【作品#57】『湖の女たち』
こんにちは、三太です。
明日からいよいよ新学期が始まります。
ということで、年末年始の1週間毎日投稿をしてきたわけですが、いったんここで通常運転に戻したいと思います。
1週間毎日noteを投稿するのは初めてで、なかなか大変でしたが、noteにずっと繋がっているような感覚は楽しくもありました。
また、1年間やそれ以上毎日投稿をされている方達の凄さを実感する1週間でもありました。
次回の長期休みの期間にできそうであればやりたいです。
では、今回は『湖の女たち』を読んでいきます。
初出年は2020年(10月)です。
新潮文庫の『湖の女たち』で読みました。
あらすじ
琵琶湖の畔にある介護療養施設で亡くなった100歳の男性、市島民男。
これは事故なのか、あるいは殺人なのか。
事件を捜査する西湖署の刑事、濱中圭介。
施設で働く介護士、豊田佳代。
ずるずると二人が陥っていく乱れた関係。
そして、激しさを増す警察の事情聴取に狂い出す人々。
事件の取材をするのは池田という若手の記者。
もともと追っていたのは90年代に起きた血液製剤事件。
その事件とある写真をきっかけに繋がる今回の市島民男の事件、そして、満州の731部隊、あるいは人工湖。
しかし、事件取材に見えない圧力がかかります。
真相は明らかとなるのか。
公式HPの紹介文も載せておきます。
出てくる映画(ページ数)
今回は本文中にはありませんでした。
ただ、本作が映画化されていますので、そちらを見たいと思います。
感想
時事的な話題に始まり、そこに歴史的な事実も繋がって、その重厚な展開がとても面白く、グイグイ読まされました。
気づいたらページを繰っているという感じでしょうか。
読み終えて思うのは、事件そのものよりも人間の内面に迫る物語だったのだなということです。
事件自体に明確な結論は出されません。
要するに、誰が犯人なのかは闇のままです。
けれども、うっすらと三葉たちの犯行が示唆されます。(三葉というのは佳代の勤めている施設の同僚の孫娘)
それは例えば、三葉のツイートなどからも伺えます。
三葉の考え方がそれとなく示唆されます。
そして、物語の最後にも犯行が伺えるシーンが出てきます。
この真相が明らかに見えない、けれどもかすかに見えているという構図は、まさに湖というものの見え方と同じだなと思いました。
圭介と佳代のインモラルな関係についても見てみましょう。
圭介は佳代に命令をし、そして佳代もそれを心のどこかで望んで、性的な関係に陥っていきます。
その陥り方はもう俗世間に戻っては来れないのではないかというほどです。
では、なぜ彼らはそんな関係になったのか。
こちらも明らかな原因を究明できるわけではないですが、なんとなく想像はできます。
例えば、圭介は上司からのパワハラによるストレス、佳代は国枝(彼氏)からの都合のいい相手としての見えないストレスを背負っているように見えます。
特に、佳代が人生なんてどうでもいいと思った背景には人間的なつながりの薄さ(母は8歳のときに亡くなっており、育ての親の祖母も亡くなって三回忌が終わり、父は新しいパートナーのもとにいる)も関係するように感じました。
『湖の女たち』には佳代が祖母から聞かされたという天狗の話が三つのポイントで出てきます。(p.14 p.200 p.359)
その話の中で、佳代は自分を連れ去る怖い天狗への憧れがあるように思えます。
それが現実世界では、圭介だったのです。
もちろんこれを佳代が言語化するわけではないですが、無意識にあるものをこの天狗の話が示唆しているように感じました。
市島民男が亡くなった事件は、戦中の満州、731部隊に繋がっていきます。
そういう意味でも現代がメインの小説ではありますが、その背景に先の大戦が陰を落としてもいました。
湖が問う在り方を冬の朝
以上で、『湖の女たち』の紹介は終わります。
人間の内面、あるいは無意識について考えさせられる作品でした。
それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。