関与が必要である。

5 認知の場合の規律(注)
【甲案】
父が認知した場合の親権者について、現行民法第819条を見直し、父母双方を親権者と定めることができるような規律を設けるものとした上で、親権者の選択の要件や父母双方が親権を有する場合の親権の行使に関する規律について、上記2及び3と同様の規律を設けるものとすることについて、引き続き検討するものとする。
【乙案】
父が認知した場合の親権者についての現行民法第819条の規律を維持し、父母の協議(又は家庭裁判所の裁判)で父を親権者と定めたときに限り父が親権を行う(それ以外の場合は母が親権を行う)ものとする。

【意見】
 中間試案第5甲案に賛成である。婚姻関係になかったとしても、行使の規律は、婚姻関係にあった父母と共通にすべきである。
【理由】
 児童の権利に関する条約第2条は、出生による差別を禁止しており、国連こどもの権利委員会、国連規約人権委員会から是正を勧告されてきた。子どもは親から養育される権利があり、親は養育する義務、すなわち「親責任」を果たす義務がある。
 「補足説明」を読むと、「認知後の父母の関係が共同関係にあるとは限らない」という理由から乙案を支持する人がいるようだが、「親責任」は「父母がいかなる関係性であろうと効力を有する」という原理原則を無視した、親都合の思考でしかない。
 因みに、アメリカでは全ての州で、婚外子は婚姻中の子どもと、法律上、同じ法的位置を有している。「親子関係に関する統一州法」が、子の親に親としての義務の履行を求めるようになった発端であり、この法律が公表されたのは、1973年、今から半世紀前である。

第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し
1 離婚時の情報提供に関する規律
【甲案】
未成年の子の父母が協議上の離婚をするための要件を見直し、原則として、【父母の双方】【父母のうち親権者となる者及び監護者となる者】が法令で定められた父母の離婚後の子の養育に関する講座を受講したことを協議上の離婚の要件とする考え方について、引き続き検討するものとする(注1)
【乙案】
父母の離婚後の子の養育に関する講座の受講を協議上の離婚の要件とはせず、その受講を促進するための方策について別途検討するものとする(注2)。

【意見】
 中間試案第3の1甲案「親教育の受講を離婚の要件とすること」に賛成する。但し、私の主張は原則共同監護なので、「父母双方」が必須である。また、「補足説明」に頻出する「協議離婚」が具体的に何を指すのか不明であるが、全ての別居、離婚に際して受講を義務付けるべきだと考える。
【理由】
 別居や離婚をする際の親教育は、その後の養育計画の作成や実践に有効であることが既に海外で実証されている。教育内容の考え方や方法が日本にマッチしない部分があるなら、海外の教育を基にして日本に合うようアレンジすれば良く、「引き続き検討」する必要さえ感じない。
 また、離婚の形態がどうであろうと、親教育のニーズは変わらないため、受講対象者は全ての別居、離婚対象者にすべきである。

【意見】
 中間試案第3の1乙案に反対する。
【理由】
親教育は別居や離婚をする親が別居後や離婚後に子の最善の利益に資する養育を修得するために実施するのであり、受講拒否自体が「子の最善の利益」に反する行為であり、許すべきではない。乙案を支持する理由に①養育する意思のない者に対する教育は無駄、②離婚を阻止するため受講をしないケースが想定される、③結果として離婚しない場合は無駄になる、の3つが挙げられている。親教育には「養育計画」「離婚の子どもへの影響」「親の離婚への適応」といった内容が含まれているので、離婚に至ったのか踏みとどまったのかに拘らず有用であるし、原則離婚後共同監護制度になると、「養育する意思がない」者でも養育する義務を負うので、無駄にはならない。無駄という発想は浅慮に過ぎるし、意思のない親の親責任放棄を認めるのであれば、養育費未払いも認めるべきである。
 離婚阻止や嫌がらせ(離婚引延ばし)のために親教育の受講拒否もあり得るという発想も現行制度を前提にした思考である。離婚後共同監護制度では、一般に養育計画作成前に親教育を受講(いずれも義務)する。仮に、親教育受講を拒否したら、父母の協議から裁判所関与にステージが移行するので、離婚引き延ばしにはならない。臨床心理士の棚瀬一代氏は、アメリカの調停が大抵1回で成立するのは親教育の効果であると考察しており、親教育は寧ろ離婚手続きを早める可能性がある。

2 父母の協議離婚の際の定め
⑴ 子の監護について必要な事項の定めの促進
【甲①案】
 未成年の子の父母が協議上の離婚をするときは、父母が協議をすることができない事情がある旨を申述したなどの一定の例外的な事情がない限り、子の監護について必要な事項(子の監護をすべき者、父又は母と子との親子交流(面会交流)、子の監護に要する費用の分担)を定めなければならないものとした上で、これを協議上の離婚の要件とするものとする考え方について、引き続き検討するものとする(注1)。
【甲②案】
 【甲①案】の離婚の要件に加えて、子の監護について必要な事項の定め
については、原則として、弁護士等による確認を受けなければならないも
のとする考え方について、引き続き検討するものとする(注2)。
【乙案】
子の監護について必要な事項の定めをすることを父母の協議上の離婚の要件としていない現行民法の規律を維持した上で、子の監護について必要な事項の定めがされることを促進するための方策について別途検討するものとする。

【意見】
 中間試案第3の2⑴甲①案に賛成する。
【理由】
 平成24年(2012年)から、面会交流、養育費の取決めチェック欄を離婚届けに設けたものの、取決率と履行率が依然と低位である。従って、取決率、履行率を上げるには義務化しか選択肢が残されていない。届出さえすれば、離婚後の養育の取決めがなくとも離婚が成立するような、子どもに対して無責任な手続きは改めるべきである。
 自分の感情を子どもの最善の利益より優先させ、DV等の理由もないのに少しでも早く離婚をしたいがために、養育費受給を断念したり、子どもとは今まで通り会えると嘘をつく親もいれば、養育費支払いを断念しなければ離婚しないと脅迫する親もいる。よって、以下の仕組みを創設すべきと考える。
 ①「役所への離婚届け提出と受理」で離婚成立とせず、「裁判所への離婚願い提出と裁判所の点検、許可書発行」で離婚成立とする。これは取決めに法的拘束力を持たせるためである。
 ②それぞれの親の養育時間と収入から適切な金額を算出するソフトを開発・公開し、当事者間で協議、離婚願いに記載できるようにする。
 ③離婚手続きシステムを開発し、離婚願いはオンラインを原則とする。
 ④養育費、子どもと過ごす時間、主要な長期的な事項に関する取決めを、テンプレートから選ぶようにして、手続きを容易にするとともに、裁判所側の事務作業負荷を軽減する。
 ⑤DV等により父母で協議できない場合は、弁護士や裁判所といったサービスを利用することとし、アセスメントの結果でDVの事実が確認された場合は、サービス費用を国が支援する。
 ⑥離婚を取引材料にして養育計画を自分に有利にする行為には警察が厳しく対処する。
 これらの対策は思い付きではなく、海外ではで実施済みの国もあり、日本が早急に取り入れるべき対策である。
[参考]各国の司法手続きのシステム化
オンライン離婚申請 2018年1月からイギリスで運用中
AIを用いた離婚調停 2021年1月からオーストラリアで本格運用
養育計画作成・実行支援アプリ 昔から多数 Custody X Change, Taking Parent他

