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【閑話休題#36】小川哲『君が手にするはずだった黄金について』

こんにちは、三太です。

今回はこちらの作品を読みます。

このnoteでは吉田修一さんの全作品を追っています。
同じように全作品を追いたいなと思っている作家さんは他にも何人かいます。
その一人が今回紹介する小川哲さんです。

と言っても、全然デビュー作など読めていなくて、これまで読んでいたのは『君のクイズ』と直木賞受賞作の『地図と拳』の2作だけでした。

そんな小川さんの直木賞受賞後の第一作として出たのが、『君が手にするはずだった黄金について』です。
リアルタイムで読みたいなということで、色々と積読がある中でしたが(そもそも『永遠と横道世之介』がまだ読めていない・・・)手に取りました。
ちなみに吉田修一さんと小川哲さんの共通点で言うと、どちらも山本周五郎賞を受賞されています。
吉田さんは『パレード』で、小川さんは『ゲームの王国』で受賞されました。


あらすじ

著者自身を彷彿とさせる「僕」が語り手の6つの連作短篇集。
6つのタイトルとその初出は、
・プロローグ(「小説新潮」2022年1月号)
・三月十日(「小説新潮」2019年7月号)
・小説家の鏡(「小説新潮」2021年1月号)
・君が手にするはずだった黄金について(「小説新潮」2021年7月号)
・偽物(書き下ろし)
・受賞エッセイ(「小説新潮」2022年7月号)
です。
初出を見てもらうと分かるように、基本的には「小説新潮」に掲載されたものをまとめたものであるようです。
ただ、全然時系列ではなく、書き下ろしもあるので、もう一度本にするにあたって内容が再構成されているように思われます。
その再構成の結果、本書は「僕」が小説家となっていき、小説を書くこととは何か、あるいは小説家とは何かを問う作品となっています。

感想

本書は、私にとっては小川さんの小説家としての決意表明だと感じられました。
直木賞を受賞し、小説を書くことで俺は食っていくんだというような感じでしょうか。
それが6つの短編を連作とすることで表現されています。
「プロローグ」で小説を書くために彼女と別れ、「君が手にするはずだった黄金について」で小説を書くこと、つまり虚構をつくることに悩み、「受賞エッセイ」で吹っ切れて「ラップトップに向かって文章を書きはじめる」。(p.243)
短篇の連なりに小川さんの作家としてのストーリーを感じてしまいました。

本書の魅力、つまり小川さんらしさも随所に見られました。
まずはたくさんの本が書名とともに引用されるということです。
『怒りの葡萄』『ガープの世界』『夫婦茶碗』『ムーン・パレス』・・・。
大学時代に岩波文庫を一日一冊読むという読書体験をされた小川さんらしいなと感じました。(「作家の読書道」より)

また、哲学者の考えの引用や「僕」の深い思考の過程が本文から読み取れます。
例えば哲学者ではバートランド・ラッセル。
就職のためのエントリーシートを書くために、哲学者とその考えを引用するあたり、とても小川さんっぽいです。
ぽいと言ってもそれはこれまでのそれほど多くない小川本を読んだ経験から述べているだけですが・・・。
そして、私的に一番面白かったのは、占い師との頭脳バトルです。
友達の妻が占い師にそそのかされ、仕事を辞め、小説家になると言っているくだりがあります。
「僕」はそこで、なんとか占い師のその詐欺的な言葉を明らかにしようとあの手この手で頭脳戦を仕掛けます。
このやりとりを書けるのはさすが小川さん!という感じでした。
とても楽しかったです。
 
冬浅し理詰めで拓く占い師

今回は小川哲『君が手にするはずだった黄金について』の紹介でした。
小川さんが小説家としてやっていくと決意表明をしている書だと、私は考えました。
 
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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