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赤ちゃんと避難2

NOTEを始めて1年が経ちました。
1年前、はじめてすぐに能登半島で地震が発生し、「赤ちゃんと避難」に関してコメントしたのがついこの間のことのようです。(下記リンク先です)
赤ちゃんと避難|河村 眞弓 / 赤ちゃんとのお出かけ環境プランナー

今回は、実際の避難所がどうなっているのか、避難所へ視察に行った経験をもとに紹介します。
地域によって異なりますので、参考程度と思ってください。

なお「避難場所」「避難所」の言いかたの違いですが、「避難場所」は危険が迫った時に一時的に避難する場所、「避難所」は危険がなくなった後も一定期間滞在する所です。両方兼ね備えた施設もあります。
ここでは「避難所」についての説明となります。


災害7週間後に避難所を訪れて

防災備蓄品の開発に協力してもらった専門家(危機管理アドバイザー)に同行させてもらい、2日間にわたって珠洲市の避難所3ヵ所を訪問しました。

ただ訪問するのではなく、現役・元アスリートの方たちが被災地の児童のためにスポーツ交流会を実施していたので、そのお手伝いをさせてもらいました。

能登地方を襲った震災が発生してから7週間(約1か月半)が過ぎていましたが、金沢から向かう道中、まだ道路が復旧していなくて、到着するのも大変な状況でした。
下記の写真は車内から撮影したものです。

道路が陥没していて反対車線は車が通れない
倒壊した家が車道まではみ出していていた
電信柱が今にも倒れそうな状態

当時はまだ道路が陥没していたり、土砂崩れがそのままだったため、ボランティアさんたちも簡単には来られません。
支援するかたたちは皆、毎日金沢から往復8時間かけていました。
朝5時に出発してやっと9時に到着。
終了も夕方4時には切り上げて、夜8時には金沢の宿泊場所まで戻って来るといった状態でした。

途中、トイレ休憩で寄ったコンビニも断水でトイレは使えませんでした。
これはけっこう、きつかったです…。

避難するときの移動手段

赤ちゃんと一緒に避難するときは、あれもこれも持っていきたいですよね。
赤ちゃんを抱えながら、重たい荷物を持って避難するのは大変ですから。

避難するときの移動手段は、原則として徒歩とされてます。
赤ちゃん連れならベビーカーではなく抱っこ紐です。

地方であれば自宅から避難する指定場所まで遠かったりするので、やむを得ず行けるところまで車で行ったりするかもしれません。

ただ上の写真を見てお分かりの通り、車移動は危険を伴うことを理解しておいた方が良いでしょう。
地震や水害があると、道路が遮断されなくても渋滞で身動きが取れなくなったり、徒歩の人との接触などにも注意しなければなりません。

被災地の道路では、地震の影響でマンホールが隆起しているのをたくさん見かけました。
最初はなんだろうとびっくりしたものです。
原因は地盤の液状化によるものだとか。
車で運転していてこんなのがあったら驚きますよね。

道路に飛び出したマンホール

水害時はマンホールのフタがはずれていることだってあるでしょう。
途中で車を放置せざるを得ないことも。

それでも、小さな子どもを抱えて徒歩で避難所まで行けるんだろうかと不安に思うかもしれません。

まずは地域の避難所・避難場所を確認し、子どもを抱っこして徒歩で行ってみましょう。
自宅から行くコース、通っている保育園から行くコースなど、それぞれの行き方で確認してみることをお勧めします。

平常時に歩いた時間を最小として覚えておくだけでも安心できます。
災害時にはがれきの山になった道路を避けて、遠回りしないとならないかもしれません。

歩きながらマンホールや電信柱がどの辺にあるかも確認しておくと良いでしょう。

また、途中にコンビニがあるかもチェック。
帰宅支援ステーションのマークを確認しておくと便利です。
ライフラインが止まったとき、コンビニが無事であれば、頼りになるセーフティステーションになります。

「災害時帰宅支援ステーション」 ステッカー

避難所に揃っているモノを確認する

SNSで「赤ちゃん防災グッズ/リスト」などのキーワードで検索すれば、持って行くのに必要なリストがすぐに見つかります。
必要最低限の荷物に抑えたいので、各自治体の公式ウェブサイトに掲載されている避難所や備蓄品に関する情報もチェックしておきましょう。