【意見】
 中間試案第3の2⑴甲②に反対する。
【理由】
 養育計画の作成に対し、弁護士を利用するケースは欧米では一般的であるが、当事者のオプションである。弁護士を介入させる理由が養育計画立案の支援だけなら、弁護士が介入しなくても良いように、養育計画立案ガイドの作成(ウェブや小冊子)と啓蒙活動に先ず取り組むべきと考える。

【意見】
 中間試案第3の2⑴乙案に反対する。
【理由】
 平成24年(2012年)4月1日に施行された改正民法では、面会交流や養育費を定めることが明記され、離婚届にチェック欄が設けられたが、未だに養育費不払い、面会交流未実施の多くは、離婚時にこれらの取決めをしていない。離婚の際、公正証書や調停証書等の法的効力のある書面を作成しておけば、少なくとも養育費の強制徴収に結び付くが、取決めがなければスタート地点に立てない。
 民法第766条は「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない」としており、取決めをせずに離婚する行為は、既に子の最善の利益に反する行為といえる。
「取決めをしない」という現状実態を解決するには、この問題を道徳規範のステージから法律規範のステージに移さねばならないことを意味する。「やれる人はやっている」という当事者任せの思考ではなく、国が積極的に介入し、親としての責任を果たすように義務化する必要がある。
 中間試案第3の2⑴乙案の「現状維持」は、上川法務大臣が諮問理由として示した「養育費の不払い、親子の交流断絶に対する対策をチルドレン・ファーストの観点から検討すること」を放棄することであり、児童の権利に関する条約9条「親子の不分離」、第18条「親の責任」にも反する。
[参考]法務大臣閣議後記者会見の概要 令和3年(2021年)1月15日(金)
 まず,離婚制度に関しましては,近年,父母の離婚に伴い,養育費の不払いや親子の交流の断絶といった,子の養育への深刻な影響が指摘されています。(中略)そこで,今回,父母の離婚に伴う子の養育の在り方を中心といたしまして,離婚制度,未成年養子制度や財産分与制度といった,離婚に関連する幅広い課題について,私がこれまでも申し上げてまいりましたチルドレン・ファーストの観点で,法改正に向けた具体的な検討を行っていただくために,このたび,法制審議会に諮問することといたしました。

⑵ 養育費に関する定めの実効性向上
子の監護に要する費用の分担に関する父母間の定めの実行性を向上させる方向で、次の各方策について引き続き検討するものとする。
ア 子の監護に要する費用の分担に関する債務名義を裁判手続きによらずに容易に作成することができる新たな仕組みを設けるものとする。
イ 子の監護に要する費用の分担に関する請求権を有する債権者が、債務者の総財産について一般先取権を有するものとする。
⑶ 法定養育費制度の新設
父母が子の監護について必要な事項の協議をすることができない場合に対応する制度として、一定の要件の下で、離婚の時から一定の期間にわたり、法定された一定額の養育費支払請求権が発生する仕組みを新設するものとし、その具体的な要件や効果(上記⑵イの一般先取権を含む。)について引き続き検討するものとする(注4~7)。

【意見】
 中間試案第3の2⑵アに反対する。
【理由】
 オーストラリアやアメリカでは、養育費を司法から行政の扱う問題に移行しているが、父母が協議して養育計画の中で養育費を取決め(行政による査定や徴収を利用するか否かも含む)、それを裁判所が許可する運用となっている。日本の低い養育費受給率を考えれば、行政による強制徴収を実施すべきとは思うが、父母による協議と裁判所の関与のステップを失くしてはならない。
 「補足説明」では、弁護士等の関与した文書を債務名義とする提案が紹介されているが、裁判所が本来果たすべき行為を放棄することになる。オーストラリアでは、子どもと過ごす時間で場合分けされた養育費算出式を公開し、要請があれば、専門の行政機関が査定から徴収を請け負う仕組みになっている。アメリカでも各州がガイドラインを作成し、ガイドライン通りに養育費を設定している(コンピュータに数字を入れるだけで養育費が計算できるサービスを提供している)。両国ともに、これらの計算結果に不服がある場合は裁判所に申立てができる。
 本中間試案で裁判所を介入しない方法を検討する背景には、家庭裁判所のリソース不足を懸念してのことだと思われるが、令和2年(2020年)10月に法務省が発表した「離婚届のオンライン化」の利用、ADRを積極的に活用する等、まず正攻法でリソース不足の対策を検討、講じるべきである。「離婚届のオンライン化」について言えば、現行の受付窓口である市役所を裁判所に変更し、離婚申請者は協議の上で決定した養育費の分担や金額、子どもと過ごす時間等を画面のリストから選択できるようにすればよい。父母の操作は、インターネットの通販サイトで買い物をするのと何ら変わらない。裁判所における点検、許可も、オンラインなら大きな負担になるとは考えにくい。今や、手書きの文字や画像の文字を瞬時に文字データに変換するOCRや、会議等での発言を瞬時に文字データに変換するASRを使用している企業も多い。最初から正攻法の対策で検討することを放棄し、「飛び道具」を持ち出すのは間違っている。

【意見】
 中間試案第3の2⑵イに反対する。
【理由】
 アメリカを真似て一般先取特権を設定すれば、複数の負債を抱えている債務者であっても、養育費を確実に徴収できることは認める。しかし、離婚後の監護制度すら纏まっていないうえに、両方の親の養育費の負担を計算する方法、多重債務者の支払能力が十分にないケースの対処方法すら定まっていない中で、強制徴収する手法を前のめりに議論するのは本末転倒である。

