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1991年「紅夢」


公開 1991年
監督 チャン・イーモウ
公開当時 コン・リー(26歳)

一夫多妻制が認められていた中国で、富豪の大邸宅を舞台に、正妻と妾3人が繰り広げる泥沼の心理戦と悲劇的な運命を描いています。
皇帝の後宮を連想させますが、時代は1920年代、第一次世界大戦後の近代が舞台となっています。
映画を見た20代の頃、小さな世界の虚しく哀しい序列争いが強烈に印象に残り、深く考えさせられたものです。

父に先立たれた19歳の頌蓮は、貧しい生活から抜け出すため、地元の富豪に第4夫人として嫁ぐことになる。

4人の住居はそれぞれ、一院、二院、三院、四院と呼ばれ、中庭を挟んで向かい合うように並んでいる。

点灯
頌蓮の四院の提灯に、火がともされる。
それは主が院を訪れ、寵愛を得ることができる印。

夜伽の前に、召使から「足打ち」の施術を受け、恍惚とする頌蓮。
トントントン… 音は邸内に響き渡り、夜伽相手に選ばれなかった女たちは苦い思いを噛み締める。

「足打ちは気持ちよかっただろう。 女は何より足が大事なのだ…」

消灯
主は絶対的な権力を持ち、女たちは主の寵愛を得るためのみに生きる。

第二夫人は「菩薩の顔をしたサソリ」。 表向きは温厚だが、その実、主の寵愛を得るためには手段を選ばない。

第三夫人は元人気女優で、主の主治医と不倫をしている。

召使の女は、第五夫人になることを夢見ており、頌蓮に嫉妬心を燃やしている。

頌蓮は主の寵愛を得るため、妊娠したと嘘を吐くも、下着に付いた血痕を第二夫人に見られてしまう。

「封灯」
妊娠したと嘘を吐いたことが主の怒りを買い、頌蓮の院の提灯には黒い布がかぶせられ、永遠に灯りが点ることは無い。
酒に溺れる頌蓮。
第三夫人は主治医との不倫が発覚し、主の命令で処刑される。処刑を目撃した頌蓮は、ショックのあまり精神のバランスを崩す。

「点灯、消灯、封灯… 人を何だと思っているの?」

翌年、まだ少女のあどけなさが残る年若い「第五夫人」がやって来る。
彼女の眼に、気のふれた頌蓮の痛ましい姿が映る…

「主」は声のみで、姿を現すことはありません。
その演出が、神のごとき彼の絶対的な権力を象徴しています。

主は選んだ女性に特権を与える事で、女性たちを争そわせ、高みの見物をしているように見えるのです。
絶対的な家父長制度の中で押しつぶされていく女性たちが哀れで、やりきれない気持ちになります。

コン・リーは、貧しさゆえ人生を諦めざる得なかった頌蓮を、無表情の中に静かに演じていました。
彼女はチャン・イーモウの「紅三部作」に主演しており、まさに監督のミューズと言えますね。
 
春夏秋冬の移り変わる季節とシンメトリーに配置された邸宅と赤い提灯、一部の隙も無い映像美は圧巻です。
「紅いコーリャン」「菊豆」「紅夢」それぞれまったく違うテイストでありながらいずれも秀作で、チャン・イーモウとは中国の至宝ともいえる恐るべき天才ですね。

人間の生々しい欲望を描きながらもどこか幻想的で、見終わった後、提灯の透けるような赤が目の裏に焼き付く作品です。

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