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黄泉がえりの涙 ①

    これは、自分の存在に違和感を唱える卑屈な女が、不思議な力に目覚める物語である。
    この女は何の能力もなく友達も恋人もいない、虫けらのような存在だった。    
    萱島千賀子36歳。 ab型RHマイナス。珍しい血液型だけが、彼女の唯一の個性である。

ー何の価値もない女の空虚な人 生。

   千賀子は、ごく普通の平凡 な人生を歩んでいた。
    千賀子は身体は健康体だった。しかし、 千賀子は幼稚園の ころから酷い虐めや孤立にあっ た。 先天的な障害と対人恐怖に苦しんできた。 馬鹿にされた侘しい孤独な人生。しかも、取り立てて何の能力がないから、益々惨めである。 誰からも相手にされず、世間から も見向きもされない、 干からびたミミズのような途方もなく孤独で無意 味な人生である。
   千賀子の家は代々長生きの 家系で、事故や事件に巻き込ま れない限り、自分も長生きするのだと悟った。
    千賀子は障害故にどこ行っても上手くいかず、しかし健康体で顔とスタイル はそこそこだったから、 アダル トサイトで稼ぐことになる。しかし、自閉と対人恐怖があり、うまく客とコミニケーションが取れないでいた。中身は何もない中途半端なルッ クスしか取り柄がない、 空虚な 千賀子。しかも、萱島家は代々長生きの家系だから、死ぬにも死ねないこの身体。千賀子は臆病者の根性なしだか ら、 自殺することすら出来ない。

    そんなある日の事だったー。

ー自分はこのまま無力で、誰からも見向きもさ れない干からびたミミズのような状態で、長生きするのだろうかー?

   千賀子は、いつものようにネガティブな感情でいっぱいになり、涙が込み上げてきたのだった。そして、いつもの庭の木陰で丸くうずくまっていた。

   すると、感情が込み上げマグマのように熱くメラメラしたものが、湧き上がった。
   千賀子が涙を流すと、その涙は頬を伝いそして地面にこぼれ落ち土に染み付いた。そして、そのシミは辺り全体に広がったのだった。

   そんな時だったー。土の中からニョキニョキ手が出てそして、腕が伸びてきた。そして、その腕はしきりに空を切りそしてもう片方の腕もニョキニョキ伸びてきた。
    千賀子は、悲鳴をあげた。しかし、身体全身力を吸い取られたかのように重く、その場から身動きが取れないでいたのだ。千賀子は怖くなり、ダルマのように丸くなった。頭を下に向け、視界に何も映らないように防御した。

「こんにちは。お嬢ちゃん。何かお困りかな?」
    高く軽快な若い男の声が聞こえてきたのだ。千賀子は、恐る恐る顔を上げた。すると、目の前には中世ヨーロッパの海賊を彷彿とさせるような出で立ちの男が、武器を携え立っていたのだ。
   千賀子は、ギョッとし金魚のように目を丸くし、呆然とその男を見つめていたのだ。すると、その男の左側が溶けだし骸骨のような状態になった。千賀子は、子猫のようにわなわな震え、後退りした。
「おっと、いけない、いけない。死者も楽じゃないや…」
若い男はそう言うと、再び彼の左側が再び元の綺麗な顔に戻った。
「…あなたは、誰なの…?」
千賀子は、激しく震えていた。男は、ゆっくり千賀子に近づくと、腰に手を当てた。
「ああ…?俺かい…?俺は、世紀の大海賊さ。」
若い男は、ドヤ顔で腰に手を当てる。

   こうして、一人の生者と一人の死者との奇妙で数奇な冒険が始まるのであるー。

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