【意見】
 中間試案第3の2⑶に賛成する。
【理由】
 既にオーストラリアやアメリカでは養育費の強制徴収を法的に定め、その成果も確認されている。
 従って、法で強制徴収を定めることには賛成するが、養育費算定方法を具体的に示さない現在の段階で、一定額を機械的に徴収する短絡的な運用方法には賛成できない。
 一定額を一律徴収という発想は、現行通り、養育費と面会交流を義務化せずに行政が無条件に離婚手続きを進める運用と離婚後単独親権(監護権を含む)制度を継続する前提にした発想だと想像する。離婚後共同監護制度の前提にたてば、それぞれの親が子の養育に要したコストから養育費をセットしなければ、公平性が失われる。本法制審議会では、離婚後の子どもの養育に関する法制度を議論しており、法制度の骨格が決まらないうちから、現行制度が継続する前提で養育費の「徴収手法」を検討することは本末転倒である。養育費受給率が低位であることは以前より問題視されており、法務省だけでなく、外務省や厚生労働省、或いは大学を始めとする研究機関が調査や研究を実施しており、その方面に長けた識者の検討が必要である。いずれにせよ、強制徴収は、オーストラリアを見倣い「用意周到に進めるべき」である。
 2020年4月1日から施行した改正後民法により、強制執行に必要な債務名義を有していれば、誰でも財産開示手続きの申立てが可能になり、開示を拒否する場合には刑事罰が下されるようになっただけでなく、財産に関する情報を相手配偶者以外の第三者から取得可能になっている。よって、未だに受給率が低い主たる原因は、法的拘束力を有する取決めを離婚時点でしていない、離婚後に当該債権を行使する手続きをしていないためであり、まず、別居時点あるいは離婚時点で法的取決めをすることが一丁目一番地である。次に議論すべきは、殆ど表に出てこない支払能力のない債務者に関する対策である。いずれにせよ、パブリックコメント後の本審議会では、「強制徴収手法」や「裁判所手続きによらない債務名義」を検討するのではなく、共同養育計画(親子の時間と養育費)作成を離婚の要件とした際に、どうすれば父母が安全かつ迅速に養育計画を作成・提出できるのか、どうすれば裁判所が迅速に審査・登録できるのかを議論して頂きたい。
 なお、厚生労働省からの委託で養育費支援相談センターが整理した「養育費確保の推進に関する制度的諸問題」に掲載されたオーストラリアの養育費算定の考え方を参考までに紹介する。

[参考]オーストラリアの養育費算定

  1. 課税所得から規定の「必要生活費」を控除し、各親の「養育費所得」を算出

  2. 各親の「養育費所得」を合計し、「合算養育費所得」を算出

  3. 「合算養育費所得」に対する各親の「養育費所得」の割合を算出し、各親の「所得%」とする

  4. 各親の居所に子どもが宿泊する日数を年間日数で割って、各親の「ケア%」を算出する

  5. 算定表を用いて、「ケア%」をもとに、各親の「子育てコスト%」を算出する

  6. 各親の「所得%」から「子育てコスト%」を差し引き、「養育費%」を算出する(養育費%がマイナスの親は養育費受取、プラスの親は養育費支払)

  7. 算定表を用いて、「合算養育費所得」をもとに、該当する子どもの「子育てコスト」を算出する

  8. 「子育てコスト」に対する「養育費%」の金額を算出し、「支払うべき養育費」とする

3 離婚等以外の場面における監護者等の定め
次のような規律を設けるものとする(注1、注2)。
婚姻中の父母が別居し、共同して子の監護を行うことが困難となったことその他の事由により必要があると認められるときは、父母間の協議により、子の監護をすべき者、父又は母と子との交流その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定めることができる。この協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の申立てにより、当該事項を定めることができる。

【意見】
 中間試案第3の3の趣旨には賛成するが、「必要な事項を定めることができる」ではなく「必要な事項を定めなければならない」に見直すべきである。
【理由】
 父母の関係がどのように変化しても、両方ともに養育の義務がある。別居によって、子の最善の利益を損なわないためには、別居に際しても、離婚時と同じ養育計画の作成を義務付けるべきと考える。また、子連れで別居した場合、別居理由が別居した親にある場合は、別居した親には、別居親の扶助を含めた婚姻費ではなく、子どもの養育費のみを支払うことを明確に記載すべきである。
 別居に関して離婚の規約の類推適用といった曖昧な運用は不可とし、法定別居を確立し、養育計画を義務付ける理由のもう1つは、子連れ別居を装った実子誘拐を防止するためである。社会問題化している実子誘拐は、「婚姻中」に、DV等の被害がないにも拘らず(誘拐親が有責配偶者のケースも多い)、子どもを連れて別居し、離婚の実現や有利な離婚条件(例えば、子の親権確保)を交渉することが多い。別居の手続きを法律で義務化することで、実子誘拐、即ち、「一方の親から子を引き離す児童虐待」且つ「一方の親の監護権の侵害」を防ぐことができると考える。
 なお、空文化している現行民法752条「同居等の義務」の取扱いも、パブリックコメント後の審議で検討して頂きたい。

4 家庭裁判所が定める場合の考慮要素
⑴ 監護者
家庭裁判所が子の監護をすべき者を定め又はその定めを変更するに当たっての考慮要素を明確化するとの考え方について、引き続き検討するものとする(注1)。
⑵ 親子交流(面会交流)
家庭裁判所が父母と子との交流に関する事項を定め又はその定めを変更するに当たっての考慮要素を明確化するとの考え方について、引き続き検討するものとする(注2、3)

【意見】
 中間試案第3の4⑴は、中間試案第2の2で回答した親権者に関する考慮事由と同じである。中間試案第3の4⑵は賛成する。
【理由】
 私の考える離婚後共同監護制度では、監護者という概念がないため、中間試案第3の4⑴は、中間試案第2の2で回答した親権者に関する考慮事由と同じである。中間試案第3の4⑵は「一方の親が子どもとの過ごす時間を認めない、あるいは、監視付きで親子の時間を過ごす」場合の考慮要素、「子どもと過ごす時間を決める」場合の考慮要素を明確化するという中間試案と理解し、以下に考慮要素を述べる。
⑴ 一方の親が子どもと過ごす時間を認めない、或いは、親子の時間を監視付きにする考慮要素
「親権者の選択の要件」の欄で裁判所が検討すべき事項として挙げたものと同じである。より詳細な項目を列挙すれば以下の通りである。オーストラリアの丁度良い資料が見つからなかったので、代わりにアメリカの監護評価者の検討項目を「離婚と子どもの司法心理アセスメント(金剛出版)」から転記する。

  1. 親と子の関係の経過

  2. 子の気質、年齢または発達上のニーズ

  3. それぞれの親の、他方の親との関係を促進する意欲や能力

  4. 家庭、学校、地域社会への子の適応

  5. それぞれの親の別居前の養育割合

  6. 子の住居の安定性と安定した環境で子が生活した期間の長さ

  7. 関係者すべての心的、身体的な健康

  8. 他方の親と協力し、情報を伝える親の能力

  9. 子の生活に関与するそれぞれの親の能力(例えば、活動、教育)

  10. 監護に対するそれぞれの親の希望

  11. 説明を受けた上で、結果について子が望むこと(明記されている場合は年齢)

  12. きょうだいや大切な人との関係

  13. ドメスティックバイオレンス(1=要素、2=推定)

  14. 子の虐待/ネグレクトの証拠

  15. 愛情、好意、指導を与える能力

  16. 犯罪歴

  17. 子のニーズを優先させる親の能力

  18. 養育計画の地理的な実行可能性

  19. 親の道徳的な適格性

  20. 基本的なニーズをまかなう能力(例えば、食事、住居、医療ケア、安全性)

