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空を旅する 

東京ステーションギャラリーにて行われている「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展へ行ってきました。


「大天使」何処へ行く…
2003


フォロンについては、全く知らなかった私。
でも、予告案内の絵をひと目見ただけで、一気に惹きつけられ、これは絶対見に行こうと心に決めたのでした。

柔らかな色彩に、何処か不可思議な世界観。
日常と空想の間を、行ったり来たりしているような。
どちらが本物でどちらが真実か、わからなくなるような。


月を旅しているのか
月と旅しているのか
「月世界旅行」 1981



フォロンの絵は、一見キラキラと粉砂糖のかかったスイーツみたい。 
だけど、ひと口かじると、案外スパイスが効いていてピリッとした大人の味です。

空には虹がかかり、美しい海の中にはカラフルな魚たち…と思ったら、よく見れば魚雷だったり。
手のひらから餌をついばもうとしているのは、可愛い小鳥…ではなくて、ミサイルだったり。

自然破壊、戦争、社会問題…など、様々な思いや訴えをユーモアにくるんで。
時には激しく毒々しいほどの色使いで。
フォロンは、私たちに語りかけてきます。

あなたは、どう思う?
何を感じる?
考えを聞かせて…と。


目は口ほどに物を言う?
ひとりだけ帽子の色が違うのも
気になる
「無題」


この絵に限らず、フォロンはどこか異質なもの、違和感のあるものを、よく作品に紛れこませています。

印象に残っているのは、背中にゼンマイがついてる男たちの絵。
そして、ただ1人、ゼンマイのついてない男。
男たちは彼を見て、指を差したり噂をしている様子が描かれています。

私たちの世界では、ごく普通の人。
なのに、このゼンマイ男たちの世界では、彼は異質なもので指を差される対象になってしまう。

似たようなことは、現実の世界でもよくあることで。
海外に行ったら日本の常識が通じなかったり。
学校や職場など、狭い枠組みの中で当然とされていたことが、一歩外に出てみれば、全くおかしな話であったり。

それは本当に違っているの? 
あなたの方が、違っているんじゃない? 
あなたの目に見えているのは、真実?

そんな風に、フォロンに問われている気がします。


鏡に映っているのは誰?
「いつもとちがう」1976



フォロンが工業デザイン科の学生だった時、ルネ・マグリットの壁画を見て衝撃を受けた、という話を聞いて、なるほど…マグリットの影響を受けていたのか…と、なんだか納得でした。

空に浮かぶ大岩の城。
巨大なグラスに乗っかった雲。
空から降ってくる紳士…。

マグリットの描く世界と、フォロンの描く世界。
表現方法や訴えかけているものは違えども、空想の世界へいざなうという点では、どこか通ずるところがあります。
空や浮遊感に魅せられているように、感じられるところも。


マグリットの描く空

「ゴルコンダ」1953  「ピレネーの城」1959
「男と夜」1964  「心の琴線」1960  



フランスの文豪マルセル・プルーストが、考えや価値観などを知るために考案した「質問帖」。
フォロンも回答しているのですが、ここでも、空や飛ぶことへの憧れのようなものを感じました。


自分以外に、なれるとしたら
 鳥

自分のものにしてみたい自然の力
 魚のように泳ぐこと

どのように死にたいか
 空に飛んで


自由自在に泳ぐことは、私には飛ぶことと近いように思います。
ペンギンが、まるで空を飛ぶように水の中を泳いでいるイメージがあるせいかもしれません。
フォロンのいちばん好きな鳥は、「アホウドリ」だそうですけど。


作品中にも空や宇宙、鳥、飛ぶ人がよく描かれている気がします。
彼の求めてやまない夢、のようなものでしょうか。

「AGENCE DE VOYAGE IMAGINAIRES(空想旅行エージェンシー)」と名刺に記していたフォロン。
彼の空想旅行には、欠かせないアイテムだったのかもしれません。

空から現れるのは侵入者か 
希望の光か
「見知らぬ人」1991



フォロンの絵の大きな魅力のひとつは、あの美しくハッとさせる色使いだと思いますが、私は初期の頃の、白黒で描かれた作品にも強く惹かれました。

ほとんどは無題。
さらさらっとシンプルに、まるでイタズラ書きのように描いているようで、全てがあるべき所にピタッとはまっているような。


今回は、初期の作品約50点を収めている、こちらの本を買って帰りました。

『フォロンを追いかけて  Book 1 』

つい買ってしまった缶バッジ


この本には、前述したマルセル・プルーストの「質問帖」への回答も載せられていて、他にも興味深い回答がいろいろありました。


いちばん好きな時間の過ごし方
 人生を観察すること

理想とする幸福
 人生を理解すること

自分にとって最大の不幸とは
 人生を失うこと

いちばんのヒーロー
 ランボー

フィクションにおける、いちばんのヒロイン
 不思議の国のアリス

実生活におけるヒーロー
 職人たち

実生活における、いちばんのヒロイン
 恋をする女性たち

いちばん好きな食べ物と飲み物
 ジャガイモ、ボルドーワイン

なによりも嫌いなもの
 嫉妬

もっとも軽蔑する歴史的な出来事
 他国の征服


こうして見ていくと、フォロンという人が少し分かってくるような気がします。
けっこうお茶目な方なんだな、ということも。

お茶目といえば、フォロンは来日したこともあるのですが、その時にどうやらハンコがお気に召したよう。
日本から絵手紙を送る際にも、ハンコを多用していました。

自分の名前「フォロン」のハンコをペタリ。
山の絵には、上から「山」のハンコをペタペタ。
太陽の上にも、「太陽」のハンコをペタペタ。
いくつも、いくつも(笑)
まるで、新しいおもちゃを手に入れた子どものようで、笑ってしまいました。



毎度恒例の
ポストカードも購入



今回、ギャラリーにはジュニアガイドも置かれていたのですが、これが非常によくできていて感心しました。


小難しい美術案内より
よほど分かりやすくて面白い


レンズ部分をくり抜いて
切り離せるメガネ付き
「どんなせかいが みえるかな。」


実際に、このメガネで覗いている子どもは、残念ながら見かけませんでしたけど。
私は、ちょっとやってみたい衝動に駆られましたが、ガマンしました(笑)



案内板もフォロン仕様



フォロンによる空想旅行への旅。
空を飛び、矢印に翻弄され、美しくも不思議な世界にたどり着く。

きっとギャラリーを出る頃には、すっかりフォロンの絵に魅了されているはず。 
そして、ちょっぴり「いつもとちがう」自分に変わっているかもしれません。


フォロン展は、9/23までとなっていますので、どうぞお早めに!



案内チラシより





〈オマケの話〉

マルセル・プルーストの「質問帖」について検索していたら、偶然、スティーブン・キングのこんな回答も見つけました。


生まれ変わるなら?
 犬。たくさん愛されて、冬には暖炉の前で
 寝そべっていられるような、いい犬。

なんか、わかる(笑)と思ってしまいました。

犬好きさんだから、『ペット・セメタリー』のアイデアを思いついたんでしょうか…。




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