【作品#30】『路』
こんにちは、三太です。
部活動の新人大会がありました。
うちのバスケ部は部員が5人しかいません。
今回の大会はもしものためを思って、一人助っ人をお願いしていました。
それでも大会当日の朝に、「二人来れないかも・・・」という状況にまでなり「これは5人揃わず不戦敗か・・・」と一時頭をよぎったのですが、結果的には6人ともなんとか来て大会に臨めました。
目標としていた結果は得られませんでしたが、賞状を持って帰ることはできたので、最低限はできたのかなと思います。
では、今回は『路』を読んでいきます。
初出年は2012年(11月)です。
文春文庫の『路』で読みました。
あらすじ
台湾高速鉄道を日本の新幹線が走り出すまでの2000年から2007年までの7年間とそこでつながる日本人、台湾人の物語。
物語は商社の台湾支局で働く多田春香の視点をメインとしつつ、台湾・新幹線に関わる老若男女数名の視点で進みます。
多田春香は金城武つながりで台湾に興味を持ち、学生時代から旅行に行っていました。
商社の海外進出がきっかけとなり、仕事でも台湾へ行くことを決めます。
そのため彼氏であるホテルマンの池上繁之は東京へ残すことになりました。春香は仕事に精を出す一方、学生時代に偶然台湾の路地で出会ったエリックという男性を探し出そうと奔走します。
エリックこと劉人豪(リョウレンハオ)も実は春香との出会いを忘れられずにいました。
春香が神戸に住んでいるということを知っていたので、阪神淡路大震災が起きた時にはいてもたってもいられず、ボランティアとして現地へ赴くほどでした。
そして、春香との縁もあり、現在は日本の建築会社で働いています。
73歳(2000年時点)の葉山勝一郎は湾生でした。
先の大戦が終わった後、台湾から日本へ引き揚げてきたのです。
その時に一緒に引き揚げてきた曜子という女性を妻としました。
その曜子をめぐって、ある男性と台湾での忘れることのできない過去がありました。
陳威志(チェンウェイズー)は台湾南部の高雄県に住む青年です。
兵役を目前として、バイトなどをしつつフラフラしていました。
そんな折にカナダに留学していた張美青(ヂャンメイチン)という幼なじみの女性と再会します。
これらの人物が主な登場人物であり、それぞれに男女の物語があります。
そして、これらの一見つながりのなさそうな人物たちが台湾に新幹線を走らせるという事業の中で、つながりを持ち始める様子が描き出されます。
公式HPの紹介文も載せておきます。
出てくる映画(ページ数)
①「非情城市」(p.193)
②「シカゴ」(p.323)
今回は以上の2作です。
『路』はドラマ化しているのですが、映画化はしていません。
ドラマは一度見たことがあります。
また機会があれば見直してみようと思います。
感想
登場人物一人一人が人生をかけて頑張って生きている姿がとても感動的でした。
例えば、新幹線の試運転を迎えた多田春香をはじめとした関係者の感慨や葉山勝一郎の友人への60年越しの謝罪など、そこには人生が詰まっていました。
本書では2000年から2007年までの7年間が描かれるので、時間の重みが迫ってきたのだと思います。
春香やその同僚の安西誠の描写から考えさせられるのは仕事とプライベートのバランスの取り方です。
春香は彼氏の繁之がいましたが、台湾行きを決めました。
台湾に行くということは、すなわち数年間日本に戻ってこられないことを意味します。
快く送り出してくれた繁之でしたが、その後体調を崩します。
ここに関しては仕事とプライベート、どちらかを大切にしろとか、どちらも大切だというようなことは書かれていないのですが、台湾で新幹線を走らせるということについては、どの登場人物も全力でぶつかっていました。
また台湾で変わっていく人々の様子、特に時間に大らかになっていったり、なんとかなるさといったポジティブな考え方になっていったりするところも、文化の違いに徐々に慣れていく感じがして面白かったです。
p462で春香の心情として表される「台湾の人が日本を思う気持ちに比べると、日本人が台湾のこと(台湾と中国のこと)を知ろうとする気持ちは、あまりにもお粗末としかいいようがない。だからこそ、春香はいつか、台湾の人が日本を思う気持ちを、当の日本人が気づく日が来ることを願っている」というところに作者である吉田修一さんの思いを感じました。
南国の新幹線とましら酒
映画とのつながり
・春香とエリックとの台湾での出会い、そして一日を過ごす感じが映画「恋人までの距離」と少しつながるなと思いました。
・葉山勝一郎が湾生であることは映画「海角七号」で描かれた戦後日本に引き揚げた男性と同様です。
吉田修一さんはエッセイ「タイペイ、タイワン」(『空の冒険』)の中でこの「海角七号」にとても感動して涙を流したと書いていたので、そういった要素を書きたかったのかなと感じられました。
以上で、『路』の紹介は終わります。
台湾と日本の密接な結びつきを改めて感じられる物語でした。
では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?