  21. その他の関連要素

  22. それぞれの親の仕事のスケジュール

  23. 親の薬物乱用の問題

  24. 子の性別

⑵ 子どもと過ごす時間(以下、養育時間と称する)を決める要素
オーストラリアは具体的なガイドラインを示していないようなので、こちらもアメリカのガイドライン(インディアナ州)を紹介する。このガイドラインは科学的根拠に基づいており、どの国でも適用できるはずなので、そのまま日本で採用することを提案する。
⒜ 全体概要
父母はガイドラインに記載した最低限の養育時間以上で養育計画を作成する。ガイドラインよりも養育時間を少ない場合は裁判所で理由を審査する(養育時間が多い場合は審査不要)。電話や手紙、Eメール等は、親子関係を維持するために必須な「コミュニケーション」であり、禁止は認めない。最低限の養育時間は、最新の文献、心理学者の意見、他地域の法律から設定している。
⒝ 最低限の養育時間(休日、長期休暇の養育時間は割愛)
ⅰ.生後4ヵ月以下:週3日、2時間/日
ⅱ.生後5~9ヵ月:週3日、3時間/日
ⅲ.生後10~12ヵ月:週3日、8時間/日×1回+3時間/日×2回
ⅳ.生後13~18カ月:週3日、10時間/日×1回+3時間/日×2回
ⅴ.生後19~36か月:週末の土曜日or日曜日10時間+平日3時間×1回
ⅵ.三歳以上:金曜日午後6時~日曜日午後6時(隔週)+平日4時間×1回
⒞ 最低限の養育時間より養育時間を増やす際に考慮する要素
ガイドラインが提示する最低限の養育時間から養育時間を拡充する際に、①子どもに関する要素(年齢、気質、成熟度、生活習慣、発達状況ほか)、➁親に関する要素(気質、親子の相性、健康、養育能力ほか)、③親子関係に関する要素(過去の養育への関与、現在の養育への意欲、DA/DVの有無ほか)、④共同養育に関する要素(葛藤状況、相手への敬意、協力の姿勢、意思疎通能力ほか)、⑤環境要因(両親の家の距離、両親の勤務状況ほか)の5項目を考慮して決定する。
⒟ アクセス権の保証と情報の共有化
インディアナ州では同居親が単独身上監護親(別居親は身上監護権がない親)であっても、別居親と子どものアクセス権を保証し、子どもに関する情報も共有化することが義務になっている。内容は以下の通り。
ⅰ.アクセス権の確保
自宅と職場の住所、電話番号、Eメールのアドレス、郵便、小包(宅配便含む)。
上記は一方の親による遮断、破棄は禁止。常に最新情報に更新する義務を負う。
ⅱ.情報の共有
学校の記録(成績表等)、学校行事、健康情報(治療実績等)、保険関係
一方の親による学校行事への参加拒否は禁止、子どもの事故は迅速に共有化。

第4 親以外の第三者による子の監護及び交流に関する規律の新設
1 第三者による子の監護
⑴ 親以外の第三者が、親権者(監護者の定めがある場合は監護者)との協議により、子の監護者となることができる旨の規律を設けるものとし、その要件等について引き続き検討するものとする(注1、2)。
⑵ 上記⑴の協議が調わないときは家庭裁判所が子の監護をすべき者を定めるものとする考え方について、その申立権者や申立要件等を含め、引き続き検討するものとする。
(注1)監護者となり得る第三者の範囲について、親族に限るとする考え方、過去に子と同居したことがある者に限るとする考え方がある。
(注2)親以外の第三者を子の監護者と定めるには、子の最善の利益のために必要があることなどの一定の要件を満たす必要があるとの考え方がある。

【意見】
 中間試案第4の1における、第三者が子の身の回りの世話をする権利を得ることができることに賛成する。要件を設けるのは当然であるが、親族や同居実績有無を要件とすることに反対する。
【理由】
 親が子の身の回りの世話をすることが不可能、あるいは、適切に世話ができない、親が虐待をする、親よりも第三者の方が子どもと強固な関係を築いている、といった親が監護権を持つことが寧ろ子の最善の利益に反する事情が実際に存在する。であれば、第三者に監護権を与える法律を手当するのは当然と考える。
 オーストラリアの家族評価者を始め、イギリスの家庭裁判所アドバイザー、アメリカの監護評価者は、実親であっても親としての能力をアセスメントしており、第三者についても、当然実親と同様にアセスメントすべきである。
 子どもの世話をするのに相応しい者であれば、血縁者や同居実績の者に限定する理由はない。親族、同居有無を要件とせずとも、「子の最善の利益」を前提として、監護の意思、親近感、生活圏といった要件でアセスメントすれば、自ずと殆どが祖父母、それ以外は親族や同居実績のある者になる筈である。
[参考]オーストラリアで祖父母が「親責任」や「孫と過ごす時間」を申請する上での要件
 1.子どもの世話をしたがらない。
 2.子どもの世話をすることができない。または、
 3.子どもの世話をする能力がない
 親が上記のカテゴリーのいずれか該当し、子どものニーズを満たすことができないこと。
 裁判所は、親と一緒にいることが子の最善の利益を害し、祖父母が親責任を有することが孫の最善の利益に資すると判断したときに、祖父母に養育命令を下す。

2 親以外の第三者と子との交流
⑴ 親以外の第三者が、親権者(監護者の定めがある場合は監護者)との協議により、子との交流をすることができる旨の規律を設けるものとし、その要件等について引き続き検討するものとする(注1、2)。
⑵ 上記⑴の協議が調わないときは家庭裁判所が第三者と子との交流について定めるものとする考え方について、その申立権者や申立要件等を含め、引き続き検討するものとする。
(注1)子との交流の対象となる第三者の範囲について、親族に限るとする考え方や、過去に子と同居したことがある者に限るとする考え方がある。
(注2)親以外の第三者を子との交流についての定めをするには、子の最善の利益のために必要があることなどの一定の要件を満たす必要があるとの考え方がある。

【意見】
 中間試案第4の2⑴⑵に賛成する。
【理由】
 離婚後の家庭で、子どもに対する親のケアが不十分な場合、第三者と過ごす時間を確保できることは、子どもにとって重要な意味を持つ。
 祖父母に限って言えば、オーストラリアは1975年家族法(連邦)で、特に祖父母を子どもが接触を維持すべき人々に含まれるものとして言及しており、アメリカでは州によって条件は違うものの、2000年には全米の州法が祖父母の訪問権を規定するに至っている。更に、祖父母の他に曾祖父母、継親、きょうだい等の訪問権を認めている州もある(引用元「日米親権法の比較研究」)。また、EUでは、欧州人権裁判所が、欧州人権条約第8条「すべての人は、その私生活及び家族生活並びにその住居及び通信を尊重される権利を有する」が、祖父母と孫の関係にも及ぶという判決を2018年5月に下している。
 このように既に各国では、祖父母と孫との交流権を認めている(但し、自動的に与えられる法的権利ではなく、親が生存している場合は親との協議、協議が調わない場合は法的手続を行う)。従って、日本も欧米に倣い祖父母の交流を法で定められるようにすべきである。
 なお、監護のケースと同様に交流対象を祖父母に限定する必要はなく、子の最善の利益、子の意思を基準に判断すべきだと考える(自ずと祖父母や兄弟等の親族が対象になると推察する)。