避難所に置かれていた紙おむつ

赤ちゃんの寝る場所

ただ、それらの防災グッズにないものがあります。
それは、赤ちゃんの寝具です。もちろん大人用寝具もですが。
かさばるので持って行くのは不可能ですよね。

大人用段ボールベッドでも、当日から避難所で全員分が支給されるなんて思わないでください。
備蓄倉庫はそんなに置けるわけもなく、すぐに他の避難所などから調達できない可能性があります。毛布も同じ。

それらは必要なときには足りなくて、避難者がいなくなった後に大量に届いたりすることがあります。

体育館に置かれた未使用の毛布など

学校の体育館などは真冬になると冷え込みます。
避難当日に毛布一枚だけ支給されても、床に敷いたら体に掛けることが出来ずに、大人は着て来たコートやジャケットをかけ掛け布団代わりにします。最近では防災用のアルミシートで体を覆うことも。

赤ちゃんのためにベビーベッドを用意している施設は、まずないと思ってよいでしょう。
そのため、親が抱っこしながら寝かせてあげたりしています。
仮に大人用段ボールベッドがあったとしても、子どもの落下を心配して、仕方なく親子で床に寝ていたりします。

対策としては、配給用の物資が入っていた空の段ボール箱をいただいて、簡易コットにする案があります。
寸法が短ければ、片方の側面を倒して、コの字の状態にします。

その中に、おくるみやバスタオルでくるんだ赤ちゃんを寝かせてあげるだけで、囲われた空間が出来上がります。

フード付きおくるみがあれば、赤ちゃんの頭も保護できます。
バスタオルの場合は、赤ちゃんの体をすっぽり覆えるくらいのサイズをお勧めします。

フード付きのおくるみ

防災グッズの中に入れる際は、季節に応じて、暖かい素材、通気性の良い素材などに入れ替えします。
成長に合わせて着替え用の服サイズも変わりますから、それらと一緒に入れ替えすれば、忘れないでしょう。

希望としては赤ちゃん用コットを避難所に備蓄してもらいたいのですが、なかなか普及が進んでいないのが現状です…。
下記は私が開発を担当した、避難所用のベビーコットです。
余震による天井からの粉塵や、眩しい照明から赤ちゃんを守るために幌付きになってます。

避難所用のベビーコット「ベビーにこっと」

開発に関しての経緯は下記のサイトで紹介しています。
「災害大国」だからこそ考えたい 避難所でも赤ちゃんのためのスペースを|Combi ひなん所用コットHB11 ベビーにこっと(3個入)

珠洲市の避難所では、この「ベビーにこっと」を生後の5ヵ月の赤ちゃんが使用していただけたと聞いて安心しました。

実際に避難所に訪問した際は、すでに使用済みの「ベビーにこっと」が体育館の隅に置かれていました。
帰宅後も自宅は断水しているため、自衛隊の方々が用意してくれた避難所の入浴場所で、親が赤ちゃんを沐浴させるのに「ベビーにこっと」を使用してくれたようです。

使用済みの「ベビーにこっと」2つ

沐浴するのでも、お着替えする場所が必要ですからね。
囲われた空間にすることで、安心してお着替えやおむつ交換ができます。

避難所に赤ちゃんが滞在する期間

以前、避難所滞在経験の親にアンケートを実施したところ、赤ちゃん連れで滞在する期間は、1日~1週間未満が圧倒的に多かったです。

衛生状態や感染症に不安を感じたり、夜泣きなどの迷惑を考えて、危険がなくなると他の場所へ移動されたようです。

ただ、訪問した珠洲市の避難所では、生後1才くらいの赤ちゃんが数週間ほど滞在していたとのことでした。
交通が遮断され、移動したくても出来なかったことが予想されます。

危険が収まったあと、自宅が倒壊している可能性もあります。
赤ちゃんとの長期滞在を避難所でするのは親子ともかなりストレス。
日頃から2次避難できる所を家族で話し合っておく必要があります。

避難所のキッズコーナー

赤ちゃんや小さなお子さんがいると、避難所でぐずらないように、防災グッズの中にはお気に入りのおもちゃや絵本、お絵描きセットなどを入れていると思います。

でも歩けるようになってくると、じっとなんかしていられません。

珠洲市の避難所にはテント式のキッズコーナーが設けられていました。
囲われていると、周囲に騒いでいる声が響きにくくて、親も安心して遊ばせられます。

屋内に設置されたキッズコーナー
正面玄関前に設置されたキッズコーナー
キッズコーナーの中

断水対策

長期の断水は飲料水だけでなく、手洗い、トイレ、入浴が不自由になるため、生活の質を保つのが困難になります。

手洗い専用の水は水道不要の循環型になっていて、これは便利だなと思いました。

アルコール除菌シートなどで手を拭くこともできますが、ゴミが増えないのが素晴らしい。
避難所ではごみ問題も深刻です。
交通が遮断されると、ゴミ回収車は来れませんから。

