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【作品#51(35・36の間)】「愛住町の女」『恋愛 コレクションⅡ』より

こんにちは、三太です。
 
最近、マンガ『チ―地球の運動について―』がアニメ化されました。
もともとマンガを読んで面白いと思っていたので、アニメのほうも見ています。
アニメ化されるにあたって、『チ 第Q集』というトリビュート本が刊行されました。
その中に作者の魚豊さんと元宇宙飛行士の野口聡一さんの対談がありました。
そこで「ポスト宇宙体験の研究」という言葉が出てきました。
これは要するに、ちょっと普通とは違う宇宙体験をしたあとに人はどうなるのかということを研究するものです。(おそらく・・・)
この研究をはじめ、宇宙というものに興味が湧いてきました。
少し宇宙に関わる本や映画に浸ってみようと思っている今日この頃です。

では、今回は吉田修一さんの個人全集全四巻の二巻目にあたる『恋愛 コレクションⅡ』の単行本未収録作「愛住町の女」を読んでいきます。

初出年は2016年(7月)です。
これまで紹介した作品で言うと『橋を渡る』と『犯罪小説集』の間に書かれた作品です。

文藝春秋の『恋愛 コレクションⅡ』で読みました。



あらすじ

新宿の愛住町に自宅兼会社のある女性、律子
会社とは言え、そこは夫が社長として働くところで、律子にとっては籍があるくらいのものであり、特にやることもありません。
一方、家庭では、夫は過去に浮気をしたことがあり、普段も家ですることは帰ってきて寝るぐらいで、もうお互いに目を合わすこともないような日々。

そんな律子が毎夜通うのは近くのゲイバー「ピーチ」。
何かが劇的に変わるわけではないですが、律子の人間としての意地が見られる作品です。

単行本未収録の作品。
『恋愛 コレクションⅡ』に収録されている単行本未収録の作品4つ全てに「閻魔ちゃん」が出てきました。

出てくる映画(ページ数)

今回は1作もありませんでした。 

感想

律子には唯一と言っていい趣味があり、それが「風の強い日の樹々の動画を撮ること」でした。
その趣味をめぐって、最後に律子の意地が見られるのですが、その展開は読んでもらえたらよいかと思います。
私はここで「意地」という言葉を使っていますが、そこの解釈は人によって違うかもしれません。
ある意味、ただの日常の一コマとも言えるような場面なのですが、私にはなぜか律子の意地が感じられました。

簡単に言うとこの話は職場にも家庭にも居場所のない女性のある種やけくその意地みたいなものが描かれた話なのですが、本筋とは無関係そうなディティールもきっちり描かれていて面白いです。
律子には一人娘の千鶴がいて、千鶴は会社の社員である相楽に惚れています。(というかおそらくもう二人は関係を持っています)
しかし、相楽には妻子があり、子どもには重度の障害があるという設定です。
この二人の愛がどのように展開するかその後詳述はされないのですが、とてもリアリティがあり、そういった点でもとても読まされる作品です。

また、タイトルにある愛住町(あいずみちょう)という地名も素敵だなと思います。
調べてみると、実際に新宿にある町名らしいです。
愛が住む町なんて、そこから物語が展開したような気もします。(この話ではどちらかというと純な愛ではないですが・・・)

ちなみに閻魔ちゃんはゲイバーに客として登場します。
思い詰めている律子の前に、蟹を片手に現れる閻魔ちゃん。
なんだか閻魔ちゃんを見て、「何あんたそんなみみっちいことで悩んでるのよ」(本文中にはそんなセリフは出てきませんが)と言われたような気がしました。

秋雨や女の意地へ愛住町

以上で、「愛住町の女」の紹介は終わります。
単行本未収録作の閻魔ちゃん四部作のラストでした。

それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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