第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し
1 相手方の住所の調査に関する規律
子の監護に関する処分に係る家事事件手続において、家庭裁判所から調査の嘱託を受けた行政庁が、一定の要件の下で、当事者の住民表に記載されている住所を調査することを可能とする規律(注1、2)について、引き続き検討するものとする(注3)。

【意見】
 中間試案第5の1に賛成する。但し、裁判所が関与する時点ではなく、「別居時点、離婚時点で住所、電話番号等は父母両方が通知せねばならず、変更がある場合は直ちに連絡しなければならない」にすべきである。
【理由】
 この試案自体が「現行」の離婚後単独親権制度を前提にしていると思われる。
 理解しやすいように、制度が大きく異なるオーストラリアではなく、父母がこの試案の前提とほぼ等しい監護状況「同居親が身上監護権を単独で持ち、別居親は訪問権を持つ」におけるアメリカ(インディアナ州)の事例と比較する。子どもに関して養育時間の調整をしなければならないため、父母同士が会話できる状況を確保しなければならず、次のような規則を設けている。
 「両親は、常に自宅と職場の住所、電話番号、電子メールアドレスを互いに通知し合うものとする。この情報に変更があった場合は、もう一方の親に書面で通知するものとする。子どもに関する全てのコミュニケーションは、親同士で行うものとする。いかなるコミュニケーションも、事情がそうでない場合を除き、相応な時間および場所で行うものとする。」
 また、転居については、「リローケーション」規則により、転居後の養育計画を含め、一方の親の許可が必要であり、同意を得られない場合は裁判所に関与してもらう必要がある。

2 収入に関する情報の開示義務に関する規律
養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に関して、当事者の収入の把握を容易にするための規律について、次の考え方を含めて、引き続き検討するものとする。
⑴ 実体法上の規律
父母は、離婚するとき(注1)に、他方に対して、自己の収入に関する情報を提供しなければならないものとする。
⑵ 手続法上の規律
養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に関する家事審判・家事調停手続の当事者や、婚姻の取消し又は離婚の訴え(当事者の一方が子の監護に関する処分に係る附帯処分を申し立てている場合に限る。)の当事者は、家庭裁判所に対し、自己の収入に関する情報を開示しなければならないものとする(注2)。

【意見】
 中間試案第5の2に賛成する。
【理由】
 まず、離婚に限らず、これから決定する事項に係る証拠を自己申告にしていたら、誤魔化したもの勝ちとなり、公正中立な社会とは成り得ない。また、証拠集めに時間を要し、手続きを効率的に進めることができない。家族法に限らず、オーストラリアやアメリカの「ディスカバリー制度」を参考に、裁判所に行く前に最新の正確な情報を開示し、証拠の隠ぺいがあれば刑罰を与えるべきだと考える。

3 親子交流に関する裁判手続の見直し
⑴ 調停成立前や審判の前の段階の手続
親子交流等の父の監護に関する処分の審判事件又は調停事件において、調停成立前又は審判前の段階で別居親と子が親子交流をすることを可能とする仕組みについて、次の各考え方に沿った見直しをするかどうかを含めて、引き続き検討するものとする(注1)。
ア 親子交流も関する保全処分の要件(家事事件手続法第157条第1項[婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分]等参照)のうち、急迫の危険を防止するための必要性の要件を緩和した上で、子の安全を害するおそれがないことや本案許容の蓋然性(本案審理の結果として親子交流の定めがされるであろうこと)が認められることなどの一定の要件が満たされる場合には、家庭裁判所が暫定的な親子交流の実施を決定することができるものとするとともに、家庭裁判所の判断により、第三者(弁護士等や親子交流支援機関等)の協力を得ることを、この暫定的な親子交流を実施するための条件とすることができるものとする考え方(注2、3)
イ 家庭裁判所は、一定の要件が満たされる場合には、原則として、調停又は審判の申立てから一定の期間内に、1回又は複数回にわたって別居親と子の交流を実施する旨の決定をし、【必要に応じて】【原則として】、家庭裁判所調査官に当該交流の状況を観察させるものとする新たな手続[保全処分とは異なる]を創設するものとする考え方
⑵ 成立した調停又は審判の実現に関する手続等
親子交流に関する調停や審判等の実効性を向上させる方案(執行手続に関する方策を含む。)について、引き続き検討するものとする。

【意見】
 中間試案第5の3が、家族の置かれたどのような状況を前提にしているかが不明であるが、「審判の前」「保全処分」「家事事件手続法第157条第1項」という用語から、もう一方の親が一方の親の同意なしに子どもを連れ出した別居を想定しているように思われる。
 そこで、前提を場合分けして意見を述べると、次のようになる。
⑴ 一方の親の同意なしに、子どもを連れ去り、子どもが交流を断たれている場合
 試案第5の3アに反対する
⑵ 一方の親の同意の上で、子連れ別居したが、別居後の養育計画を履行していない場合
 試案第5の3イに概ね賛成する。
⑶ 一方の親の同意の上で、子連れ別居したが、別居後の養育計画を取決めていない場合
 別居後に早急に父母で養育時間を協議し、協議が調わない際に、裁判所を利用する。その後の取扱いは、試案第5の3イに概ね賛成する。
【理由】
⑴ 一方の親の同意なしに、子どもを連れ去り、子どもが交流を断たれている場合
 同意を得ずに子どもを連れ去る行為は、未成年者拐取(略取・誘拐)、刑法224条違反である。令和3年(2021年)4月13日の衆議院法務委員会で嘉田由紀子議員が、上川法務大臣、川原法務省刑事局長から、現行でも処罰の対象となり得るとの回答を得ている。しかし、実際には、警察は、連れ戻しは事件として扱うが、連れ去りを警察は事件として取り扱うケースは殆どない。
 目を海外に転じてみると、外務省が令和4年4月に公開した「子の連れ去りに関する各国法令の調査報告書」によれば、調査をした9か国全てで子の連れ去りは誘拐者に何らかのサンクションが与えられており、オーストラリア(クイーンズランド州)では児童盗取罪とされる(但し、刑法ではなく民法の法廷侮辱罪の適用が好ましいとしている)。
 法務省が令和3年4月に公開した「協議離婚に関する実態調査結果」では、協議離婚をした子持ちの親1000人のうち、話合いをせず別居した親は145人、そのうちDVや虐待があったのは6人、0.6%であり、極めて少数の例外であった。
 これらの事実から、積極的抗弁行為を認めたうえで、DVからの避難等の然るべき理由がない子連れ別居については、当該試案のような親子交流の方法を検討する以前に、連れ去った親には相応のサンクションを与え、子どもは連れ去られた親の元に可及的速やかに戻すという世界標準の規則に沿った運用を確立、徹底すべきだと考える。
⑵ 一方の親の同意の上で、子連れ別居したが、別居後の養育計画を履行していない場合
 試案第5の3イとほぼ同じであるが、私の考える方案は以下の通りである。
「最小限の養育時間」で定義されている年齢別の頻度に基づき、申立日を起点に、当該頻度から算出される日数内で、家庭裁判所調査官、或いは、第三者交流支援機関の監視のもと、取り決めた養育計画に沿った養育時間を実行する。監視者は親の行動、子どもの行動、親子関係の状況を観察し、観察報告書を作成し、裁判所に提出する。裁判所は報告書を基に問題がなければ、取り決めた養育計画を養育計画命令として発行する。
⑶ 一方の親の同意の上で、子連れ別居したが、別居後の養育計画を取決めていない場合
 本中間試案は「養育の取決めの出発点を離婚にした前提」で纏めているように感じられるが、社会問題となっている「子の連れ去り」は、一方的な別居から始まっている。従って、連れ去りを防止するには、法律上、別居を離婚と同等に扱うことが必須である。つまり、別居に際し、養育計画の作成を義務化しなければならない。このケースでは、養育計画を取決める前に別居しているため、子連れ別居後、申立てをする前に速やかに父母が協議を行い、家庭裁判所に養育計画を提出して同意命令とし、法定別居を成立させねばならない。