循環型の手洗い機

あと、飲料水はペットボトルの水を使用しますが、1ヵ所にまとめてペットボトルが入った段ボール箱を積み上げておくと、体育館のような頑強な建物でも床が抜けてしまうんだとか。
余震があった際は、それらの箱が倒れてしまいやすいので危険です。

配給物資の配置場所にも工夫が必要なんですね。
役所の職員の方たちは苦労されていました。

トイレは断水のため水を流せません。その対策として、使用時に毎回ポリ袋(黒)で便器を覆ってから使用し、その中に凝固剤を入れて密閉していました。

洗面台に置いてある凝固剤(右の赤い袋)を
1袋、トイレ個室まで持ってくる
ポリ袋(黒)を便器にかぶせてトイレを
使用し、凝固剤(粉末)を振りかけてから
ポリ袋だけ取り出す

上記のポリ袋はしっかり縛ってトイレ入口付近にあるゴミ箱に捨てます。
これをお水が復旧するまでずーっと続けていたわけですから本当に大変です。

そのほか、トレーラータイプのトイレも設置されていました。
お子さんはこちらのトイレなら間違えないで使えます。

トレーラータイプのトイレ
仮設トイレ

上記写真のように、下駄箱付近に仮設トイレを設置している避難所もありました。使用後は水の入ったバケツで流します。

数カ所に「故障中」の張り紙が貼ってあり、使用できないトイレもありました。

別の避難所では屋外に仮設トイレがありました。
便器横にフタの付いていないペットボトルが数本置いてあり、使用後にその水を流すような方法でした。
そして、ここでも「故障中」となっているトイレが多かったです。

このような不便さから、トイレに行く回数を減らすために水分を取らなくなると、脱水症状やエコノミー症候群など命に係わるリスクが発生しやすくなります。

赤ちゃんがいたら、ベビーキープのない避難所のトイレで、自分がどのようにトイレを使用したらよいかさえ不安に思うでしょう。

避難所では周りの人たちとの協力が必要です。
ワンオペ育児の場合は、遠慮しないでトイレに行く間だけでも赤ちゃんをみてもらうようにお願いしましょう。

口腔ケアはとても大事

避難所に訪問に行った際、歯磨き商品を扱う企業の方たちとも一緒でした。
そのとき、口腔ケアの重要性を教えてもらいました。

トイレもそうですが、口内環境が悪化すると健康を害するリスクが高まるそうです。
断水もしているし、お風呂も入れない。歯磨きなど考える余裕さえないかもしれません。
防災グッズとして、携帯用の液体歯磨きなどを持参することをお勧めします。
液体なので水を使わず、お口の中をきれいにしてくれます。

飲料用に配られたペットボトルのお水やお茶でうがいするのもよいでしょう。

小さなお子さんの場合は、ティッシュやきれいなガーゼなどを親の指に巻き、それでお子さんの歯の汚れを拭き取ってあげてください。

何もない場合は、唾液を出すようにするだけでも口の中の汚れを洗い流す効果があるそうです。
お子さんと一緒に、レモンや梅干しなどすっぱいものを想像したり、変顔でお口の体操をするなど、遊び感覚で唾液を出してみるのもいいですね。

映像では伝わらない避難所生活

震災直後は連日、TVで繰り返し被災地の様子が流れましたが、それ以降は秋の豪雨による2次被害があるまで注目は低かったと思います。
でも、実際にはずーっとそこで生活している人たちがいます。

避難所に行ってみないとわからなかったことがたくさんありました。
災害物資は送ってあげれば活用してくれると考えてしまいがちですが、行ってみると未使用で放置されているのが多数ありました。

限られたわずか数人の職員だけで、全国から大量に送られてくる支援物資を分類しているのです。
そして当然ですが、彼らも被災者です。

避難所には近隣の市の職員も来て協力していました。
いざという時のために近隣県・市との連携体制を整えておくことが大切なんですね。

全国各地で発生している災害。
明日、自分の住んでいる地域でも発生するかもしれません。
パニックにならないためにも、発生直後の「やることリスト」を作るなどして、落ち着いて行動できる準備をしておきましょう。

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