1982年「SPACE ADVENTURE コブラ」
公開 1982年
監督 出崎統
声の出演 松崎しげる 中村晃子
TVアニメ「スペース コブラ」に先駆けて公開された劇場版で、出崎統が監督、原作の寺沢武一が脚本を手掛けています。
作品自体はTV版よりエロティックな演出が多く、落ち着いた大人のテイストです。
寺沢武一の「コブラ」は1980年代に少年ジャンプで連載され、アメコミのダイナミックさと日本漫画の繊細さを合わせ持ち、時代に先駆けてCGを用いた独特の色彩とキャラクター造形で、唯一無二の世界観を持つ作品といえます。
左腕にサイコガンを持つ宇宙海賊コブラが、第7銀河崩壊を目論むギルドの陰謀を阻止するべく、相棒のアーマロイド・レディと共に戦う…
ドミニクら三姉妹やコブラの宿敵クリスタル・ボウイなどオリジナルのキャラクターが登場するものの、ストーリーは劇場用に変化が加えられており、サイコガンは義手を着脱するのではなく、左腕が発光して変形する仕様になっています。
TV版を先に見ていた私は、野沢那智の軽妙な吹き替えの印象が強く、松崎しげるの吹き替えに違和感を感じたものです。
松崎しげるの存在感がコブラのキャラクターよりも前に出過ぎており、映画のレビューを見る限りおおむね不評のようですね。
ただ、彼が歌う主題歌「DAYDREAM ROMANCE」は名曲で、映画本編より強く印象に残っています。
平凡な日々を過ごしていたジョンソンは、ある日召使のロボットから気分転換に奨められた「トリップ・ムービー」を見た事で覚醒、左腕にサイコガンを持つ「海賊コブラ」として復活する…
トリップ・ムービーとは、脳に信号を与えて夢を見させ、夢を見ている間は「理想の自分」になれる未来のアミューズメントで、当時は斬新な発想に驚いたものです。
本作にはこのほかにも未来的ガジェットが多数登場し、時代に先駆けていたと言えます。
「コブラ」の魅力は何といっても、独特のキャラクターデザインで、登場人物、特に女性はほぼ裸に近く、コスチュームは体のわずかな面積を隠しているだけで、未来では肉体そのものがファッションになるという作者の意図を感じます。
TVアニメ「スペース コブラ」はフジテレビで夜7時から放送され、女性キャラクターは家族で見ていて気まずくなるほどエロく際どいものでした。
OPとEDはルパン三世の楽曲でお馴染みの大野雄二で、前野曜子の吐息まじりの気だるいボーカルも素晴らしくOPテーマ「コブラ」はアニメ史に残る神曲といえます。
エンディング曲「Secret Desire」はコブラとレディのカードが曲に合わせてクルクルまわるシンプルかつ大人のお洒落な楽曲で、大野雄二ならではのジャズテイストです。
監督に出崎統、メカニックデザインに村上克二など超一流のクリエイターが集結しており、テレビアニメ史上渾身の作品だったことが伺えます。
1978年から1984年まで少年ジャンプで連載された「コブラ」は、読者の想像を超えるあまりに完成された世界観を持つ作品であると同時に、同時期連載の作品と比べ明らかに異質で、当時の青少年に受け入れられ絶大な人気を博したのが意外に思えます。
コブラはおちゃらけていても決める時は決める、肩の力が抜けた大人の男の渋さと色気、例えるならルパン三世とジェームズ・ボンドを合わせたようなキャラクターと言えるでしょうか。
「神か… 最初に罪を考え出したつまらん男さ」
「懺悔…? やめておこう。すべてを告白するには1週間はかかるだろうからな」
ハリウッド映画を思わせる粋でハードボイルドなセリフの数々に痺れたものです。
20代の頃、寺沢武一の原画展に行ったのを思い出します。
CGを取り入れた作画はダイナミックな中にも細かい部分まで緻密に描かれており、平面とは思えない奥行きと躍動感に圧倒されたものです。
2024年に4Kリマスター版が劇場で復刻上映されています。
リマスター版はAmazonprimeで配信されており、現在でも色褪せないキャラクターデザインと造形美を高画質でじっくり鑑賞してみたいものです。