【意見】
 養育費の不払いに対する強制徴収、財産分与に関する情報開示等、金銭面の取決めの実行率を向上させる試案が多数あるにも拘らず、「子どもと過ごす時間」(親子交流)の不履行に対する試案は、中間試案第5の3⑵で「引き続き検討する」とあるだけで、具体的な内容が記載されていない。そこで、私の考える対策を以下に述べるので、パブリックコメント後の審議の席で検討して頂きたい。
①月間の合計養育時間が取決めを満足しない都度、サンクションを与える。
➁債務者が養育費の受給者であれば、養育費の額面、受給者でない場合は月間収入の8分の1を反則金の基準額に設定し、不履行の都度、基準額を累積し、債務者に請求する。
(例えば、1回目の不履行が10万円であれば、2回目の不履行は20万円とする)
③債務者が会社等で勤務している場合、雇用者宛てに不履行の事実を連絡する。
④不履行状態が悪質な場合は、裁判所のホームページに債務者の住所と氏名を掲載する

4 養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に係る金銭債務についての民事執行に係る規律
養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に係る金銭債権についての民事執行において、1回の申立てにより複数の執行手続を可能とすること(注1)を含め、債権者の手続負担を軽減する規律(注2)について、引き続き検討するものとする。

【意見】
 中間試案第5の4に賛成する。但し、債務者の支払能力が不足している場合の措置をどうするのか決まった後に対応すべきである。
【理由】
 債務者の支払能力を考慮せず、債権者の手続きが煩雑だという理由だけでこの中間試案を設けたのであれば、随分と乱暴である。現行都度手続きを行っているのは、それ相応の理由があるはずで、パブリックコメントを求めるのであれば、「債務者の手続き保障の観点」で済ませずに、その点を具体的に明らかにしなければ、バランスの取れた適切なコメントは期待できないと考える。

【意見】
 (注2)の個人番号活用は1つの方法ではあるが、預金保険機構を利用して裁判所が債務者の情報を探索するよりも、オーストラリアやアメリカのように養育費の算定や徴収を、その方面に長けた行政機関に任せる方向で進めるべきだと考える。
【理由】
 離婚後共同親権(監護権を含む)を導入し、「父母はその関係に拘らず、子の養育の責任を負う」ことを法律で明確に謳い、親の扶養に対する第一次的責任を規定すれば、他国のように裁判所は養育費の取決め時点と取決め後の変更時のみ関与しさえすれば良く、養育費に関する徴収等の実務は行政で扱うことができると考える(それ用の法律が必要であるが)。
 なお、アメリカは行政による養育費強制徴収の嚆矢で、社会保障番号を活用しているが、アメリカの社会保障番号に対応する日本のマイナンバーは普及率が60%程度である。債務者が会社員だけではなく、個人事業主の場合もあること、債務者の養育費支払能力を考慮するとなれば、アメリカよりも、国税庁が養育費の査定や徴収を担うオーストラリアを参考にすべきと考える。

5 家庭裁判所の手続に関するその他の規律の見直し
⑴ 子の監護に関する家事事件等において、濫用的な申立てを簡易に却下する仕組みについて、現行法の規律の見直しの要否も含め、引き続き検討するものとする。
⑵ 子の監護に関する家事事件等において、父母の一方から他の一方や子への暴力や虐待が疑われる場合には、家庭裁判所が当該他の一方や子の安全を最優先に考慮する観点から適切な対応をするものとする仕組みについて、現行法の規律の見直しの要否も含め、引き続き検討するものとする。

【意見】
 中間試案第5の5⑴には回答できず。
【理由】
 「補足説明」も読んだが、主張していることが理解できない。申立人は、申立てが必要だと認識して申立てをしたはずであり、申立てが決められた手続きを守っているなら裁判所は受付を拒否できないと考える。「濫用的」という申立てられた側の主観的な感想ではなく、より具体的な事例を提示して頂けなければ、意見することができない。

【意見】
 中間試案第5の5⑵が、「裁判所の職員がDVや児童虐待を軽く見ている」、「DVや児童虐待を主張しても理解してもらえない」ので改善して欲しいという主張であり、且つ、それが事実であるなら、改善に賛成する。
【理由】
 日本の裁判所の職員がDVを軽視しているか否かは分からないが、私の知る限りでは、アメリカやカナダでは、「裁判所職員はDVに対する知識が不足しているため、DV研修を義務付ける」とする法律が検討され、施行されている(先述のピーキー法、ケイラ法)。欧米は日本よりもDV対策が進んでいるとされているので、日本も同様の対策を講じておけば間違いはないと考える。
 しかし、真っ先にすべきは、「実務における」DVの定義を明確化することだと考える。「DVを軽視している」のではなく、「A氏の考えるDV≠B氏の考えるDV」と私は理解している。DVは単に家の中で発生した身体的暴力を指すのではなく、支配と強制の存在がマストであり、殴られずとも精神的に支配されていたらDVとなる一方で、家の中で怒鳴りあって殴られたなら夫婦喧嘩、あるいは高葛藤となる。喧嘩や高葛藤とDVの境界に線を引くことは難しいため、DVの懸念がある場合は、アセスメント・ツールを使用して評価するのが世界標準であるが、日本は定量的評価が不十分なようである。真性のDVは生命に影響を及ぼすため、DV被害者を確実に救済せねばならない一方、虚偽のDVは加害者とされた者の人権や社会的立場を損なう重大な犯罪であるため、諸外国では失敗を犯さないようアセスメントを義務付けている。日本も他国と同じ運用が必要である。
 更に、欧米諸国は、DVの懸念があったり、DV被害の申告があった場合、専門家がアセスメントを行い、その結果がでるまでは一緒に協議もしないし、調停等で同席することもない。日本の調停は、シャトル・メディエーションで欧米とはスタイルが違うので、比較的安全だとは思うが、DV被害者に適用する手順を標準手順にする等、他国を参考に運用方法を見直していく必要があると考える。

