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【閑話休題#24】よしもとばなな『なんくるない』

こんにちは、三太です。

この土日に部活動の春季大会がありました。
結果は3位でした。
優勝とはならなかったのですが、新人戦で負けた2つのチームに勝つことができました。
自分たちの成長が感じられ、とても嬉しかったです。

では、今回は吉田修一『あの空の下で』のエッセイに出てきた本を取り上げます。

『あの空の下で』には次のような記述がありました。

ちなみにタムくんは現在日本の雑誌でも連載を持つ漫画家で、『タムくんとイープン』という可愛らしい本も、すでに日本で発売されている。話の中で、よしもとばななさんの『なんくるない』の表紙のイラストもタムくんが描いたものだと知った。その本なら自宅の本棚に並んでいる。タムくんのイラストとは、すでに出会っていたわけだ。

『あの空の下で』(p.169)

これは「バンコク」というエッセイの一節です。

「その本なら自宅の本棚に並んでいる」ということは、きっと吉田修一さんも読んでいるはずということで読んでみました。

要約

本書は4つの別々の物語で構成されています。
「ちんぬくじゅうしい」「足てびち」「なんくるない」「リッスン」の4つです。
いずれの話も沖縄が舞台となっている点で共通しています。
そしてあとがきでよしもとばななさんも述べているのですが、沖縄に住む人ではなく、沖縄を訪れた観光客が語り手となっているところも特徴的です。
その観光客である語り手が沖縄で人と出会い、自然に触れ色々と変わっていくというのが大きな枠組みです。
また、「リッスン」にはそういう要素はないのですが、他の三つには「家族を失った哀しみ」が根底に流れています。

感想

身体に正直に、あるいは自分の思いに正直に生きている感じがとてもしました。
逆に言うと、沖縄に来るまでそれができなかったからこそ、苦しんでいたのかもしれません。
例えば、「なんくるない」の話の中で語り手の桃子が沖縄で出会ったトラという男性と恋人になって男女の関係を持っていくシーンがあります。
桃子の心情がとても正直に吐露されている語りなのですが、そしてそうなると性的でとてもいやらしい感じのシーンになるはずなのですが、そうはならずに性的というよりもむしろ聖的という感じで、それはよしもとさんのなせる技であり、舞台が沖縄ということがなせる技でもあるのかなと感じました。
そういう意味で沖縄の魅力をダイレクトにではなく、間接的に、でも確実にそこにあるものとして感じさせる作品であると思います。

あと一つ好きなシーンというか文章があって、それは「足てびち」のラストです。

生まれてから百年程度しかとどまることのできない場所、このちょっとした遊技のなかで、なんで時はそんなふうに残酷な勢いで過ぎていってしまうのだろう?ついこの間までいっしょにいたのにもう触ることができない。
そういうことがいくつもいくつもくりかえしあることに、どんな意味があるのだろう?
あの日幸せだった私たちを思いうかべたら波音や光と一緒に、欠けてしまった人の面影ばかりが浮かび、今はまだ目の前が真っ暗になる。しかし時の波が少しずつつらい思い出をけずって、いつか全てを光の中にかえすだろう。
闇を見て、また光が降り注いで、思い出を抱いて・・・うんざりするほどくりかえして喜びも苦しみもまたどこかへ消えていくサイクルの中で、立ち止まることも許されない人生の、私たちは単なる奴隷だ。
なのにどうして、こんなにもいいものだと思えるのだろう。

『なんくるない』(pp.70-71)

これは語り手の女性が、沖縄で出会った大事な人をなくしたことを知って思考するシーンです。
哲学的な感じが好きです。
そして、頭で考えてもそれを越えてくる身体という感じもいいなと思いました。

うりずんや思いに身体に正直に

吉田修一作品とのつながり

家族を失った哀しみが描かれているという点で、吉田修一作品では「実の親の不在」というのはよく出てくるテーマの一つなので共通するなと感じました。
いるはずの人がいない、あるいは大事な人がいなくなってしまったというのはきっと文学のテーマになりうるんだと思います。
文学で扱わないことには、その喪失の哀しみを癒すことができないからかなと。
よしもとさんの作品では「キッチン」も読んだことがあるのですが、この話でも家族の喪失が描かれていました。
もしかして吉田修一さんとよしもとばななさんは扱うテーマという点で共通点がある作家なのかもしれません。


今回は『あの空の下で』の「バンコク」というエッセイに出てきた、よしもとばなな『なんくるない』の紹介でした。

よしもとばななさんと吉田修一さんのほのかなつながりが感じられて良かったです。
そして、タムくんが描いた装画も素晴らしかったです。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました。


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