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【柳町光男シリーズ#9】「ミスティック・リバー」『さよなら渓谷(文庫解説)』より

こんにちは、三太です。

引き続き今週は毎日投稿を頑張ります。
 
では、今回は以前、『さよなら渓谷』の作品紹介をしたときに取り上げた「映画監督、柳町光男さんの解説」に出てきた映画「ミスティック・リバー」を紹介します。
『さよなら渓谷』の文庫解説に出てくる11作の映画のうちの9作目です。

吉田修一さんの『さよなら渓谷』の文庫解説が映画監督の柳町光男さんでした。
柳町さんは吉田修一さんを「紛れもなく真底映画が大好きな小説家」(p.240)だと述べた後、『さよなら渓谷』という作品もとても映画的だと言います。
例えば、「主題と主人公のすり替わりがなんとも映画的だ」(p.241)ということで映画『サイコ』を引用します。
また『さよなら渓谷』では市営団地のお隣さん同士が重要な登場人物として出てくるのですが、〈隣の家〉という視点からは映画『隣の女』、『グラン・トリノ』などを引き出します。
〈隣の家〉から〈隣の部屋〉、〈向かいの部屋〉まで押し広げて、まずは『裏窓』。
そして同様に『非常の罠』、『ノックは無用』、『仕立て屋の恋』、『ブロンド少女は過激に美しく』。
その後今回取り上げた『ミスティック・リバー』について触れられました。

ちなみに「ミスティック・リバー」については以下のような記述となります。

『さよなら渓谷』は16年前に起きたレイプ事件がトラウマになった女性と加害者の物語だが、私は、25年前の少年時代に受けた性的暴力がトラウマになったティム・ロビンスが実質的な主人公のイーストウッドの映画『ミスティック・リバー』を想起してしまう。性的事件のトラウマの他にも両者をつなぐものがある。後者ではボストンの町を流れる大きな川が登場人物たちの波乱の人生を静かに包み込むように映し出され、ラストの殺人は夜の水際で撮影される。『さよなら渓谷』の桂川は小さな河川だが物語の中で同じような役割を担い、描写される。冒頭、少年の死体が発見されるのが桂川で、ラスト、かなこが去った後に俊介と渡辺が語り合うのも、川面に月が揺らぐ夜の桂川だ。
 吉田修一がイーストウッドの『ミスティック・リバー』を観ているかいないかはどちらでも良い。小説『さよなら渓谷』には真に映画的な要素が多く含まれていることだけは確かなのである。

『さよなら渓谷』(pp.242-243)

「ブロンド少女は過激に美しく」までとはまた違い、「性的事件のトラウマ」「舞台の近くに川がある」という意味で取り上げられます。

では、実際に今から見ていきます。


基本情報

監督:クリント・イーストウッド
出演者:ジミー(ショーン・ペン)
    デイブ(ティム・ロビンス)
    ショーン(ケヴィン・ベーコン)
上映時間:2時間18分
公開:2003年

あらすじ

物語はジミー、ショーン、デイブの少年3人組がある通りで、ホッケーで遊ぶシーンから始まります。

          左からデイブ、ジミー、ショーン。


下水口にボールを落としてしまった3人は、歩道で工事中の乾き切っていないセメントに名前を書くイタズラをします。
それを通りすがりの男に注意され、3人はこの男を警察だと勘違いし、結果的にデイブが拉致されます。
そして、4日間監禁され、性的暴行を受けます。
デイブは命からがら逃げ出しますが、この体験はデイブに深い傷を残します。

話のメインはここから25年後。
町のコンビニのような店を経営するジミー。
一人息子を大事に育てるデイブ。
警察官としてバリバリ働くショーン。

            左がジミー、右がショーン。


ある日、ジミーの娘、ケイティーが行方不明となり、殺されていたことがわかります。
この事件にジミーはもちろん3人が大きく関わることになり、過去の事件もそれと重なるような展開となります。
そしてある人物が犯人と思われるところからの新たな真相への展開がとてもスリリングな作品です。

設定

・過去のトラウマ
・勘違い
・殺人事件

感想

面白かったです。
あらすじの最後がネタバレのような感じですが、ここで思い切って映画前半の構図を言ってしまうと、「幼馴染の3人がケイティー殺害の事件に関係しており、デイブが殺して、殺されたのはジミーの娘で、捜査するのはショーン」という状態が暗に示されます。
けれども、この構図が徐々に崩れていき、最後に真相が分かります。

しかし、映画の中で明示される真相は本物ではない気がしました
まだいくつかの謎が残っているのです。
例えば、ケイティーの事件で録音された通報者の声は女性ですが、逮捕されたのは女性ではありません。
それに逮捕された者の動機も今一つよくわからないところがあります。

ネタバレで言ってしまうと、私はジミーの今の奥さんであるアナベスがとても怪しいと思います。
通報者の声が女性というところは合致しますし、何より動機があります、というか説明できそうです。
殺されたケイティーはジミーの前の奥さんであるマリータとの娘です。
ジミーとアナベスの間には別に二人の娘がいます。
要するにアナベスとケイティーは血が繋がっていません。
また、ジミーはマリータと仲違いして別れたわけでなく、がんで死別していました。
そして、ケイティーのことはとても愛しています。
アナベスがこのケイティーの存在をうっとうしく思う動機はあるように感じました。
けれども、実行犯はおそらく別です。
でも、そこと繋がっているような気がします。

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その他

・ウィキペディアより
→第76回アカデミー賞で作品賞を始めとした6部門にノミネートされ、ショーン・ペンが主演男優賞、ティム・ロビンスが助演男優賞をそれぞれ獲得した。 

吉田修一作品とのつながり

・柳町さんの指摘通り「性的事件のトラウマ」「舞台の近くに川がある」ということは『さよなら渓谷』とつながるでしょう。
 それに加えて言うなら、幼い頃からの関係を引きずり、町を出られなかった(出ていなかった)ジミーが、『悪人』の祐一につながるような気もしました。

以上で、「ミスティック・リバー」については終わります。
謎が残った上でも、面白い作品でした。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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