第6 養子制度に関する規律の見直し(注1)
1 成立要件としての家庭裁判所の許可の要否
未成年者を養子とする普通養子縁組(以下、「未成年養子縁組」という。)に関し、家庭裁判所の許可の要否に関する次の考え方について、引き続き検討するものとする(注2)。
【甲案】家庭裁判所の許可を要する範囲につき、下記①から③までのいずれかの方向で、現行法の規律を改める。
① 配偶者の直系卑属を養子とする場合に限り、家庭裁判所の許可を要しないものとする
➁ 自己の直系卑属を養子とする場合に限り、家庭裁判所の許可を要しないものとする。
③ 未成年者を養子とする場合、家庭裁判所の許可を得なければならないものとする。
【乙案】現行民法第798条[未成年者を養子とする縁組]の規律を維持し、配偶者の直系卑属を養子とする場合や自己の直系卑属を養子とする場合に限り、家庭裁判所の許可を要しないものとする。

【意見】
 中間試案第6の1の甲案③に賛成し、甲案①②と乙案に反対する。
【理由】
 児童の権利に関する条約の第21条では、当局による認定を義務付けており、甲案③以外は条約違反である。養親と配偶者が離婚する場合も裁判所が関与するべきである。
 上川法相(当時)は、平成30年(2018年)7月15日の讀賣新聞に掲載されたインタビューで、次の様に述べている。
「東京目黒区で今年3月、5歳の女児が虐待死した事件は、法務省として重く受け止めている。親は子どもを監護する義務がある。しかし、子どもがSOSの声を上げられない中で、命が失われたり、痛めつけられたりしている。人格がある一人の人間として、しっかりと向き合っていくことが、子どもの健やかな成長につながっていく。表に出せない子どもたちのSOSを聞ける社会でなければならない。そのための親権制度の見直しを検討したい」
目黒区の女児虐待死事件は、養子縁組をした船戸結愛ちゃんが継父と実母の虐待により死亡した事件であるが、2回目の児童相談所の一時保護の際、心理士に「パパ、ママいらん」「前のパパが良かった」と自分の気持ちを告白している。
 この結愛ちゃんの発言は養子縁組を決定した際の発言ではないが、裁判所で養子縁組に問題がないかを検討するステップ、並びに当事者である子どもに意見表明の機会を設けるステップを確保しておくことが重要だと考える。

2 未成年養子縁組に関するその他の成立要件
(上記1のほか)未成年養子縁組の成立要件につき、父母の関与の在り方に関する規律も含めて、引き続き検討するものとする(注)。

【意見】
 現行の離婚後単独親権制度下の養子縁組を前提とするのか、離婚後共同親権(監護権を含む)制度下の養子縁組を前提とするのかで、回答内容が異なる。そこで、離婚後単独親権制度時と離婚後共同親権制度時のケースに分けて、意見を述べる。
 離婚後単独親権制度の場合、「親権有無に限らず両親の合意」を要件に加える。
 離婚後共同親権(監護権含む)の場合、「親責任(親権と監護権)を有する親の合意」を要件に加える。
 また、「但し、養子縁組後であっても、継親と養子縁組前の親との協議が調えば、親子交流ができるものとする」を追記する。
【理由】
 養子縁組をすると、縁組前に親権を有していた親は親としての法律上の権利を全て失う(日本だけでなく、オーストラリアを始め、少なくともイギリス圏は同様の運用)。それほど重要な決定であるため、親権者の同意が養子縁組成立の絶対条件とする。
 また、養子縁組により実親と実子との関係を完全に切断することは、現代において適切だとは思われず、第三者として交流ができるよう、ただし書を追加する。
[離婚後単独親権制度の場合の意見に関する理由]
 離婚した父母のどちらかが再婚して、新しいパートナーが連れ子の監護をするにしても、養子縁組をしない限り、新しいパートナーは親権(監護権)を持つことができない。そのため、新しいパートナーは連れ子と養子縁組をするのが一般的である。一方で、現行の離婚後単独親権制度では、父母のどちらかにしか親権を与えないため、親権者の同意を養子縁組の要件にしても、親権を持たない別居親の同意は不要のままである。そうすると、離婚後、別居親が知らない間に実子が養子縁組していたという事態が発生する。
これを回避するには、養子縁組の要件に「親の合意(親権有無を問わず)」を加える必要がある。

3 養子縁組後の親権に関する規律
未成年者の養子縁組後の親権者に関する規律につき、以下の方向で、引き続き検討するものとするとする(注1、注2)。
① 同一人を養子とする養子縁組が複数回された場合には、養子に対する親権は、最後の縁組に係る養親が行う。
➁ 養親の配偶者が養子の実親である場合には、養子に対する親権は、養親及び当該配偶者が共同して行う
③ 共同して親権を行う養親と実親が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方(注3)を親権者と定めなければならない。裁判上の離婚の場合には、裁判所は、養親及び実親の一方(注3)を親権者と定める。

【意見】
 中間試案第6の3①に賛成する。
中間試案第6の3➁の「養親の配偶者が養子の実親である場合には」は不要。シンプルに「養親と配偶者の双方が親権者となる」とする。
中間試案第6の3③は、「その協議で、その一方(注3)」を「双方」に修正する前提において賛成する。
【理由】
 養子縁組で養子となった子どもは、その後の法律上の取扱いを、原則として実子と全く同じにするべきだと考える

4 縁組後の扶養義務に関する規律
未成年養子縁組後の実親及び養親の扶養義務に関する規律として、最後の縁組に係る養親が一次的な扶養義務を負い(当該養親が実親の一方と離婚している場合には、その実親は当該養親とともに一次的な扶養義務を負う)、その他の親は、二次的な扶養義務を負うという規律を設けることにつき、引き続き検討するものとする。

【意見】
 中間試案第6の4の「最後の縁組に係る養親が一次的な扶養義務を負う」に賛成する。
【理由】
 養子縁組は、原則として養親縁組する以前の親(一般的には実親)の親責任(親権、監護権)の一切を取消し、養親になったものに親責任(親権、監護権)を与える法律上の行為である。養子縁組後で養子となった子どもは、法律上、養親の実子と同じ扱いをするのだから、その時点の養親が養子の一次的な扶養義務を負うのは当然である。

第7 財産分与制度に関する規律の見直し
1 財産分与に関する規律の見直し
財産の分与について、当事者が、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求した場合には、家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその協力によって取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮し、分与させるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めるものとする。この場合において、当事者双方がその協力により財産を取得し、又は維持するについての各当事者の寄与の程度は、その異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。

【意見】
 中間試案第7の1の「離婚後の当事者間の財産上の衡平」から「離婚後の」を削除し、「当事者間の財産上の衡平」にすべきである。
【理由】
 日本の財産分与の中には、清算的要素以外に扶養的要素も含まれているとされているが、それは、オーストラリアやアメリカのような離婚後配偶者扶助制度が存在しなかったことも一因だと考える。そのアメリカでも、女性の社会進出に伴い、離婚後配偶者扶助制度の再検討がなされている。
離婚は「親子関係」の切断ではないが、「夫婦関係」の切断であり、離婚後も元配偶者の扶養を考慮するのは合理的思考ではない。子どもが父母と同一水準の生活を送れるようにそれぞれの養育費の金額を決定するにも拘らず、「離婚後」の財産上の衡平を図ったら二重カウントとなる。
 現実問題としても、扶養的要素の具体的内容を定義し、1年当りの支払い金額を算出し、「何年間扶養する」かを明確にして、扶養的要素の総額を算出するのは困難である。

【意見】
 財産分与で金額決定の検討に使用する項目を条文に記載するのは賛成である。また、この項目の中には、オーストラリアの家族法第79条が示しているように、「非金銭的貢献」も考慮しなければならない。例えば、結婚を機に退職して専業主婦(夫)になったケースでは、婚姻期間中のサポートによる相手方の増収入や離婚後の就労研修費用は財産分割で考慮してしかるべきと考える。
【理由】
 何を根拠にそのような決定を下したのかを明確になり、父母が結果に納得できる。
 参考までに、オーストラリアで衡平な財産分与を決める際に考慮するべきとされる要素を以下に挙げる。
  ①婚姻の継続期間:最も重要視される
  ➁子どもの監護の有無
  ③各当事者の将来のニーズ:年齢、健康状態、働く能力
  ④各当事者の金銭的貢献度:贈与、相続ほか
  ⑤各当事者の非金銭的貢献度:料理、掃除、子どものケア、学校行事参加ほか
  ⑥婚姻のため就労から遠ざかることを余儀なくされた特殊事情
  ⑦離婚後の就労のための研修費用

【意見】
「補足説明」に学資保険を財産分与の対象から外す提案が記載されていたが、反対する。
【理由】
 子どもの将来のための積立は学資保険でなくとも可能である。目的が明らかであるという理由だけで、「学資保険」という商品メニューだけ財産分与の対象から外す合理的な理由を見出せない。寧ろ「学資保険」を聖域にして、これを悪用する者が出てこないとも限らない。

2 財産分与の期間制限に関する規律の見直し
財産分与の期間制限に関する民法第768条第2項ただし書を見直し、【3年】【5年】を経過したときは、当事者は、家庭裁判所に対し協議に代わる処分を請求することができないものとするほかは、現行法のとおりとする。

【意見】
 中間試案第7の2に反対する。
【理由】
 「補足説明」で現行の2年以内を見直す理由として、「様々な事情で2年以内に請求できず、経済的に困窮した」事例を挙げているが、条文を見直すほど当該ケースが頻発しているとは思えない。期限を延ばすほど、決着の着かない仕掛業務が裁判所に増え、裁判所の業務効率が低下する。
 法律を変えることを提案する前に、2年で対応できない根本的原因を解決すべきである。

3 財産に関する情報の開示義務に関する規律
財産分与に関して、当事者の財産の把握を容易にするための規律について、次の考え方を含めて、引き続き検討するものとする。
⑴ 実体法上の規律
夫婦は、財産分与に関する協議をする際に、他方に対して、自己の財産に関する情報を提供しなければならないものとする。
⑵ 手続法上の規律
財産分与に関する家事審判・家事調停手続の当事者や、婚姻の取消し又は離婚の訴え(当事者の一方が財産の分与に関する処分に係る附帯処分を申し立てている場合に限る。)の当事者は、家庭裁判所に対し、自己の財産に関する情報を開示しなければならないものとする(注)。

【意見】
 中間試案第7の3⑴⑵ともに賛成する。
【理由】
 オーストラリアやアメリカでは「ディスカバリー制度」により、証拠開示が原則で、情報を開示しない場合は、裁判所から金銭的処罰が科される。至極当然の考え方であり、取り入れるべきだと考える。この改正は、訴訟の遅延を改善する効果があるので、当事者だけでなく、リソース不足と言われる裁判所にとっても歓迎すべきものと考える。

第8 その他所要の措置
第1から第7までの事項に関連する裁判手続、戸籍その他の事項について所要の措置を講ずるものとする(注1、2)

【意見】
 試案第8に賛成する。
【理由】
 見直しの影響を受ける裁判手続きを見直さなければ整合性が取れないのであるから見直しは当然である。

【意見】
 注1の民法第754条の削除に賛成する。
【理由】
 民法第754条は既に空文化しており、平成13年の第151回衆法54号「民法の一部を改正する法律案」の中に盛られていたと理解している。どうして削除されなかったのか不明であるが、空文なので削除すべきである。

【意見】
 注2については、今回の民法見直しの遡及効を認めるべきと考える。
【理由】
 現行の民法下、親権を奪われたことで甚大な害を被った親、子が多数存在し、その被害は継続している。被害者を見捨てずに救済するため、遡及効を認めるべきと考える。

4.家族法制審議会の今後の進め方等に関する意見

 「補足説明」の諮問に至る経緯に、国連こどもの権利委員会、国連規約人権委員会、EU議会から勧告がなされた事実を紹介しているにも拘らず、今回公表された中間試案には子どもの権利条約に沿った見直しをする、国際社会の要請に対し善処する、社会問題化した児童の貧困や虐待、実子誘拐に対する措置を講じているようには感じられなかった。海外の実態調査(山下法相時)、家族法研究会(河井法相時)、子どものアンケート調査(上川法相時)、法制審議会への参考人招致を活かしているようにも読めなかった。離婚後共同親権(監護)が欧米諸国で施行されて久しいのに、それらを参考にしない理由が分からない。日本は欧米諸国に対して遅れ過ぎているので、欧米諸国の法律は参考にならないし、参考にすべきではないといった思考があるなら、その思考を排除し、幕末明治期の先人と同じ気概をもって審議に当たって欲しい。
 また、これまでに多様な意見が寄せられているであろうが、中途半端な答申とならないよう、諮問理由を念頭に置き、今後の審議を進めて欲しい。
 なお、今回の法制審議会の成果を明確にするために、答申に際しては、児童の権利に関する条約との整合性を一表に纏めた資料、ならびに見直し案にどのような形でチルドレン・ファーストを反映したか解説した資料も併せて公表して頂きたい。

以 上

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